第3回青春短歌甲子園 感想
第3回青春短歌甲子園の上位百首から、好きな短歌を選んで感想を書きました。
https://note.com/seisyun_tanka/n/n5eb0805400ad
四時間目風邪で早退したはずの今井と辻のインスタに海 ペンギンおじさん
決して斬新なアイデアではないが、完璧に出来上がっている短歌だ。
早退したやつらのインスタに海がある。そっくりな海だろう。
「こいつらグルでサボったんじゃないか?」とわかる。今井と辻が、名字なので男女かどうかわからないところも良い。
また、学校に通っている時分の子供たちはあだ名や名前で呼び合うことが多いので、もしかしたらこの語り手は今井と辻とそれほど話したりしないのかもしれない。
だが、インスタで彼らの気分を共有してしまったのである。
エンドロール 人それぞれが持っている孤独と向きあうための数分 雨
発見の短歌だが、実はこの短歌の面白さは隠れた部分にある。
エンドロールが孤独と向き合うための時間になるという。その発見が際立つのは、エンドロール以前の映画が、大きな映像と音響で、人の視線を釘付けにするものだからだ。
エンドロールになってようやく人は解放され、しかし席には座っている。
映画を観に来る人は孤独とは限らない。だが、映画を観ていた時間にくらべると、ひとりひとりになっているのだ。
戻れないものが青春ではなくて戻そうとすることが青春 街田青々
よく考えると「戻れない」ことと「戻そうとする」ことは矛盾していないが、「戻れない」と諦めてしまう人間に青春はなく、「戻そうとする」人間のあこがれのうちに青春はある。
この、過去を振り返る立場で書かれた短歌は、現実の青春時代の人にも通じるだろう。青春は、かなわない夢にあこがれ、苦しみ、しかし諦められないことだからだ。
はつなつのプールの中で泣いてみた ぼくのなみだでみんなおぼれろ みそ
「泣いてみた」と言っているうちは、まだおどけている。試しに泣いてみただけなんだ。
それが「みんなおぼれろ」となるときに、あらゆる人に敵意を持って、涙は「本物」になる。
泣いてみただけさ。おぼれろ。泣いてみただけなわけがないだろう。
帰ったらLINEで連絡するからね!悪夢はどこまで続くのだろう 雪野菜帆
青春の苦しみ、と言葉で言えば青春の苦しみはわかるだろうか。実際の思春期の苦しみはもっとつらいものだ。
「青春なのに苦しい」「青春だから苦しい」といった言葉遣いでは届かない、実際の苦しみがある。
ひとりになった時間にも、同級生からのLINEが追いかけてくる。
LINEというプログラムのせいで苦しいのか。
違う。LINEをする友達がいるなんて青春だね、と言われそうなのがつらいのだ。
苦しいだけじゃない。苦しみがわかってもらえない。
私自身の短歌はこれでした。
竹馬の上から国を見晴るかす俺の名をまだ誰も知らない 中本速
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