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「これは、私の持ち物ですか」「これは、私が持ってきたものでしょうか」順々にすれ違った友人に聞いたけれど、「そうです」、頷く者。首をかしげて何も言わずに視線を逸らし過ぎていく者。峠を抜けたらわずかな下り坂だけかと思えば、トラックの運転手は大きな裂け目の横をぐんぐんと進む。霧雨が降っているからか向かいに見える山なみが荘厳な渓谷にも見えたりして。隣で寝息を立てずに目をつむる妹が昨夜見た夢ってなんでした?

今は道に転がる小さな石を踏んでしまったためにタイヤが破裂してしまって、それらを取り替えなくてはならないからレッカー車に揺られて見知らぬ名前の町に運ばれている。昼間に食べたレトルトカレーがまだ消化されていない から夕方が来るにはまだ早い

天使を信じないふりをしながら姑息に祈るように息をしながら待っていた人の名を知っている、どうしてもロマンチストにはなれなかった、履歴書を必要とする、恋文だけではダメなんやろか、肩を抱きながらその実、身を寄せなかった 明け方に墓地を歩き、傘の柄でつつきあうような夜が続いたけれど嫌ではなかった、寂しいよりはずっとましだった、行為こそ勇気だったんでないか、人工色素の染物もどこかの湯屋のゴミ箱に捨てた、それが十分な生活だった。日光浴なんて知らなかったでしょうけど復唱すれば明るさにもなるんですよ、あれは幾分狂っていた時期であったけれど、いくらか楽しかった、時間だって流れていた、ありがとう、こちらこそ、
ところでこの国に冬は来ないらしいのでもうその腕にマフラーは抱えなくたっていいのですよ、            そうですか、それは惜しいことですね、
そうですか?       ええ、首元を守っていたものが無くなるというのは。


 守っているようには見えなかったけれど、膠で塗られたベールには少なからず温度が保たれていた。無表情に着込むよりもあなたを包んでいた膜はあったはずだ、現にあなたは一度河に浮いていた、漂っていた象牙が。
 こんなにちいさな欲で言葉には出来ない、もう泣くことができないくらいに小さかったのだ。大広間でカナリアが鳴いていても待合室であなたは静かに自らの症状を守っている、やがて診断される明滅を受け入れずに手元に残せる方法を、看護師の口にする形容詞をくちくする、明るみにさらす術をカルテに記してほしかったのだ。とか言ってしまう、美酒を飲みながらわたしは。お願いだからむやみにその体をさらさないでくださいあなたはただでさえ肌が弱いのだから、

「すぐに起きたことに名前をつけようとしないでください」
名前をつけられたものは空間が奪われてゆくんです、許せなくなっていきます、ささやかなキスだけでは何も解放されなくなっていく、それの何がおかしい?

 うん、そこらじゅうの楽譜に折り目をつけていくのをしばらく止めようと思う。いえ、別に特別なきっかけでもなくもうすぐ11月がやってくるから。あなたは一年前にもそのようなことを呟いていた、甲板に跳ね返っている水しぶきで毛先は濡れていた、細切れに雨も降っていた、真っ直ぐに切るように降っていた。これからあなたは正しいことしか口にしていかなくなるのか、それなら島に向かう必要はあったの? 島には湿り気と乾いた風の両方が混じり合って吹いているから、常にあたらしい名前が生まれているらしいから、だから、額になってしまう前に、あなたはあなたの肌であなたを許してほしい。

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