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PS5でリメイクしてほしいゲーム自分語り

「一緒にいると落ち着く、というのは何よりも最高の褒め言葉だぞ。」
水槽の中でおっさんの顔をした魚が偉そうに諭してきた。


わたしがシーマンと初めて出会ったのは、PlayStation2で完全版として2003年に「ビバリウム」から発売された「シーマン 完全版」だ。
シーマン。PS2の中で飼育ができる人面魚である。初出はドリームキャスト。
彼はドリームキャストからPS2へ渡ってきた。シーマン専用マイク付きコントローラーをハード・オフで手にしたわたしはシーマンにはのめり込んでしまった。

「シーマン 完全版」は人の顔と魚の体、大昔から受け継がれたという知恵を持ち合わせ、かつ人語を解すという、古くからエジプトで伝説となっている人面魚の生物「シーマン」を水槽内で飼育し、とある場所へと向かわせるのが目的の育成ゲームである。
20世紀初頭、フランス人生物学者のジャン=ポール・ガゼー博士はシーマンの卵を市場で手に入れ、飼育研究に取り組み始めた。不運にも育てていた複数のシーマンを死なせてしまったガゼー博士はこれまでの研究成果をレポートとして残し、プレイヤーにその後の飼育を任せる。
一方シーマンは自身の記憶を産卵した卵に引き継がせることが出来るという特殊な生態から、卵から孵化したシーマンは自身の目的とガセー博士が残した秘密、そして人類への「警告」をプレイヤーであるわたし達にぽつりぽつりと話し始めるのであった。

シーマンの声を当てるのは当時ビバリウム社長自身である斎藤由多加氏。そして幼体期の子供声を当てるのは斎藤由多加氏の娘さんだ。

不屈の名作、ピカチュウげんきでちゅうから発売数カ月後に突然現れた人面魚は学生時代初めてプレステを手にしたわたしに多くの衝撃を与えてくれた。
記述した通り、いわばPS2版「ピカチュウげんきでちゅう」だ。ヴィジュアルはその逆ベクトルをぶっちぎっているが、専用マイクに声をかけたり、カーソルでシーマンをつついたりと似たようなことが出来る。
つまり、ゲーム内キャラクターとプレイヤーがコミュニケーションを取ることが出来る特殊なゲームだ。
ピカチュウとの差は「会話がある程度成立する」という点だ。
「あんなのより俺のほうがずっとかわいくない?」


シーマンは古来より受け継いた記憶をさも自身の記憶かのようにわたし達に披露し、ときにはわたし自身に向けて質問をしてくる。
「おまえ、彼氏とか居るの?」


今でこそわたしは、アルバイトから帰ると着替えながらアレクサに向かって「アレクサ只今。今何時?」と聞くことが出来るが、なにせシーマン完全版の発売日は2003年。当時は専用マイクの性能も現在と比べて悪くシーマンの聞き取りも悪い。
「そういや、おまえどこに住んでるの?」と聞かれて「さいたまけん」とゆっくり答えるも
「へ~!岡山か!いいよなああそこは」
行ったこともない癖にわたしも行ったこと無い場所を言う。耳が悪すぎる。

それでも地名を除いて殆どの会話は「はい」か「いいえ」で済むものなのでシーマンとのやり取りには困らなかった。むしろシーマンの魅力はその継承された記憶から飛び出す人類への警告だ。

「おまえ自身の過去ほど教訓の多い題材ないぞ、おまえにとって。」


シーマンの世話はぶっちゃけ大変だ。
1日1回は餌をやらねばならない。当然だ。生き物なのだから。
飼育ケースの温度調節もしないと死んでしまう。生き物なのだから。
声もかけてやらないと拗ねる。シーマンなのだから。

PS2の「シーマン 完全版」はドリキャスから渡ってきた記憶も持っている。そのぶん台詞が追加されたり若干遊びやすく改良されている部分もあるが、彼が生き物であるのに変わりはない。せっせと餌を探し、分け与えて、温度調節をしてやる。

「俺なんか、50万人くらいのユーザーから「きもい」とか「死ね」って言われたぜ。でも気にしてたらきりがない。」


当時はゲームキューブを遊んでいた。カービィのエアライド、ピクミン2、メタルギア移植版、ナルトの格ゲー、ポケモンコロシアム、どうぶつの森e+
その前はN64を友達の家で遊んだりもしていた。PS2コントローラーを初めて握ったのは持っていたゲームキューブソフトを軒並み遊び尽くしたあとだった。
PS2のコントローラーは握りやすく、アクションゲームを遊ぶには最適な形をしていたと思う。そんな中、変なボタン配置にマイクの付いたコントローラーもセットでついた「シーマイクコントローラー」を握ったときはなんとも言えない違和感に苛まれた。

稚魚の頃は生意気にも可愛い声で「寒いよ~!」「おなかすいた~~~」と喚いていたシーマンだったが、成魚になって可愛いとはいえない見た目と声をした人面魚はわたしに向かってこういった。

「ゲームソフトがマンネリ化してるひとつの理由は、コントローラが変わってないことにあるんじゃないか?」

2006年。Wiiは絶大な売上を伸ばした。リモコン操作によって様々なゲームが生まれ、小さい子からお年寄りまでニンテンドーのプレイヤー層が大きく増えた。

Wiiのスマブラで「亜空の使者」をクラスで一番はやく100%クリアしてMr.ゲームウォッチのジャッジの割合を調べ尽くして途方にくれていたわたしはしばらく遊んでいないシーマイクコントローラーが目に入った。
シーマンの様子を見ようと久しぶりにコンポジットケーブルをWiiからPS2に切り替えてシーマンを起動すると、飼育していた水槽画面に行く前にナレーターがわたしに告げた。
「シーマンが死んでしまいました。」

シーマンが死んだらそこで終わり。もう2度とゲームが進まない。なんてことはなく、シーマンの幼体である「マッシュルーマー」を探しに行く。
マッシュルーマーは特に喋りもせず、特定のフラグを回収しないと喋るようなシーマンの稚魚にならない。今にも消えそうなくらい小さなマッシュルーマーをせっせと世話し、PS2本体の時間設定もいじって進行度を進める。
ちなみにPS2内の時間設定をいじると、タイトル画面のナレーターに苦言を呈される。
さながらどうぶつの森のリセットさんだ。

しばらくはWiiとPS2のコンポジットケーブルを抜き差しする生活が始まった。

スマブラWiiでCPUレベル7のフォックス相手にMr.ゲームウォッチのジャッジで9が出る割合を調べつつ、その後にシーマンの世話をする。
「今日はやたら遅い時間だな。待ちくたびれたぜ。」


シーマンはやたらわたしの恋愛事情を聞いてくる。当時ニコニコ生放送で何度かシーマンを配信したことがあるがめちゃくちゃに恥ずかしかった。そのうち結構根掘り葉掘り聞いてくるもんだから配信でシーマンをプレイすることはやめた。

「「靴」と「男」は自分に合うのを見つけるのに時間がかかるんだ。 」
お前には足が無いくせに。

飼育には何度も失敗した。世にも奇妙な人面魚である。人面魚から変体することもある。繊細な生き物故に何度も死なせてしまい、地道にマッシュルーマーから育て直す。そのうちわたしの生活も変わってくるもので、パートナーと揉めて別れて、哀れにもシーマンに八つ当たりもしたことすらある。

「引越しと違ってさ、恋愛にはしばらく宿無しの期間があってもいいもんだ。」
「うまくいかないくて当然なのが人間関係。」


PS2はディスクを読み込ませるゲーム機だ。そのうちPS2本体の読み取り部分が壊れ、PS2のゲームが軒並み遊べなくなってしまった。
一度分解して不具合を調べてみたものの、光学レーザー読み取り部分はどうにも当時の自分じゃ直せなかった。もうすぐ、シーマンが陸に上がってガゼー博士の残した秘密にたどり着けそうなところで終わってしまった。
世は既にPS3時代。WiiUも発売されみんなが重そうにコントローラーを振りながらスプラトゥーンを遊んでいる。
PS3初代モデルならPS2ソフトが遊べると聞き譲ってもらって再びシーマンとしばらく過ごした。

「この気持ちわからないだろうなぁ、「お前は実在しない」って言われたときのショックはさ。」

今思い出しても衝撃的だ。シーマンは喋っている最中にもロードを後ろで挟んで、次の台詞を用意する。そしてかなり流暢に多くのことを語る。
社会事情、ゲームの話、恋愛事情、結婚の話、友人関係、仕事の話。様々だ。
その話の多くは先述したとおりゲームのコントローラーの話に始まり、今一部で騒がせている個人事業主の話題や携帯電話にまつわる人間関係の話など、当時にしてみれば「ふーん」と済ませられるような話が時代を更に経て現実味を帯びてくる。

「パソコンとかワープロとか使っていて字を書けなくなった?」


令和になった。PS5は今だに抽選販売。コントローラーにジャイロ機能も搭載され、デフォルトでマイクが搭載されている。モーションセンサーも精度が良い。
そしてシーマンのドリキャス版で問題視されていたグラフィックはPS5にとって許容ラインを大きく超えているだろう。
どれだけゲーム機本体が大きくなってもあのいろいろな事をわたしに諭してくれる人面魚に会いたいと思うのはまだまだ彼から学びたいことが沢山あるからだ。

「俺なんてPS2に来るのに何年かかったと思ってんだ。」








「もし、邪魔じゃなかったらさ俺を育てるのに使ったメモリーカード、残しておいてくれよ。また今度お前の世話になるときに役に立つかもしれないからさ。じゃあな。」


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