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ファジーさに富むロングスロー

懐かしいホイッスルの音とともに、涙を流し倒れ込む選手、仲間と抱き合う選手。

「ああ、6年前はこんなだったなあ。」とテレビの前でひとりつぶやいた。

ぼくは全国大会へは出ていないが、その直前の県大会までの出場経験はある。
夢の舞台だった高校サッカー選手権の今について、少しだけお付き合いください。

今大会のトピック

第99回高校サッカー選手権大会決勝。山梨学院VS青森山田高校はPK戦の末、山梨学院が制し幕を閉じました。毎年の冬に開催される高校サッカー選手権も次回で100回目を迎えます。近年ますますレベルの上がっている高校サッカーですが、今大会を通して気になったひとつの話題について考えたいと思います。

今大会のトピックは「ロングスロー」ではないでしょうか。その是非が一部SNSやネット界隈で議論されていました。ですがこのロングスローは今に始まったことではありません。数年前からひとつの得点源として各校用いていた戦術でした。その背景には競技性や大会レギュレーション、勝つ事へのこだわりや、得点までのプロセスではなく得点という結果が求められるということなど、複雑に絡み合っているように思います。そこで今大会を通して激しく議論されたロングスローについて考察したいと思います。


ロングスローのポジティブさ

まずロングスローのポジティブな面としてチャンスを作り出しやすいという点があります。ロングスローでは非常にファジーなボールがゴール前に供給されます。特徴としてCKやFKのようにある程度のスピード感や球威を持たず、山なりに放り込まれるボールは、DF陣のクリアミスを誘います。今大会でも多くみられたのはロングスローのこぼれ球を押し込まれるシーンだったのではないでしょうか。勝ち上がるために相手より1点でも多く取る必要があるため、多く訪れるスローインの機会でロングスローを用いることはとても納得できます。

そのため現時点で高校サッカーにおけるロングスローは効率的にチャンスを生み出し、なおかつ勝つために非常に合理的な戦術であると思います。

ロングスローにおけるハイボールの処理に手を焼いている印象がありますが、ゴール前での混戦を制す際にポイントとなるのはゴール前での駆け引きや、ポジショニングです。今後駆け引きやポジショニングの上手いFWやDFの選手が出てくることでゴール前での熾烈なポジション争いが増し、より一層高校サッカーは発展し、日本サッカー全体の底上げにも繋がるのではないでしょうか。


ロングスローのネガティブさ

ロングスローのネガティブな面として「ファールスロー」があげられます。今回気になったファールスローのシーンと、ルール上の記載を照らし合わせると以下の様に規定されていました。

スロワーは両足ともその一部をタッチライン上またはタッチラインの外のグラウンドにつけること。

今大会を数試合観ましたが、画面上からは上記のルールに引っ掛かるようなシーンが何度か見受けられました。スローインのチェック(あからさまなファールスロー以外)について、レフリーはとてもファジーなのです。

確かにファールスローをチェックしだすとキリがないことや、たかがスローインのチェックのために、試合の流れを止めたり、テクノロジーの導入や審判の増員を行うことが難しいのも事実でしょう。しかし、現在高校サッカーにおけるトレンドと化し、直接得点に結びつくあるいは相手の脅威になり得るロングスローのファールスロー問題は解決することが求められている気がします。


もうひとつのネガティブな面として高校サッカーの「ガラパゴス化」があげられます。この問題点はロングスローが高校サッカーの中で市民権を得た場合(そんなことはほぼあり得ないと思いますが。)、高校サッカーや日本サッカーの発展はあるのかという問題です。今のところ各校ともに基本戦術やスタイルがあり、勝つためのオプションのひとつとしてロングスローがあるといった風潮です。そのためそこまで危惧してはいません。ですが、今後「サッカー」ではなく「高校サッカー」に最適化された戦術を多用するようになれば、日本サッカーの衰退は免れないと感じています。

そもそも、全国大会に出場するような選手は卒業後、プロの道へ進んだり、大学へ進学したり、実業団チームに所属したりと、上を目指しサッカーを続けていく選手がほとんどだと思います。そういった次のカテゴリーでも通用する選手を育成することもひとつ高校サッカーの意味である様に思います。「勝つ」というひとつの結果を求めることもとても重要ですが、そこに至るまでのプロセスをきちんと評価し学び、成長していくということが部活動における「高校サッカー」の重要な点であるように思います。


最後に

以上が今大会を通して考えたロングスローの是非です。ロングスローの多用を「アンチフットボール」などと言うつもりはありません。彼らにとって「今」この瞬間必要なのは勝つことであり、この大会で優勝することが目標なのです。今まで積んできた時間の集大成が結果として現れる瞬間なのです。そんな瞬間に水をさすつもりはさらさらありません。

勝つためのオプションとして使用するロングスローは脅威になり得ます。その対応としてポジショニング、駆け引き、その上でハイボールへの処理はこれから求められる能力であるように感じます。日本サッカーの成長、そして高校サッカーの更なる発展を願いこれからも我々サッカーファンを楽しませてほしいと思います。


山梨学院の皆さん優勝おめでとうございます。
そして高校サッカー選手権へ出場された全ての選手の皆さん、お疲れ様でした。

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