子宝三昧
子供を作らうと思ふ――。
そう厳かに言うと、彼はアタシの身体に巻かれたビニールラップに手を伸ばした。アタシは首から上だけを残して、しっかりラッピングされているので、基本的に直接接触を行うことはできないようになっていた。もちろん、キスなども禁止だ。
マスクは手作りだけどヸトンの本革製で、実際にヸトンのハンドバックを切り開いて作ったものなので、セクシーさよりも高級感が勝っていると思う。
そして、通気性ゼロで頭がくらくらする。
ラップは一巻きごとに圧迫感が強くなるので、五十メーター巻を二本使い切ったから、心地よいほどにぐるぐる巻きのミイラ状態で、指一本動かせない。
只今より沢山の子供を作らうとぞ思ふ――。
彼は麻呂じゃない。
でもすごく紳士で、どちらかというと貴族で扇子があり、その先に羽毛の刷毛みたいな飾りがついていて、それでアタシはの肌をラップのうえから撫でるのだけど、ラップってわりと丈夫で熱は通すけど羽毛程度の触感は全然通さない。
アタシは首から下げた商品タグが首筋の辺りにずり落ちて、その角でうなじがチクチクして痛痒くてもじもじしていた。
商品タグにはドEUR1050.99と書いてある。豪華な箱に詰められて、彼に開封されるまで、生まれる前の子供の用に眠っていた。
素敵な名前を付けてもらえるといいなと思っている。
幾たびも昼夜星霜問わずして和子の見たさに種をば撒かむ――。
彼がアタシの頭の下にぐいっと手を突っ込んで、上半身を抱き起そうとした。でもラップでがんじがらめなので、腰を曲げることができない。骨盤と、ももの付け根あたりと、腕の関節辺りのラップが丸まって細いひもみたいになり、締め付けが強くなって痛い。
彼は少しだけできた箱と腰の隙間に手を当てて、アタシをしっかりと抱きかかえ箱から出してくれた。でも、そのまま乱暴にベッドの上に放り投げた。アタシはうつ伏せになってしまって、ヸトンの革マスクが鼻と口に密着して息ができない。
その背中越しに、彼がカチャカチャとズボンのベルトを外す音が聞こえる。こんな、拘束状態のままでどうしようというのだろう。これはこれで気持ちいいんだけど、やるからには一旦剝がないと何もできないんじゃないかと思う。
べろん、と彼がアタシを仰向けにひっくり返した。
彼は素っ裸になっていた。
大した裸じゃない。お腹はぶよぶよして、そのくせ胸には全然肉がない。
このたびはよろしく存じ奉らむ――。
彼はアタシに覆いかぶさってきた。
そしてアタシのあごの下に鼻先を突っ込み、すはすはとアタシのうなじの匂いを嗅ぎながら、ラップを巻いたままのアタシの身体のうえですこすこと腰を動かし始めた。
あったかい。
それは伝わるけど、後は全てラップ越しで、むしろラップの圧迫感の方がはるかに強いので、首筋の吐息だけがそれらしいアレだった。
もしかしてこのまま出して終わりだろうか?
そもそもラップにこすりつけただけで出せるんだろうか?
何のために高いお金を払ってアタシを買ったんだろう。
でも、その二か月後、彼の部屋の片隅でラップを巻かれたまま放置されているアタシの横には二人の女の子がいた。
一人は十三歳で、もう一人は九歳だってよ。ちなみに二人とももう既に非処女。アタシだけが未だに処女のまま、マスクさえとってもらえずほっとかれてる。
次は男児が欲しいとぞ思ふ――。
テメー覚えとけよな。自由になったらゼッテー通報する。つかマジむしろコロしてやっからな。マジで。