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スマート林業の罠

スマート林業の技術は手段であって目的化するものではない。
そしてそれを活用する技術者と作業を実行する技能者は基本をしっかり押さえておく必要がある。
スマート林業技術はそれらをサポートするものであり、新規就労者の敷居を低くするものと私は考えている。

最近、スマート林業について考えさせられる場面があった。
ある会議でのこと。
原木の調達をしたい団体から意見を求められる場面があった。

先方
山に一歩も踏み入らずに森林の状況を把握し、立木を買いたい。
ドローンで林内を飛び回り、レーザーで木のサイズや数量を把握すれば、購入まで行けるものか。

北川
結論としては難しい。
大前提として、真値は誰にもわからない。 

航空レーザー計測で樹高から胸高直径を割り出している事例はあるが誤差が大きい。(最大3割くらい実績と乖離していたり)

地上レーザーで立木の形質を把握し、採材プランまで示すことは可能ではあるが、芯の腐りや地上度の高さに受け口を彫るかで採れる材種は変わってくる。

森林作業道の線形をAIが提案してくれる技術もあるが、結局、現場の様々な要因で順応的な変更は必須。

また、森林には所有者が居て、実際に見た人が山の評価をし、実体験に基づく提案が売買には不可欠。

要するに変数が多すぎて山に一切入らずに森林を評価することは難しいと考える。
概算は可能だが、そこにお金を付けられるのか。
スマート林業を否定するつもりもないし、大変便利な代物だが、万能ではない。

先方
出来ない理由を聞きたいんじゃない。
我々はできる方法はないか聞きたいんだ。

おっしゃりたいことはわかる。
できな理由ばかり並べていても進歩はない。
ただスマート林業の現在地を知ってほしかっただけだ。
スマート林業を目的化しているわけではないが、技術者や技能者を軽んじている点にげんなりした。

先述のとおり、林業には変数が多い。
天気、地質、地形、埋設物、立木の状態(外見と中身)、伐倒時の受け口の高さ、立木の裂け、丸太市場、森林所有者の考え・・・
どの業界でも言えることだと思うが、この数値化できない変数をどうひも解いて関係者みんなの落としどころを設定するかが、技術者や技能者の腕の見せ所。
スマート林業に括られる技術を活用し、そこに経験則を加え、目の前の森林をどう仕立てていくか考える必要がある。

コストの面においても同様だ。
スマート林業に係る道具の導入には(ピンキリだが)コストがかかる。
それらを考慮して導入を検討したい。

今後を見据えて

スマート林業の技術は今後も必要になる。
技術は益々便利になる一方で複雑化していくかもしれない。
スマ林の技術には触れ続け、計画段階と実績の検証を比較し続けることが大切だ。
そうして変数の特徴や傾向を捉え、本当の意味でスマ林の技術を使いこなせる人材になっていけるよう、仲間たちと研鑽を積んできたい。
年をとっても新しい技術にアレルギーを持たないよう前向きに!


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