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葡萄畑の仙人

仙人爺ちゃん、俺、旅に出るんだ。まず、北海道の牧場でアルバイトして、世界中の行きたいところへ回って歩くんだよ!

買ったばかりのアコースティックギターを背負って、原付きで山を登った俺。葡萄畑を管理している歳の離れた友人に嬉しそうに話す。友人は、静かに頷く。

この友人とは付き合いが長く、持ちつ持たれつの関係である。おおらかな人物で、仙人のようだから、葡萄畑の仙人爺ちゃんと呼んでいる。彼には突然、僕はもうあなたの家に行くことはありません、と宣言したり、十年後にまた来ます、といって驚かせたりした。

『ギター買ったんだ?』仙人爺ちゃんは言う。彼は昔、ロックバンドのボーカルをしていたという話を聞いた。

俺は、弾けもしないギターを背負って、
『これで全国を回る、フーテンの寅さんみたいなことをするんです』といった。

『北海道かぁ、寂しくなるね』
『僕もですよ、元気にしていて下さいね』

そうして、下山。荒れ果てた葡萄畑の手伝いを、毎年微力ながらしているけれど、来年は仙人爺ちゃんひとりでやらなきゃな、大変だな、とおもった。

ラブホテルが安いからという理由で、ひとりでラブホテルに入った。そこで、怖い幻覚を見てしまった。旅は中断せざるをえなかった。
その話はまた今度。

今年も仙人爺ちゃんの葡萄畑を手伝ってきた。ひとりでやるのは大変だから助かると言われた。来てよかった、旅回りも魅力的だけれど、きっと僕は、生まれ育ったこの街で、静かに暮らしていくのだろう。
それで、いいんだ。

心からそう思えた。まだ、畑仕事は続く。なんてことのない日ではあるが、きっとかけがえのない日々なのだろう。


躁鬱日報、本日はやや欝のちフラット

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