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絶望人類とワラワラ星人

晩秋の裏通りのような時代だった。未来に希望を持てるのは、もはや一部の支配階級に限られた。この時代の支配者はイカ星人とタコ星人で、彼らは2045年に火星から襲来した。
高度な文明を持ち、好戦的な気質の彼らは、瞬く間に、人類を支配してしまったのだ。
人類は希望を失い、退廃的な営みを続けていくしかない。誰もがそう考えた。

【100億人の絶望人類】喫茶店の窓際の席で、新聞の見出しに目を通して、ワラタは笑った。ケタケタ、ケタケタ。

彼の笑顔はこの時代では珍しいものだった。道を行く年老いた歩行者、彼の連れている飼い犬までもが、首を項垂れて、暗い表情をしている。

ワラタは新聞を隅から隅まで読んでは、わーっと叫んだり、笑い声をあげている。店内でボソボソと話をしていた婦人会の面々は顔を見合わせて、ワラタのことを頭のおかしい人物ではないか?と話し合っている。

「あー笑った、笑った」ワラタは新聞を折りたたんで、パンッと鳴らした。死んだような空気の流れている店内に音が響く。
「ひい!ちょっとあんた、うるさいじゃないの、驚かさないで」
婦人の一人が言った。

ちょうど窓辺で煙草に火をつけたワラタに、婦人は追い打ちをかけるように叫ぶ。
「あんた、煙草は二十年前に違法になったでしょうが、警察呼ぶわよ」

ワラタは目を丸くする。先程まで恵比寿様のように目尻を下げていたワラタだった。
「なにさ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔しちゃって!」
「違う、これは怒っているときの顔だ。タコ星人とイカ星人は、人類に煙草を禁じたんだね、なんということを。許せん」
「なにをゴチャゴチャと、あんたたち、やっちまいな!」
婦人会の面々は、胸元からヌルっとヌンチャクを取り出して、ブンブン振り回し始めた。
「ケタケタケタケタ。なんという物騒な、ここは世紀末か?」
「イカ星人とタコ星人のせいで、街の治安は悪くなるばかり、婦人会だってこのくらいの武装はするのよ」
「そうよそうよ」
「そうよね~」

「ケタケタケタケタやっぱり、君たち笑えるよ」

笑ったワラタは、煙草を口に銜えた。
「よし、僕もファイティングポーズをとっちゃうぞ。いっくぞー」
「来るわ、気をつけなさいあなたたち」

バキバキ、バキバキ、バキバキ!婦人たちが固唾を飲んで見守るなか、ワラタは姿を変えていく。
「背骨が伸びていく、まさかあなた、イカ星人やタコ成人と同じ、異星人なのっ?」

「よくわかったね、君たち。やっぱり笑えるよ、うお~」
ボキボキボキボキボキボキ。
「ふあー、お・ま・た・せ」
欠伸をするワラタ。
顔を見合わせる婦人たち。
「なにか、変わったの?」
「やっぱり変身よ」
「変身よねー」

ワラタは大爆笑する。
「ケタケタケタ、今のは、身体を伸ばしただけだ」
「あなた、異星人なの?」
「ケタケタケタケタ、タコやイカにいいように支配されている君たちは笑えるねえ、教えてあげよう、僕は、ワラワラ星人だ」
「・・・ワラワラ?」
「聞いたことある?」
「ないわ」

ワラタは、やれやれと首をふる。
「なんだ、知らないのか。地球人は遅れているねえ」
「ハッタリよ、こいつ。構わずやってしまいな」リーダーの婦人がいう。
「そうよ、そうよ」
「そうよね~」

ブンブンブンブン、3人のヌンチャクがワラタの眼前に迫るー!

つづく



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