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物流センター立ち上げ時の失敗から学んだこと

物流センターの立ち上げ時や移転時はかなりの確率でセンター業務が混乱し、物の流れが滞留してしまいます。
私は過去に5度、センターの立ち上げ・移転を経験して来ました。
振り返るとそのいずれもが失敗だったと思います。自分なりにその失敗の要因を分析した結果、下の三つの要因に要約できると考えるようになりました。
 
1)      人的要因
新センター立ち上げ時はもちろん、センターを遠方に移転する時は既存の作業員(主戦力のパートさん)の多くは退職することになります。社員なら転勤することになりますが、パートさんはなかなかそうはいきません。現場力としてはかなりの戦略ダウンとなります。いわんや新センターなら経験者ゼロの状態での立ち上げとなってしまうかもしれません。
想像してみてください、仮に現在の自分の倉庫の作業員が全員明日から新人に入れ替わるとしたら。現場がどんな状況になるか容易に想像できると思います。考えるだけでもぞっとしますよね。
もちろん新人のための事前説明会や実地訓練は十分に行いますが、いざ本番スタートとなると訓練のようには行かないものです。そして現場は混乱状態となります。しかし入荷品や得意先からの出荷指示は待ってはくれません。待ってくれないどころか、しばらく立ち上げ準備のために止めていた物量が一気に流れ出し、混乱に火を注ぎ、センター機能は瞬時にパンクします。
センターがパンクし商品の流れが止まると得意先からの信用を無くしてしまいますし、修復のために多くの人員(営業部隊・本部からの応援や臨時の派遣人員)を投入するなどで莫大な経費をかけることになります。パンクしてから修復のために莫大な費用をかけるよりも、事前準備(余裕を持った人員の確保・研修・訓練etc)に費用をかける方が結果的には安上がりだったという事になります。
 
2)      システムを含めた運営方法を変える
新しいセンターを設置するときやセンターを移動するときは「この機会に」ということで、効率的な新しいやり方に変えたくなるものです。
最新のマテハン機器を導入したり、WMSを変更したり、組織やチーム構成を新しくしたりします。
それは止めておきましょう。リーダー社員がまだ新しいマテハン機器の扱いやWMSを十分に理解できていない中で、まだ名前すら十分に把握できていない新人作業員を使って普段より多い物量を捌けるはずもありません。
立ち上げの混乱を最小限に抑えるためにもまずは従来のやり方で新センターを軌道に乗せ、それから色々な改革・改善に取り組むべきです。
 
3)      倉庫のレイアウトの問題
倉庫が変われば当然倉庫内のレイアウトが変ります。3層構造から5層構造に変わったりします。エレベーターの位置や大きさも変わります。また複数センターを集約して一つのセンターにしたりするとスペースが広くなったりします。このようなことでどうしても従来の使い慣れた倉庫とは違ったレイアウトになります。
「それがどうしたの?」と思われるかもしれませんが、これが意外と曲者です。熟練の作業員は作業を身体で覚えています。例えばピッキングリストの「ロケーション(棚番)」を見た瞬間に体が自然と目的の棚の方向に向かいます。一旦頭で考え、それから動き出すということはありません。作業をリズムに乗って行えます。新ロケーション構成ではそのように体で反応することはできません。(効率的作業を行うにはリズムが大切ですから)
ゴミ箱の配置一つをとってもそうです。使い慣れた倉庫ではフロアーのどことどこにゴミ箱があるかを体で覚えていますが、新フロアーではその都度探さなくてはなりません。リーダー社員を探し「ゴミ箱はどこにありますか?」とわざわざ聞きに来る作業員も出てきます。こういった些細なことが同時多発的に発生します。そうでなくても社員たちは立ち上げの混乱の中でパニックっているのでつい「自分で探せ!」とか言ってしまうかもしれません。あるいは混乱修復のために入れた臨時の応援部隊やスポット派遣の人達は当然トイレの場所もわかりません。そういったことの世話もリーダー社員が背負うことになります。リーダー社員は本来の役目である各作業員に指示を出したり指導する時間が十分には取れなくなります。そのうち作業員からは「うちのリーダーは何も教えてくれない」「指示したらしっぱなし」とか言われ、あげくのはてはせっかく研修までした作業員が一人、また一人と辞めていくことになります。リーダー社員達は冷静さを失い、新センターは混乱を極めて行くことになります。

 
私の考えでは、上記の3要素のうち二つを同時に行えば確実に立ち上げは失敗し莫大な経費をかける結果となります。事前準備にどれだけの経費をかけるべきかをよくよく考えなければなりません。多くの人(特に現場に疎い本部をお偉い方)は当然に最小経費で新センターの立ち上げを行おうとして事前準備の予算を削り、結果新センターは混乱しパンクします。そしてケチった経費の何倍もの経費が掛かり、顧客や仕入れ先からの信用を無くし、職場の環境が乱れ、現場の社員は疲弊していきついには退職していくことにもなりかねません。
 
センター立ち上げ時は多かれ少なかれ混乱はします。混乱の中で出荷ミス等が発生しクレームとなります。クレームには当然迅速に対応しなければなりません。重大クレームともなれば当然、責任者が直接得意先に出向き謝罪しなければなりません。そして責任者が不在となり、それがさらなるクレーム発生の原因となり、一つのクレームが新たなクレームを呼ぶという悪循環が始まります。
混乱を収めるために大切なことは、遠回りに感じますがやはり地道に人材を育てることだと思います。現場の社員は、この人はと思う作業員に色々教えたりして自分の分身を作ることです。その分身が次の分身を作り、又次の分身を作る。ある時から加速度的に分身が増殖し気が付いたら混乱は収まっていることでしょう。そして混乱が収まったら間髪を入れず、次の段階である現場改善や物流改革の道を歩み始ることが大切です。
一息ついている暇はありません。
(乱文御免)

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