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第60回理学療法士国家試験対策 統計学講義(8)リスク比とオッズ比


 理学療法士を含め、医療系の国家試験には毎年統計学の問題が出題されます。理学療法士では出題数が平均2問(1点問題)で、配点が少ないですが、諦めて対策をしないよりも、ある程度出題範囲が限られているので、対策を講じておきたいところです。
 息子が通っていた養成校の統計学の講義は、いくつかの検定方法を教えるだけで、国試対策としては全く役に立たないものでした。したがって、過去の国試問題を分析して必要な知識を改めて勉強し直す必要がありました。  
 ここでは、問題を解く前に、ある程度知識を整理しておきたいと思います。理学療法士の国家試験では、次に挙げる分野で出題されます。

1.ガイドライン
2.研究デザイン
3.95%信頼区間
4.エビデンス
5.検定方法
6.感度・特異度・陽性尤度比
7.統計用語
8. リスク比とオッズ比(補足)

 これらについて、以下、国試に必要な知識を整理していきたいと思います。あくまで国試に必要な知識という事で、統計手法を根本的に理解するという趣旨ではありませんので、ご注意ください。また配点が少ないので、すみずみまで対応しようと勉強するのは、労力vs効果効果が低いです。2問出題された場合、最低1問(できれば2問)得点できるようにしたいものです。

 今回は最後、8.リスク比とオッズ比です。

 リスク比とオッズ比のうち、国試ではオッズ比が過去に選択肢で出題されています。
 ここではリスク比とオッズ比について簡単に説明します(オッズ比については色々ポイントがありますが、国試対策としてはオッズ比を詳しく勉強する必要はありませんので、説明は最小限にします。)

リスク比(相対リスク)
 喫煙の有無によって、肺癌になった人と肺癌にならなかった人を調査したら下図のようになりました。
 この表から、喫煙が肺癌になるリスク(危険度)を評価します。

リスク比(相対リスク)は「喫煙ありの場合に肺癌になるリスク」と「喫煙なしの場合に肺癌になるリスク」を比較します。

喫煙ありで肺癌になるリスク:3÷5=0.6 (60%)
喫煙なしで肺癌になるリスク:1÷5=0.2 (20%)

となり、リスク比(相対リスク)は0.6÷0.2=3となります・
これから、肺癌になるリスクは、喫煙者は非喫煙者に対して6倍のリスクがあると言えます。

このように、リスク比は次ぎに説明するオッズ比とちがって、リスクが○○倍になるといういい方ができます【重要】またリスク比は前向きコホート研究しか使う事ができないという欠点もあります【重要】(理由は割愛します)。

【オッズ比】
オッズとは下のように、ある事象の起こる確率とある事象の起こらない確率を表します。

成果をあげるためのアクションに、優先順位を与えてくれる「オッズ比」の使い方 より引用
https://cacco.co.jp/datascience/blog/statistics/445/

先ほどのリスク比(相対リスク)での表でオッズ比を計算してみます。リスク比では表を横枠(行単位)で計算していましたが、オッズの場合はある事象(ここでは肺癌という病気)の起こる確率と、ある事象(ここでは肺癌)が起こらない確率を比較しますので、表を縦(列単位)で計算する事になります。

まず肺癌になるオッズですが、
 喫煙群で肺癌になるオッズは3/4
 非喫煙群で肺癌になるオッズは1/4
であるため、
 喫煙で肺癌になるオッズは3/4÷1/4=3÷1=3となります。

一方、肺癌にならないオッズについては
 喫煙群で肺癌にならないオッズは2/6
 非喫煙群で肺癌にならないオッズは4/6
であるため、
 非喫煙群で肺癌にならないオッズが2/6÷4/6=2/4=0.5
となります。

これらから、喫煙が肺癌になるオッズ比は
3÷0.5=6となります。

数字としてリスク比と同じ値になりましたが、オッズ比の注意点としては、
リスク比とちがって、「オッズが○○倍になるといういい方ができません」これは注意しておいてください(国試で問われる場合も予想されます)。これがオッズ比の解釈を難しくしています。しかし国家試験では深く勉強する必要はありません。

難解なオッズ比がなぜ臨床的に用いられるかというと、要因がたくさんあった場合に、どの要因が結果に影響しているかを検定するロジスティック回帰分析という手法がよく用いられますが、その検定の解釈にオッズ比が用いられるからです(これも勉強する必要はありません。国試合格後に研究する時に必要になる場合もある程度です)。

またオッズ比はリスク比とちがって、前向きのコホート研究でも、後ろ向きのケースコントロール研究でも用いる事ができます【重要】。

オッズ比に関して国試としては以下のような出題があります。

用語の説明で誤っているのはどれか。 (第46回 午前 49)
1. オッズ比:ある事象の起こりやすさを示す尺度
2. 第1種の過誤:棄却すべき帰無仮説を棄却しない誤り
3. メタアナリシス:研究のデータを統合して全体の結論を導き出す方法
4. バイアス:曝露とアウトカムの関係を誤って評価してしまう研究デザ   インの不備
5. 無作為化比較試験:ランダムに割り付けた対象群間で前向きに効果の
 差を比較する試験

                        答え:2
選択肢1はオッズ比は「ある事象が起こる確率」と「ある事象が起こらない確率」の比ですから、「ある事象の起こりやすさを示す尺度」という表現は(ややこしいですが)正しいです。

以下、リスク比とオッズ比の違いについて、国試でポイントとなる点をまとめます。
・リスク比はリスクが○○倍という言い方ができる(利点)
・リスク比はコホート研究でしか用いられない(欠点)

・オッズ比はオッズが○○倍という言い方ができない(欠点)
・オッズ比はロジスティック回帰分析に用いる事ができる(利点)
・オッズ比は前向きのコホート研究でも、後ろ向きのケース・コントロール研究でも用いる事ができる(利点)。



Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。

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