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第58回理学療法士国家試験 午後61-65の解説

息子は57回の国試では不合格で、1年間一緒に勉強し、58回の国試になんとか合格する事ができました。一緒に勉強したというのは、私が医師の立場でいろいろ教える事ができたという事です。理学療法士の専門ではありませんが、医師である事から、それなりに知識もありますので、恩返しの意味を込めて、解説やコメントをしたいと思います(いわゆる理学療法士出身の予備校講師や塾の先生と比較して詳しいところもありますが、詳しくないところもありますのでご容赦ください)。もしこれは違うよという所があればご連絡いただければ幸いです。


61.骨格筋で正しいのはどれか・(58回午後61)
 
1.健常成人では体重の10%を占める
2.赤筋線維はミトコンドリア量が少ない
3.筋疲労の化学的原因は乳酸の蓄積である
4.神経筋接合部での興奮の伝達は両方向性である
5.低負荷の運動強度では白筋線維が活性化しやすい

                    【答え】3
【解説】
 骨格筋の問題は、細かいことまで出題されるので、すこしやっかいですね。過去問になり内容が1つか2つ含まれていて、迷う事が多いです。こんな場合は設問で求められている「正しい」ものを探さなければなりません。

1.健常成人では体重の10%を占める:×
 正確な割合は覚えている人は少ないと思いますが、体重の10%はないのはなんとなく想像がつくでしょう。四肢にはだくさん筋肉がついてますものね。一般的には骨格筋量は体脂肪を除いた体重の約半分(50%)とされています。体重に占める骨格筋の割合は体脂肪も含むため、50%よりも少なくなります。骨格筋率の正常値は男性で32.9〜35.7%、女性で25.9〜27.9%といわれています(OMRON 体重体組成計でわかる事 より引用[https://www.healthcare.omron.co.jp/product/hbf/guide/02.html])。


2.赤筋線維はミトコンドリア量が少ない:×
 赤筋線維はType I線維とも言われ、筋力は弱いですが、持久力が高い性質があります。赤筋線維ではエネルギーは主に好気性代謝で酸素を消費してクエン酸回路を回してATPを産生します。クエン酸回路はミトコンドリアに存在しており、赤筋線維はミトコンドリアの含有量が高くなっています。
 以下に赤筋と白筋の違いを表にまとめました。

3.筋疲労の化学的原因は乳酸の蓄積である:○
 運動するにはエネルギーが必要ですが、エネルギーであるATPを産生するには、嫌気性代謝を行う解糖系と好気性代謝を行うクエン酸回路があります。嫌気性代謝ではピルビン酸から乳酸が産生されます。

 下図は運動負荷試験(CPX)での分時換気量の変化を示したものです(このYoutube動画はとても良くできているので見る事を強くおすすめします)。
 運動強度はランプ負荷法によって連続的に増加していっていますが、①の運動負荷が少ない状況では主に好気性代謝によってクエン酸回路でATP産生が行われます。運動負荷が増えるにしたがって、好気性代謝ではATPが足りなくなって、②の段階で嫌気性代謝が加わります。この①と②の境を嫌気性代謝閾値(AT)と呼びます。②の段階では嫌気性代謝の結果、乳酸が産生されてきますが、CO2に変換されて乳酸が蓄積することはありません。運動強度がさらに上がってくると③の状態では乳酸が処理できなくなって蓄積し、アシドーシスをきたすようになります。②と③の境を呼吸性代償開始点(RC)といいます。②の状態では乳酸蓄積とともに代謝性アシドーシスになり、強い疲労を自覚する事になります。
 運動における疲労感の原因は、乳酸の蓄積と、それに引き続く代謝性アシドーシスが原因です。

【CPX講座】運動生理学に基づいて理解するATの決定方法 より引用
https://youtu.be/1-aKaZgkLrU

4.神経筋接合部での興奮の伝達は両方向性である:×
 神経筋接合部での興奮の伝達は、神経末端(終板といいます)から放出されたノルアドレナリンやアセチルコリンといった神経伝達物質が、筋線維表面にある受容体に結合する事で伝達されます。
 受容体は筋繊維にしかないので、神経筋接合部では刺激は神経→筋繊維の一方向となります

5.低負荷の運動強度では白筋線維が活性化しやすい:×
 赤筋線維(タイプI線維)は筋力が弱いですが、持久力があります。一方、白筋線維(タイプIIb)は筋力が強いですが、持久力はありません。
 低負荷の運動強度では大きな筋力は必要ありませんから、まず赤筋線維が動員されます。

62.下垂体前葉から分泌されるホルモンはどれか。(58回午後62)
 
1.メラトニン
2.オキシトシン
3.バゾプレシン
4.プロラクチン
5.アルドステロン

                    【答え】4
【解説】
 58回国試で3問目のホルモン問題です。問題の質としては基本中の基本で、サービス問題と言えます。56回もホルモン問題が3問でましたが、「水溶性ホルモンはどれか?」といった難問が出題され、おそらく正解率が極端に低かったと思われますので、しばらくホルモンについてはサービス問題が続くと思われます。したがって、このようなサービス問題は絶対に落としてはいけません。
 下のような語呂合わせは有名だと思います。

Nursing Cafe 10:24 AM · Feb 8, 2017のツイート
【今日の語呂合わせ】下垂体前葉から分泌されるホルモンの覚え方 より引用

1.メラトニン:× →睡眠に関するホルモン、松果体
2.オキシトシン:× →子宮を収縮させるホルモン、下垂体後葉
3.バゾプレシン:× 
  →腎臓の集合管で水を吸収して血圧を上げるホルモン、下垂体後葉
4.プロラクチン:○ →乳汁分泌を刺激するホルモン、下垂体前葉
5.アルドステロン:→腎臓の遠位尿細管でNaと水を再吸収し、Kを分泌する(NaとKを交換)、副腎皮質から分泌される


63.視覚で正しいのはどれか。(58回午後61)
 
1.明順応には20分程度かかる
2.視神経乳頭は視覚受容器を欠く
3.ビタミンC欠乏で夜盲症となる
4.近視では網膜の後方に焦点を結ぶ
5.毛様体筋は遠くを見るときに収縮する

                    【答え】2
【解説】
 58回午後58のところでも書きましたが、感覚器のうち、視覚(眼)と聴覚・平行感覚器(耳)はどちらかが毎年出題されます。眼と耳では耳が内容が多いので、出題される可能性が高いです。今回は58回午後58の耳の問題に続いて、眼の方も出題されました。眼と耳は、範囲の割に出題される頻度が高いので、コストパフォーマンスが高いです。国試前はかならず眼と耳をしっかり見直して完璧にして起きましょう。

1.明順応には20分程度かかる:×
 明順応とは、明るさに順応するという意味で、暗いところから明るい所に出たときに眼が順応する反応です。たとえば車でトンネルから出るときに。「まぶしっ!」っと一瞬なるやつです。明反応は約40秒で順応すると言われています。

一方、暗順応とは、明るいところから暗いところに入った時に暗さに順応する反応です。暗順応は10〜30分かかると言われています。

ヘルスエイドカシスアイ LP - 森下仁丹 本店|より引用
https://www.181109.com/lp/blackcurrant_tcib2103.html

2.視神経乳頭は視覚受容器を欠く:○
 視神経乳頭は視神経が集まるところなので、視覚受容器はありません。

3.ビタミンC欠乏で夜盲症となる:×
 視覚に関連するビタミンはビタミンAでした。覚え方は下図左のようにAを横にする目を横から見た感じになる様子をイメージしましょう。補足としてビタミンAは肝臓の類洞と肝細胞の間にディッセ腔という隙間があり、そこにある星細胞(伊東細胞)がビタミンAを貯蔵しています。覚え方としては、明石屋サンマさんの出っ歯がAが並んでいるようにイメージして、関西人なので「Aでっせ」と言っているところをイメージしてデッセ腔につなげるようにしました。 

4.近視では網膜の後方に焦点を結ぶ:×
 眼内のレンズ(水晶体)は遠くを見る場合は薄くなり屈折率が小さくなります。一方、近くを見る場合はレンズは厚くなり屈折率が大きくなります。
 したがって、下図のように、近視の場合は水晶体が厚く屈折率が大きくなるので、焦点は網膜より手前(前方)に結ばれます。一方、遠視では水晶体が薄く屈折率は小さくなるので、網膜より遠位(後方)に焦点は結ばれます。

KoKaNet今日のはてな?近視と遠視の違いとしくみを教えてください より引用
https://www.kodomonokagaku.com/read/hatena/5330/

5.毛様体筋は遠くを見るときに収縮する:×
 毛様体とレンズの厚さの関係は少しイメージしずらいかもしれません。これについてはしっかり確認しておきたいところです。ネットでもわかりやすく説明してくれているところはないので、わかりやすく説明します。

 遠近の調節は目の水晶体(レンズ)の厚みを厚くしたり、薄くしたりして調節します。その役割は水晶体の周りにある毛様体がになっています。毛様体は筋肉(毛様体筋)でできており、水晶体を円周状に取り囲み、水晶体とはチン小体によって結合しています。

 では遠近を調節する場合には毛様体と水晶体の関係はどうなっているでしょうか?下図を見てください。これについては毛様体筋の筋の走行がどうなっているかという事を正しく知っておかなければなりません。
 よくあるのは、毛様体筋線維が輪に対して垂直に(放射状に)走行しているようなイメージをもってしまう事です。
 もし、下図のように、輪に対して筋線維が垂直に走行していると、筋が収縮すると、中心の輪が外(外は周囲組織により固定されています)に向かって引っ張られる事になり、中心の輪が大きくなります。すると、水晶体が薄くなって、遠くが見えやすくなるという事になりますが、実際は反対です。

 実は、毛様体筋が、中心の輪に対して円周状に筋繊維が走行しています【重要】。この場合、筋が収縮すると、輪が小さくなるように働き、中心の輪が小さくなります。その結果、レンズが厚くなり、近くが見えやすくなります。

 それを踏まえてネットでのきれいなイラストを見ましょう。下図では毛様体筋の走行が輪に対して平行(円周状)に描かれていますね。
 下図左で「近くを見る時」は毛様体筋が収縮する結果、中心の輪が小さくなり、チン小体が緩んで、水晶体が厚くなります。一方、下図右で「遠くを見る時」は毛様体筋が弛緩してゆるむ結果、中心の輪が大きくなり、チン小体が緊張して水晶体が薄くなります。

視力ケアセンター 毛様体とは より引用
https://www.shiryoku15.jp/ciliary-muscle/

 わかっていただけましたか?一度理解すると、この話は暗記する必要はありません。この話は正しく理解していないと「あれ?どっちだったけっ?」となるので、国試でも突かれやすいポイントなんです。みなさんは今回の説明でばっちり理解したと思います。

64.長期間の有酸素運動の効果として正しいのはどれか。2つ選べ。(58回午後64)
 
1.安静時血圧の上昇
2.安静時心拍数の上昇
3.最大心拍出量の増加
4.骨格筋の毛細管網の発達
5.安静時の交感神経の緊張亢進

                   【答え】3、4
【解説】
 有酸素トレーニングを長期間継続して行う事によって心臓の活動効率が改善され、より少ない酸素で同じ量の作業を行うことができるようになります。有酸素運動を続けることによって、運動中の心臓の筋肉で消費される酸素量が少なくなり、安静時の心拍数と血圧が低下し、運動中の心拍数と血圧反応も低下します。
 また1回拍出量や運動時の最大心拍出量も増加します。筋肉においては、筋線維の毛細血管密度の上昇による酸素運搬と二酸化炭素除去能力が向上します。

1.安静時血圧の上昇:× 安静時血圧は低下します
2.安静時心拍数の上昇:× 安静時心拍数の低下します
3.最大心拍出量の増加:○
4.骨格筋の毛細管網の発達:○
5.安静時の交感神経の緊張亢進:安静時の交感神経緊張は抑制されます


65.副交感神経の作用で抑制されるのはどれか。(58回午後66)
 
1.膵液分泌
2.気管支筋収縮
3.房室伝導速度
4.直腸平滑筋収縮
5.グリコーゲン分解
                                             【答え】3
【解説】
選択肢3と選択肢5の内容は初出の内容です(過去に出題はありません)。
1.膵液分泌:×
 交感神経は「戦いモード」です。戦いの時は食事はせず、戦いと戦いの合間に食事をすると考えてください。副交感神経興奮では、消化管運動が促進され、膵液など消化液分泌も亢進します。
 消化液以外にも涙腺などの分泌も副交感神経興奮で促進されます。

2.気管支筋収縮:×
 交感神経は戦いモード」なので、大きい息をする必要があり、気管支は拡張します。逆に副交感神経興奮では、気管支は収縮します。
 
3.房室伝導速度:○
 交感神経興奮は洞房結節に作用して頻脈となり、副交感神経興奮は洞房結節に作用して徐脈になるのはわかると思いますが、房室伝導速度に与える影響は未出題でした。
 交感神経と副交感神経は心臓において洞房結節の他に房室結節周囲にも分布していて、交感神経興奮では房室伝導速度が促進され、副交感神経興奮では房室伝導速度が抑制されます。


pharm. kyoto-u.acのHP 心臓交感神経と心臓迷走神経 より引用
 https://www.pharm.kyoto-u.ac.jp/biochem/pdf/Jul12.pdf



4.直腸平滑筋収縮:×
 排尿・排便に関しては、交感神経興奮では蓄尿・蓄便に働き、副交感神経興奮では排尿・排便に働きます。したがって、副交感神経興奮では、排便のため直腸平滑筋は収縮に働きます。一方、内肛門括約筋・外肛門括約筋は弛緩に働きます。

5.グリコーゲン分解:×(ひっかけ)
 交感神経興奮では「戦いモード」のため、多くのエネルギーを必要とし、肝臓でグリコーゲンを分解してグルコースを作る事によって、エネルギー産生の原料とします(この内容は過去に出題があります)
 したがって、副交感神経興奮では、このグリコーゲン分解を抑制するのかと思ってしまいそうですが、厚労省発表では×となっています。
 実は副交感神経興奮では、グルコースからグリコーゲンを作る(グリコーゲン合成)が促進されますが、グリコーゲンの分解を抑制はしないようです(へ〜そうなんだ〜)
 たしかにネット上でどこを探しても、肝臓に対する交感神経と副交感神経の役割は、交感神経がグリコーゲンの分解で、副交感神経がグリコーゲンの合成としか書いてませんね…。これは今後もちょっと注意しておかなければならない点です。

オンスク.jp 必ず覚える!自律神経系の働きとは? より引用
https://onsuku.jp/blog/touroku_study2_003



Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。

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