見出し画像

第59回理学療法士国家試験 午前86-90の解説

 息子は第57回の国家試験に不合格で、第58回の国家試験に合格しました。昨年は第58回の試験問題が手元にありましたので、息子の合格の後、恩返しのつもりで国家試験の解説を投稿しました。
 第59回は息子は受験していないので問題が手元にはありません。毎年厚労省から問題が公表されるのは5〜6月ごろでかなり遅いです。そこから出版社も対策本を作るので、対策本が手に入るのは夏前になってしまいます。またクエスチョンバンクなどの対策本は国試問題のすべてを網羅している訳ではありません(ごく一部です)。
 昨年、国試対策の問題集を作って投稿したところ、多くの方に利用していただきました。今回、投稿を利用していただいた受験生(合格ラインを超えたらしい)の一人にお願いして、国家試験問題を入手する事ができましたので、昨年同様、早めに国家試験問題と解説を投稿したいと思います。
 理学療法士ではありませんが、医師の立場から解説をします。これは違うよという所があればコメントいただくと幸いです。


(86) 頭部MRIで正しいのはどれか。(59回午前86)
1.T2強調画像で髄液は低信号に描出される
2.頭部CTに比べて脳幹部の病巣を観察しにくい
3.T2強調画像で脳梗塞による信号変化はみられない
4.拡散強調画像は急性期の脳梗塞の診断に有用である
5.頭部CTに比べて急性期の脳出血の診断に有用である
 
                    【答え】4

【解説】
 理学療法士の国家試験の脳画像でMRIがでてくれば、疾患は例外なく脳梗塞と考えてください。
 一般的に脳出血はCTが見やすいです。皮質下出血やくも膜下血腫、硬膜外血腫や硬膜下血腫などといった脳出血はCTでの高吸収域(白)で出題されます。またCTでは脳梗塞が低吸収域として出題される場合もあります。ただし脳梗塞が CT上低吸収域(黒)としてわかるのは発症後6時間以降です。

MRIは撮影に30分ぐらいかかりますので、数分撮影できるCTでわかる脳出血はわざわざMRIで診断するメリットがありません。

 一方、脳梗塞に関して、脳MRIでは、急性期の病変は拡散強調画像(diffusion weighted image: DWI)で高信号域やADCマップでの低信号域として描出されます。これらの急性期の変化は発症1時間で検出できるようになります。

 また急性期を過ぎると、T2強調画像 (T2 weighted image: T2WI) またはFLAIR像で高信号域として描出されます。
 脳MRIの利用方法としてT1強調画像は主に形をみるためのものです。病気は主にT2強調画像で見ますが、病変の多くはT1では低信号域、T2では高信号域として描出されます。このT1 黒(低信号域: low intensity area )、T2 白(高信号域: high intensity area)のLow-highのパターンは水分の描出パターンと同じです(病気の部分は水分が増えてますので水分と同じようなパターンとなるのです)。
 下の写真を見るとわかりますが、T1では脳皮質は黒く(低信号)、脳実質は白く(高信号)に描出されますが、T2やFLAIRでは脳皮質は白く、脳実質は黒く描出されています(T2やFLAIRはぱっと見た状態では違うような感じに見えますが、実は基本的には同じ描出法なのです)。そして、FLAIR(フレア)像は脳室や脳表の白く写る水分をプログラムで黒く反転させて(さらに全体の階調を上げて)描出し、脳室周囲の病変が見やすくなっているのが特徴です。

 最後に、脳MRIの例外ではT2スターという描出法があり、黒く抜けた点は微小出血を表します。過去に国試で出た事もあり、一応覚えておく必要があります。

【ポイント】
1.脳MRI:拡散強調画像は急性期脳梗塞
拡散強調画像の高信号とADCマップの低信号が特徴的
2.脳MRI:T2強調画像やFLAIR像での高信号は急性期を過ぎた脳梗塞

1.T2強調画像で髄液は低信号に描出される:×
 →T2強調画像で髄液は高信号(白く)描出されます。髄液を低信号(黒く)描写するようにプログラムで変更した画像をFLAIR (フレア)像といいます。

2.頭部CTに比べて脳幹部の病巣を観察しにくい:△
 →MRIは病変部が高信号として描出されるため、脳梗塞に関してはMRIの方が脳幹部の病巣を観察しやすいです。一方、脳出血(脳幹出血)に関しては、高吸収域として描出されるCTが病変を描出しやすいです。

3.T2強調画像で脳梗塞による信号変化はみられない:×
 →T2強調画像では脳梗塞慢性期で高信号として描出されます。

4.拡散強調画像は急性期の脳梗塞の診断に有用である:○

5.頭部CTに比べて急性期の脳出血の診断に有用である:×
 →脳出血の診断に有用なのは頭部CTです。


(87) AEDで正しいのはどれか。(59回午前87)
1.使用には医師の指示が必要である
2.心臓ペースメーカーの植え込み患者に使用できる
3.衣服の上から使用できる
4.電気的除細動時は四肢を押さえる
5.電気的除細動は自動的に行われる
 
       不適切問題:答えが2つある【答え】2・5
       ただし正しくは2のみが正解です。

【解説】
AEDについては令和6年の出題基準改定によりPT専門問題からPT/OT共通問題に追加されたので、今年は出題されるのではと思い、直前予想問題として投稿しました。予想通りAEDが出題されましたが、問われる選択肢については解説できていなかったです(ちょっとかすった感じですかね?)。

1.使用には医師の指示が必要である:×
 →AEDはだれでも使用する事ができます。ただし除細動の必要の有無は機会が自動解析して判断します。

2.心臓ペースメーカーの植え込み患者に使用できる:○
 →例えペースメーカーが埋め込められていても、AEDは使用できます。その場合、貼り付けるパッドをペースメーカーから8cm以上離すようにして下さい。

3.衣服の上から使用できる:×
 →胸部の皮膚に心臓をはさむように電極パッドを貼付して使用します。皮膚がぬれていれば、水をタオルなどで拭き取ってからはりつけます。衣服の上からは使用できません。

4.電気的除細動時は四肢を押さえる:×
 →除細動時には大きな電流が流れ、感電する恐れがあるので、患者の身体から離れなければいけません。

5.電気的除細動は自動的に行われる:△
 →除細動の必要の有無(適応)はAEDが自動的に判断しますが、除細動自体は救助者がボタンを押さなければいけません。厚労省の解答ではこの選択肢を○をして、この問題を解答が2つあるとして不適切問題をしています。

 しかし、AEDを使用する際、心電図解析は自動的に行われますが、電気的除細動は決して自動的には行われません。除細動はあくまで救助者がボタンを押して行います。除細動が自動的に行われれば、その際に救助者が患者の身体に触れていれば感電してしまいますので、救助者が患者に誰も触れていない事を確認してからスイッチを押すのです。

 したがって、この厚労省の解答は完全に間違いです。厚労省は誤った知識を教えてはいけません。厳重注意案件です。出題委員・出題委員会は厚労省に抗議してください。

 解答速報の3社ともすべて2を正解としていました。

 
(88) 背臥位における褥瘡の好発部位はどれか。2つ選べ。(59回午前88)
1.踵部
2.膝窩部
3.仙骨部
4.内顆部
5.大転子部
 
                  【答え】1・3

【解説】
褥瘡は荷重部に起こりやすいです。下図のように背臥位では後頭部・肩甲骨部・肘頭部・仙骨部・踵骨部に起こりやすいです。

マルホHP 褥瘡の概要より引用
https://www.maruho.co.jp/medical/jokusoujiten_fm/outline/outline3/page1/page2.html

1.踵部:○
2.膝窩部:× →膝のくぼみ部分なので褥瘡になりにくい
3.仙骨部:○
4.内顆部:× →側臥位で起こりやすいです
5.大転子部:× →側臥位で起こりやすいです

 
(89) 外傷性脊髄損傷で正しいのはどれか。(59回午前89)
1.男性より女性に多い
2.頸髄損傷が胸腰髄損傷より多い
3.交通事故による受傷が最も多い
4.発症者の年齢は20歳代が最も多い
5.頸髄損傷では完全麻痺者の比率が高い
 
                    【答え】2

【解説】
 若者が交通事故で頸髄損傷なる事が多いようにイメージするかもしれませんが、実態はそうではありません。頸部脊柱管が加齢で狭くなった高齢者が平地で転倒して頸髄損傷になる事が多いです。

 詳しくは日本脊髄障害医学会が2018年に大規模な全国調査した結果を以下で報告しています。
宮腰尚久、工藤大輔:日本脊髄障害医学界による外傷性脊髄損傷の全国調査。https://www.jscf.org/wp-content/uploads/2022/05/Immunesurvey.pdf

以下は上記調査結果によります。

1.男性より女性に多い:×
 →男女比は3:1で男性に多かった。

2.頸髄損傷が胸腰髄損傷より多い:○
 →頸髄損傷が88.1%と大部分を占め、うち骨傷のない損傷(非骨傷性頸髄損傷が70.7%でした。

3.交通事故による受傷が最も多い:×
 →原因は平地転倒が38.6%で、交通事故が20.1%、低所からの転落が13.7%でしたが。10代ではスポーツによる受傷が43.2%で最多でした。スポーツによる受傷の内訳ではスキーが最多で43.2%でしたが水泳や飛び込みによる受傷はわずか4.4%でした。欧米では飛び込みによる受傷が多いように思います。

4.発症者の年齢は20歳代が最も多い:×
 →受傷時の平均年齢は66.5歳で、70歳にピークを認めました。

5.頸髄損傷では完全麻痺者の比率が高い:×
 →麻痺の程度では、頚髄損傷ではFrankel Dの割合が有意に多く、胸髄・腰髄損傷ではFrankel A (完全麻痺)の割合が有意に多くなっていた

Frankel分類


(90) 骨粗鬆症で正しいのはどれか。(59回午前90)
1.女性より男性に多い
2.遺伝的要因は影響しない
3.続発性より原発性が多い
4.骨折は大腿骨近位部が最も多い
5.日本の患者数が約100万人である
 
                    【答え】3

【解説】
骨粗鬆症は色々は原因で起こります。

1.女性より男性に多い:×
 →女性が閉経して女性ホルモンが低下すると骨粗鬆症になっていきます。高齢者の転倒で骨折するのは女性が圧倒的に多いにはこのためです。
 下図で青は男性、赤は女性ですが、50歳以降女性では骨塩量が年々減っていくのがわかると思います。

2.遺伝的要因は影響しない:×
 →骨粗鬆症は弱いながら遺伝的要因がある事がわかっています。

3.続発性より原発性が多い:○
 →原因となる明らかな疾患がなく、エストロゲン減少や加齢などによる原発性が約90%を占めます。

4.骨折は大腿骨近位部が最も多い:×
 →(1) 胸腰椎、(2)大腿骨近位部、(3)橈骨遠位端、(4)上腕骨近位部の順で多い。

5.日本の患者数が約100万人である:×
 →日本人の患者数は女性980万人、男性300万人で合計約1,280万人と推定されています。


Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?