ロシア人の社会意識
ロシアの新聞のサイトからちょっとした記事を紹介するシリーズなのですが、今回は新聞記事ではなく、全ロシア世論調査センター(VCIOM)のサイトから、最近の世論調査の結果概要を伝える記事を直接ご紹介したい。
調査対象はロシア人の「社会意識」であり、月次で行われているものだが、2023年6月20日に5月の調査結果が公表されている。
設問は単純で、「生活満足度」、「現下の国内情勢に対する肯定あるいは否定の評価」、「国家の発展の方向性の正しさに対する同意あるいは不同意」の3点について聞くものである。
電話インタビュー方式で、国内の18歳以上の1600人から回答を得ている。
以下に報告記事の全文を訳出する。
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https://wciom.ru/analytical-reviews/analiticheskii-obzor/socialnoe-samochuvstvie-monitoring-19062023
社会意識調査
ロシア人の2人に1人が、現在のロシアの事態は適切な方向に進んでいると見なしている。個人生活の満足度は、安定して高く維持されている。
モスクワ、2023年6月20日.全ロシア世論調査センター(VCIOM)、ロシア人の社会意識に関するモニター調査結果を発表。
ロシア人の高い適応能力
社会意識は、社会の変化に対する市民の反応を評価する最も重要な指標である。それは、社会が変化する諸条件にどれくらい首尾よく適応し、その挑戦に応えることに成功しているかを示すものだ。モニタリング調査の結果によれば、今回もロシアの人々は新たな現実に対する高い適応能力をはっきりと示した。
社会意識の指標となるのは生活及び国内情勢への満足度並びに国家の発展の全般的方向性に対する評価であるが、それらは2022年の年初以来安定しているのみならず、2020年及び2021年と比較して顕著な伸びを示している。
得られたデータから推定できることは、昨年来の出来事に比べれば、COVID-19という突発的なパンデミックの方がより大きな不安を市民にもたらしたということである。
生活の満足度
2023年の年初以来、ロシア人の自身の生活に対する満足度の評価は安定的に高く保たれている。5月は、わたしたちの同胞の60%が全般的に自分たちの日々の生活に満足していると表明しており、この数値は2022年の同月より7%ポイント高い。
中立的な評価を示したものは5人に1人であり、すなわち22%の者が彼らの生活に一部は満足しつつ、一部は不満であると答えた。一年前にそのような立場をとっていた者は回答者の4分の1を超えていた(2022年5月は28%)。
自身の生活に不満であるとした者は依然16%であり、昨年春からこの数値は変化がなかった。
2020年及び2021年の5月は、より悪い状況が顕著だった。当時は、自身の生活に満足していたロシア人は、それぞれ46%及び47%と半数に満たず、満足度指数(注1)も50ポイントを下回った(2023年5月は66ポイント)。
指標の「沈下」に対する最も考え得る説明の一つは、[新型コロナ対策に伴う(訳注)]規制措置を背景とした生活習慣の変化であろう。
国内情勢の評価
国内の情勢に対するロシア人の評価も概ね肯定的であった。5月は回答者の63%が良好な情勢であると評し、2022年の同月の評価(64%)とほぼ一致した。
一時、部分動員令を背景に指標の目立った低下があったが、2022年末から上昇に転じ、すでに今年の2月には再び60%を上回っていた。
今日、国家の情勢が良くないと見なす者は28%で、悲観論者の割合は2023年の年初と比べて5%ポイント低下(2023年1月は33%)し、さらに2022年の年初には同数値は1.5倍であった(2022年1月は41%)。
3年前には状況は対照的であり、すなわち否定的な評価が肯定的評価に勝っていた。2020年5月には、ロシア人の53%が国家の状況を良くないとみなし、良いと答えたものは41%に過ぎず、評価指数(注2)はマイナス圏に沈んでいた(-12ポイント)。
今回の評価指数は35ポイントを獲得し、5カ月前と比べても8ポイント上昇した(2022年1月は27ポイント)。
「目下のロシアの事態は正しい方向に進んでいる」という見解に対しては、今日2人に1人(50%)が同意している。
2022年3月以来では、同指標は1回だけ50%の評価を下回っており(2022年11月に47%)、一方、最高評価は2022年8月にマークされた58%であった。
比較のために付言すると、2020年及び2021年の5月には「目下のロシアの事態は正しい方向に進んでいる」という意見を共有する者はわずか3人に1人、それぞれ32%及び34%であった。
そのような見解に一部は同意しつつ、一部不同意であるとした回答者は今回28%(2020年5月と比して-8%ポイント)であり、同意しないと答えた者もなお17%(2020年5月と比して-11%ポイント)存在した。
国家の発展の全般的方向性評価指数(注3)は、2020年及び2021年の同月の評価を1.5倍上回った(それぞれ41ポイント及び43ポイントに対して61ポイント)。
指数の計算に当たり、端数の処理の関係で+/-1~2ポイントの誤差が生じうる。
(注1)生活満足度指数とは、ロシア人が自身の生活にどの程度満足しているかを示すものである。同指数は「あなたは現在の自身の生活にどのくらい満足していますか?」という設問に基づいており、肯定的な評価及び中間的な評価の和と否定的な評価との差として算定される。指数の値は、-100ポイントから100ポイントの範囲で変動しうる。指数の値が高いほど、回答者たちの生活スタイルへの満足度はより大きい。
(注2)国内情勢評価指数とは、ロシア人が国家の情勢をどのように評価しているかを示すものである。同指数は「あなたは国内で生じている情勢を全体としてどのように評価しますか?」という設問に基づいており、肯定的な評価と否定的な評価との差として算定される。指数の値は、-100ポイントから100ポイントの範囲で変動しうる。指数の値が高いほど、ロシア人の意見において、事態はより良好な状態にある。
(注3)国家の発展の全般的方向性評価指数とは、ロシア人が国家の発展の全体的基本方針をどのように評価しているかを示すものである。同指数は「あなたは私たちの国内の事態が現在正しい方向に進んでいるという意見に同意しますか、あるいは不同意ですか?」という設問に基づいており、肯定的な評価及び中間的な評価の和と否定的な評価との差として算定される。指数の値は、-100ポイントから100ポイントの範囲で変動しうる。指数の値が高いほど、回答者たちは国家の発展の方向性をより正しいものと認めている。
全ロシア世論調査センター(VCIOM)のサイトより(全文訳)
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若干のコメント
VCIOMは、組織上は株式会社であるが、全株を国家が所有する公的な機関である。また調査は電話インタビューという方式で行われたものである。となれば調査結果には一定のバイアスが生じているとみなすのが自然だろう。
そうした事情を考慮した場合、国内情勢を全体として肯定的に評価する者の割合(63%)がさほど大きいと言えるのか、ましてや国家の事態が正しい方向に進んでいることに同意する者(50%)が果たして主流であると言えるのかについては、若干の疑問符がつくように思う。
その一方で、より注目すべきことは、上の報告記事でも執拗に強調しているように、これらの指標が、2年前あるいは3年前と比べて、現実に相当程度改善している点である。
BCIOMのサイトでは、上で全訳した「概要」とは別ページに統計表が付されていて、2022年1月以来の月次の調査結果のデータの推移を見ることができる。
それによれば、生活満足度、国内情勢評価、国家の発展の全般的方向性評価のいずれの結果においても、ウクライナ侵攻が開始された昨年2月前後を境に指標が上昇する傾向が見られ、その後ほぼ安定して比較的高い満足度及び評価が維持されている。
例えば、国家の発展の全般的方向性の評価をとりあげると、肯定的な回答の割合は、2022年1月:34%、2月:37%、3月:54%、4月:55%と推移し、その後は記事にあるとおりほぼ50%台を保っている。
そうしてみると、ロシアのいわゆる「特別軍事作戦」は、おおざっぱに言えば、平均的なロシア人の「社会意識」において、現実に市民の愛国心を刺激し、国家に対する帰属意識や忠誠心、国民的一体感を強化する作用をもたらしている面があるように思えてくる。あくまで、直観的で恣意的な印象にすぎないのだけれど。
結局のところ、部分動員令のような明白で深刻な影響が自分や家族に直接及ばない限りは、ロシア国民の内部から真に反戦気運が高まり、ロシア社会が停戦に向けて動き出すということは期待しにくいのかもしれない。
突然の武装蜂起宣言をわずか一日で撤回し、意気揚々と撤退するワグネルのプリゴジン氏を英雄と称え、喜々とした声援で迎え入れるロストフ・ナ・ドヌーの市民たちのどこかちぐはぐな反応をニュースで見つつ、漠然とそんなことを考えた。