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トランプ前大統領の弾劾裁判

トランプ前アメリカ大統領の弾劾裁判の審理が、連邦議会上院で2月9日から開始される見込みだ。この弾劾裁判は、下院が前大統領に対する弾劾訴追決議案を可決したことを受けて実施されるもので、その訴追理由は、去る1月6日に発生した前大統領の支持者らによる連邦議会議事堂占拠事件をトランプ氏が「扇動」したというものである。

弾劾裁判でトランプ氏を有罪とするためには、上院議員の3分の2以上の賛成が必要であり、現在の上院の勢力は民主党と共和党がそれぞれ50議席ずつであるから、共和党から17人が造反すれば有罪の評決が下される可能性がある。もし有罪となれば、追加の採決によって、前大統領の公職資格はく奪の決議案を過半数の賛成で可決することも可能となり、2024年大統領選へのトランプ氏の出馬を阻止できるとのことだ。

報道によれば、共和党上院トップのマコネル院内総務が事件へのトランプ氏の関与を断言するなど、複数の共和党議員が有罪評決に前向きであるとの観測がある。だが、大統領選で現職大統領としては史上最多の7,400万票を獲得した根強い人気を背景として、トランプ氏の影響力は依然として絶大であり、現時点では無罪評決となる公算が大きいとの見方が優勢のようだ。

民主党支持の立場からは、弾劾裁判で有罪評決を下し、さらに公職資格をはく奪することが、トランプ氏の政治的影響力を決定的に排除する上で極めて効果的であることは間違いない。そして、そのためには、共和党議員の票が割れることが条件となる。

逆に、共和党の側から言えば、有罪評決が実現するということは、それだけ、党内が深刻な分断に陥ることを意味する。また、有罪の評決や公職はく奪決議によって、前大統領の強固な支持者らによる過激なデモや暴動が誘発される危険性は考慮しなければならないだろう。

仮に、結果的に有罪評決に至らなかったとしても、相当数の共和党議員が有罪への支持を表明し、それに対抗してトランプ氏が新党結成にうごくような事態となれば、やはり共和党に深刻な分断と弱体化がもたらされることが容易に想像できる。

以下は、政治学者でも何でもない素人の直観的な意見であるが……

民主党と共和党という均衡のとれた二大政党制の下で、両政党が互いに政権交代の受け皿として適格に機能しうることが、アメリカの健全な民主主義の歴史を支えてきたのだとすれば、共和党の分断と弱体化は、共和党支持者のみならず、民主党支持者にとっても、そして米国民全体にとって決して望ましいものではないだろう。

トランプ政権の4年間を災難であったと見なし、その痕跡を可能な限り速やかに一掃したいと願う米国人は、共和党支持者や共和党議員にも少なくないかもしれない。
しかし、事を急いではいけない。トランプ前大統領が米国全体に、そして共和党内にもたらした分断を、決して広げることなく、少しずつ癒しながら埋めていかねばならない。

たとえ前大統領の言動の軽率さや傲慢さが有罪に値することは否定できないとしても、2月に開始される上院の弾劾裁判においては、トランプ氏やその強固な支持者らをむやみに刺激しないように、共和党はなるべくまとまって反対票を投ずることが、むしろ得策ではないだろうか。

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