#一人称の語り
カズオ・イシグロ『わたしたちが孤児だったころ』
カズオ・イシグロは比較的寡作な作家であり、長編小説に限定すれば発表されている作品は全部で八つである。
これまで、それらのうちの五つについて note に拙い感想を記してきた。残るのは次の三つだ(刊行年は邦訳)。
『わたしたちが孤児だったころ』(2001年)
『わたしを離さないで』(2006年)
『忘れられた巨人』(2015年)
今回は『わたしたちが孤児だったころ』について書いてみたい。
『わ
カズオ・イシグロ『充たされざる者』
カズオ・イシグロはすごい作家だ、とつくづく思う。
長編第四作『充たされざる者』(古賀林幸訳、原題:The Unconsoled)に度肝を抜かれた。
とにかく長い。文庫版で本文939ページ。
だが、度肝を抜かれたのは長さのせいばかりではない。
この長さをとおして描かれる時間の経過は実際には三昼夜ほどにすぎない。
極端なまでに遅延し、引き伸ばされつつも凝集された濃密な「時間」に度肝を抜かれたのだ。こ