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2023年6月の記事一覧

カズオ・イシグロ『浮世の画家』

カズオ・イシグロ『浮世の画家』

『浮世の画家』(原題 An Artist of the Floating World, 1986)は、不思議な小説である。

同作は、イシグロの長編デビュー作である『遠い山なみの光』(1982)と、ブッカー賞を受賞した作家にとって代表作である『日の名残り』(1989)との中間に位置する。
そう考えてみると、なるほど『浮世の画家』には、これら相前後する二つの作品との間で、それぞれ異なる共通点があるよ

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カズオ・イシグロ『遠い山なみの光』

カズオ・イシグロ『遠い山なみの光』

このところカズオ・イシグロにはまっている。

『日の名残り』、『夜想曲集』、『クララとお日さま』、『遠い山なみの光』を続けて読んだ。
これらのうち『夜想曲集』と『遠い山なみの光』は、それぞれ区内の別の図書館の文庫の棚に置かれていたものを、たまたま手に取ってそのまま借りてきたものだ。
ここでは『遠い山なみの光』について書いてみたい。

前回の記事で取り上げた『クララとお日さま』(2021)はイシグロ

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