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還暦おやじのスタディアブロードWith ウクレレ ④

地獄に仏

  第2ターミナルから第3ターミナルまでは500mほどの距離だ。私はウクレレの入ったモンベルのリュックを背負ってキャリーケースを転がしながら、今度はマニラでの生活に想いを馳せていた。

通路で帰国したばかりの笑顔が弾けている家族とすれ違う。子供達はスキップしている。その横で綿菓子のような白いふわふわしたものに包まれている笑顔の奥様の「走らないで!」という声も元気いっぱいだ。

お土産など大きな荷物を持ったご主人も満面の笑みでふわふわしたものに包まれている。

家族サービスを頑張りましたねと、これが幸せだよねって私の心の声。しかし、白いふわふわしたものは何だったのだろう。

 私だって幸せな気分。そしてワクワク感で胸が一杯だ。心配なんてない。今まで何カ月も準備してきたのだから。
 まぁ少しあるとすれば、ジェットスターとの契約重量を少しオーバーしていることぐらいだ。
 そんなことを考えているところへ、ボストンバッグ一つだけ持っていかにも旅慣れているという強面こわもてのおやじが声をかけてきた「どこまでですか?」「あ~マニラです」と私。

続けて「ビジネスですか?」と聞かれて、つい「いいえ。スタディアブロードです」って正直に答えちゃった。

「いいえ。旅行です」と適当に答えとけばよかったと後悔したが、小心者の私は強面のおやじににらまれると嘘が付けないのだ。

強面おやじは、自分と同世代の人間がマニラで英会話の勉強という返答がに落ちない様子だったが「お互いに楽しみましょう!」と言って足早に行ってしまった。

あの顔と服装からみてもまともな職業の人ではないと即座にジャッジした私は男性が通り過ぎてくれたことにホッとした。何故なら心の声が、こんなおやじとは関わらない方が良いと警告を発していたからだった。

 楽しい気分でいる時は、他人の幸せも大いにウエルカムだ。そう思いながら先ほどの家族のことを思い浮かべて笑顔になっている。

そして、強面のおやじのことがふと頭に浮かんだ。なんかどこかで見たような顔だなんて考えていた。

ああいうおやじとは間違っても関わらない方が良いと脳に言い聞かせたら、今度は重量オーバーの事が気になってきた。

それというのも少し後ろめたい気持ちがあるからだった。

ジョットスターの機内持込手荷物は規定料金ではキャリーケース及びハンドバッグなどのお手回り品の計2個で基本重量は7Kgまでとなっていた。

  私はオプションとして2,800円を支払い、プラス3Kg分を追加したのだが、出発前に家で量ってみると11Kgで1Kgオーバー。

 まあ、実際に計量しないだろうと高をくくってチェックインカウンターに並んでいたら、なんと秤を持っている男性がいるではないか。
 ラインの前方を見ていると、重量オーバーを宣告されたであろう人が、肩を落として列から外れて別の列に並び直しているのが見えた。

 いや~参った、このドキドキ感は、若い頃に酒気帯び運転で警察官に止められた時以来かな~。しゃあないかって観念しているところに、秤がやってきた。

 案の定「お客さん。1Kgオーバーですのであちらの列に並んで追加契約の手続きをしてから、又この列に並んでください」と、促されて、肩を落として別のカウンターに並びなおそうとしているところに、後方に並んでいた、さっき、少しだけ挨拶した強面のおやじが私のところまできて「この人は僕の連れなので、僕の重量と合わせてください」と言ってくれた。

 最初は何を言っているか分からなかったが、よく聞いてみると「自分の手荷物が軽いのでその分を私に分けてあげる」という事らしい。

 そんなことが出来るのかと考えていると、秤は「貴方の手荷物なら量らなくてもOKです」ということになった。いや~、助かったな、本当にありがたかった。

追加料金を払うのは良いのだが、手続きの為に他の列に並び、完了後に又このチェックインカウンターの列に並ばなければならない。そんなことしていて、夕飯の時間が削られてしまうのが嫌だったのだ。

 私の胃袋は、しばらく食べられない寿司を早くたらふく食べろと要求しているし、喉チンコもキンキンに冷えたビールを繰り返し激しく要求してくる。

 そもそも、荷物の重量を何故1Kgもオーバーしちゃったのか。それは、最後まで持っていく事をためらっていたウクレレをケースごとリュックに入れたからだった。

ウクレレは、フィリピンで買えばよいという考えもあったが、俺のウクレレをマニラに連れて行ってあげたい。という思いが勝ったのだった。

 日本人は何でも擬人化すると、フィリッピンの先生に後で笑われる事になるのだが、連れて来たウクレレは私が1年前に初めて、初心者用セットとして売られていたものを1万円で買ったもので特別な思い入れがあるものだった。

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