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特別捜査官 スージー=甲斐=マシューズ

#創作大賞2023 #イラストストーリー部門
#宇佐崎しろ


とうとう朝が来てしまった。

あと数時間もすれば、学生たちが登校してくる。

黄金の弾はあと1発。もう時間が無い。


第1章 臨任教師現る


ひと月程前、ある政府機関にメッセージが送られてきた。

「横浜市にある私立高等学校で不審な失踪事件が起きている。」

最初は事務員さん、次に若い男性教師、そして男性教師に思いを寄せる女生徒も消えた。


女性事務員と若い教師が駆け落ちして、ショックを受けた女生徒が
家出をしたらしい。

しかし実際はそうでは無かった。

このまま夏休みが来れば有耶無耶のまま犠牲者が増えてゆくことと
なるであろう。



失踪したと思われる教師は英語担当だったので、

『スージー=甲斐=マシューズ捜査官』 に白羽の矢が立った。



6月も半ば季節は梅雨。校長室にて…。


校長先生「では生徒たちを刺激しないように迅速に対応願います。」

「問題があれば教頭の伊藤先生に相談してください。」


♡「わかりました。とりあえずは臨任として隠密調査を進めます。」


教頭「まずは山本先生のクラスから行きましょう。」


♡「はい。失踪された先生のクラスですね?」


教頭「そうです。生徒も見かけは普段通りに過ごしていますが、内心は穏やかではないでしょう。」

教頭とスージーは2-B教室に到着し中に入った。

教室内がざわつく…。


教頭「え~。今日から山本先生の代わりに英語教科を担当されます     スージー・甲斐先生です。担任は教頭である私が継続して、スージー先生には副担任として皆さんの補佐をしてもらいます。」


♡「みなさん初めまして、スージー=甲斐=マシューズと言います。英語を教えます。父が山梨の出身です。母はイギリス出身。見た目はコレだけれど、日本語ペラペラです。気軽にスージーって呼んでくださいませ。」


「お~っ。」 と男子たちの声が響き。

「は~い。」 と女子たちが被せる。


♡「じゃあ、みなさんあとで又お会いしましょう。シーユー。」


教頭と一緒に教室を出て、校内を案内してもらう。

事前に入手していた構内図と照らし合わせながら、事務室・教材準備室・購買・食堂・体育館などを回った。


教頭「しばらくは目立たないようにお願いしますね。」 と言うが
時季外れの臨任教師で金髪の容姿でどこに隠れれば良いのか…。


とりあえず2-Bの授業が始まるから行かなきゃ。

(おう、おう、何処彼処でヒソヒソされてるやん。隠密無理案件。)

教室に入ると生徒たちは大人しく席に着いている。
(さすが名門私立。)


♡「みなさん。改めて宜しくです。 スージー先生だよ~。」

「今日は一番前の列の生徒さんに英語で自己紹介してもらおう
かな?」

「まずは先生のことから紹介するね。」


(ここから英語で話し始めます。自動通訳ON)

「出身は山梨県。お父さんは農家の末っ子で、お母さんは通訳の仕事で日本にきて旅行中に父と知り合いました。父は母に一目ぼれして、いきなりプロポーズしたのwww。 もちろん断られたんだけど、
父は何度もアタックして母を射止めたの。最後は末っ子だから養子になってもいいって、どんだけ必死なのよぉ。」

「そして、母は翻訳の仕事を続けながら私を産んで育てた。」

「私は大学を機に地元を出て、横浜で教員資格を取って先生になろうとしたんだけれど、倍率やばくて無理だった。定年延長ってなんだ
よなー。」

「結局英会話教室の先生やってたんだけれども、ここで臨任募集が
あって飛びついたんだ!!」

「いやー。地元に帰るか迷ってただけに清水から飛び降りる気持ちで受けたら、受かっちゃいました~。」

(自動通訳OFF)


みんなポカーンとしてる。

(何人かは理解している模様。帰国子女もチラホラ居そうだね。)


♡「は~い。先生はこんな感じだよ。」

「質問あるかな?」


瑞穂「先生の両親の話ばかりで、ぜんぜんアナタの情報が無いん
ですけど~」


♡「するどいねぇ。 年は22歳。12月生まれ。趣味はランニングかな。」

「料理は無理。ウーバー最高。うどんも大好きです。」


瑞穂「なんかダメダメな感じね。まあ良いわ。宜しくスージー
先生。」



このクラスは8人掛ける4列の32人。

ひとりが家出中とされる田中さん。残りの31人から情報採れる
かな?


♡「じゃあ、1列目から英語で自己紹介してね。」

流暢に話す子。ゆっくりと丁寧に話す子。ぶっきらぼうな子。
可愛い子。

受け狙いしてハズす子。(性格出るなぁ…。)

♡「じゃあ最後に瑞穂さんプリーズ。」


瑞穂「いや、私3列目じゃん。まあ良いけど。」(自動翻訳ON)

「私は鬼龍瑞穂。趣味はピアノ。親の仕事の都合でEUに行ったり
来たりで、英語・ドイツ語・フランス語が少し出来ます。」

「運動は苦手。甘いものも苦手。あと映画を観るのが好きかな。」


♡「ありがとう。じゃあ明日は2列目ね。今日の授業はオシマイ
です。」



廊下に出ると声をかけてきた生徒がいた。


ミコ「先生。田中さんのことで相談があるの。」


♡「うん。いいよ。放課後に職員室に来てもらえるかな?」

(早速、有益な情報GETかな?)


そして、放課後。ミコが来て英語科の準備室に行き話を聞くことに
した。

「田中さんがね、事務員さんが居なくなった後に山本先生と学校内の教会で会っているのを見たの。」

「ミコと部活が一緒で、帰る約束をしていたから探していたら
見かけて…」

「山本先生が落ち込んでいて、田中さんは心配そうに声をかけて
いた。」

「そしてその数日後の日曜日に先生が失踪した…。」


♡「えっ。通報者?」


ミコ「そうみたい。しばらくして先生が臨任で来たから、
もしかしたらと思って…。」


♡「うんうん、それで?」


ミコ「田中さんは、その更に3日後に消えたの。」

「今日は先生に会うのって言ってた。」

「怖くて誰にも相談できなくて、匿名BOXというサイトに学校
関係者が3人失踪したって書き込んだの。」


(あ~。あの国民の悩み聞きますって言う怪しいHPね…。)


♡「なるほど。まあ調査してみるから他にも思い出したら
教えてね。」

「ありがとう。駅まで送るわ。」


ミコを駅まで送ってから自宅に戻った。

携帯にメッセージが届く。ゼロからだ。

「初日お疲れちゃ~ん。 通報者と接触出来たみたいだねぇ。」

「ヒトが3人も消えたんだから、学校を特定するのは簡単だった
けれど、通報者が誰か判らなくて困っていたよ。」

「いきなりお前が通報者か!!って現れたらもう犯人じゃんwww」

「とりあえず、3人の足取り追跡始めまーす。」

(うお、盗聴してやがったか…。)



それから1週間は変わったことはなく、慣れない授業をこなし、
2―Bの生徒の把握は終わった。特に怪しい生徒はいなかった。



月曜日、ミコが学校に来ていない。

とりあえずゼロにメールし、授業に向かう。


教室に入る前にメールが来た。

ゼロ「はーい。ゼロだよ。 雨が降ってて憂鬱だな。」

「昨日の夕方にミコさんへ田中さんからLINEが来て、日曜日の夜に
会いに行ったみたいだ。」

「家を出て直ぐに車に押し込まれて攫われたみたいだねぇ。」

(LINEの盗み見、防犯カメラの特定。ちょっと違法過ぎん??)


瑞穂「スージー先生。ミコに何かあった?」


♡「う。ううん?」(ビビッた~。)


瑞穂「先生。嘘下手だね。4人目かぁ。大変だね?」


♡「何か知っているのか?」


瑞穂「全く!!」

「でもさすがに2-Bの生徒が2人も居なくなったら、
やばくない??」


♡「・・・。とりあえず席に着け、授業をするよ。」

(ソレはやばい。更にひとり消えてしまった。)


授業中も攫われたミコのことが頭をよぎり、いらぬ不安に襲われる。

授業終了のチャイムが鳴ると職員室へと急いだ。


♡「伊藤先生!! 2-Bのミコさんが攫われたようです。」


教頭「はい。先ほど両親から連絡があり、家に帰って来たので落ち
着いたら明日からでも再登校するようです。」


♡「良かった。無事だったのね。」

「これからミコさんの自宅に行っても良いでしょうか?授業は他の
先生に代理をお願いしたいです。」


教頭「わかりました。手配が難しければ自習にします。」


♡「助かります。」


駐車場に向かい、愛車に乗り込む。

不意に助手席の窓がノックされた。


瑞穂「スージー先生。何処行くの?」


♡「あなた、授業は?」

瑞穂「なんか自習になったみたい。クラスLINEで通知来たよ。」

「何か動きがあったのカナ?」


♡「ミコさんが家に戻ってきたみたい。」


瑞穂「一緒に行っていい?」

「私が居たほうが、ミコも落ち着いて話をしてくれると思うよ。」


(なんか、瑞穂の笑顔が怖い…)


♡「いいよ。乗って。」(時間が勿体ない。)


ミコの住んでいるマンションに到着して、インターホンを鳴らす。

瑞穂「同じクラスの瑞穂です。スージー先生と一緒に様子を見に
来たのでミコさんに伝えていただけますか?」


ミコ母「お待ちください。」


(数分後、エントランスホールにミコの母親が現れた。)

(そしてインターホン脇の液晶に母親が映った。)

ミコ母「今、エントランスを開けるので部屋まで一緒にどうぞ…。」

(自動ドアが開き、二人は中に入りエレベーターに乗り込む)


「私にも昨夜の外泊の理由を言わないので、とても心配です。」

「大丈夫だからとしか言いませんので…」


♡「ミコさんは田中さんのことをとても心配していたので、咄嗟に
動いてしまったのでしょう。とにかく帰宅されてなによりです。」


ミコの自宅は15階。とても見晴らしが良い。

広いリビング、おしゃれなキッチンが目に入る。


(母親がコンコンとノックする。)

ミコ母 「ミコ、先生がお見えになったわよ。」

部屋のロックが開き、ミコが姿を現す。

ミコ「はい。2人とも部屋に入って。」


♡「ミコさん大丈夫?怪我とかしてない?」


ミコ「先生…。ごめんね。」
「瑞穂も会いに来てくれてありがとう。」


(そして昨夜のことをミコが語り始める。)

「田中さんからLINEが来て、急いで会いに行こうとしたら

急に車が横に来て攫われたの。」

「薬品みたいのをスプレーされたら意識が無くなって、
目が覚めたら窓のない部屋にいたの…。」


「そうしてしばらくしたら田中さんが入ってきて、こう言ったわ。」

「山本先生も私も家には帰らない。」
「ここが私たちの新しいホームなの。」

「本城様も良くしてくださるし、仲間も沢山出来た。」


(本城は最初にいなくなった事務員!!)


♡「3人とも生きていたのね?」


ミコ「多分。山本先生には会えなかったし、事務員さんにも会って
いない。」

「続けますね。」「田中さんは真っ白いワンピースを着て
裸足だった。」

「部屋は暖かくてフローリングでした。」


「そして彼女は、私に仲間に成らないかと言いました。」

「私は田中さんに会いたくて外に出ただけで、そんなことは今は
考えられないと答えました。」

「彼女はわかったといい、とりあえず敵意はないことを告げる。」

「そして部屋の隅にある監視カメラに右手を挙げて、合図をした。」

「彼女と同じ服を着た女性が2人入ってきて食事をテーブル置いて
出てゆきました。」

田中「朝ごはんを一緒に食べましょう。食べ終わったら自宅に
送らせるわ。」

献立はサラダに焼き立てのパンにベーコンのシチュー。


ミコ「普通に美味しかったし、薬品のにおいもしなかった。」

「彼女たちは、野菜や家畜を育てて音楽や体操をして過ごすそう。」

「最後に興味があればここにメッセージをとURLの書かれた
カードをくれた。」


♡「ちょっと見せてもらって良い?」(と言いカードを受け取る。)

瑞穂「普通の紙のカードみたいね。」 
ミコ「URLしか書いてないよ。」


♡「今晩だけ預かっていいかな?」

ミコ「どうぞ。」


「帰宅時はアイマスクをされて、眠らされたりとかは無かった。
車を何度か乗り換えて、無事に帰って来れた。」「道中は、途中で
真っすぐに移動する感覚や強い風の音が聞こえていた。」


瑞穂「アクアラインじゃないの?」「施設は千葉辺り?」


♡「そうかもね。」(この子何?頭の回転が普通じゃない…。)


ミコ「明日から学校行くね。瑞穂さんもありがとう。」

瑞穂「じゃあ、また明日ね。」

「スージー先生。わたしはここから帰るから明日学校でね。」


♡「お母さま。本人も明日学校に来ると申してましたので、

安心してください。警察にも今回のことは届けなくて大丈夫です。」


瑞穂と一緒にエレベーターに乗り、マンションを出た。

ひとりで車に乗り込み、市庁舎の地下へと向かう。


一番下の一番端に車を停めた。

しばらくすると車にスーツ姿の男が近づいてきた。

車の窓を開けて、ミコから預かったカードを渡す。

「お預かりします。」と言うと柱の影に消えていった。



翌日、ミコが登校してきた。今まで通りの日常だ。

放課後になり、ゼロからメールが来る。

「例のカードには、ミコの指紋・田中の指紋・スージーの
指紋だけ。」

「ICタグも無いし、ただの紙のカード。」

「URLは団体のもので農業体験出来ますって感じの自然保護団体。」

「但し、場所が書いてないんだよね…。」

「ミコちゃんが乗ったとされる車も特定できなかった。」


「あとね本城さんは、既に死亡届が出ている。」

「それも2年前にだ…。」「ほかに情報出たら連絡しまーす。」


(!!)

♡「どういう事だ??」


瑞穂「スージー先生。校長が探してたけど?」

(おお。何処から沸いた?)


♡「ありがとう。ミコは大丈夫そうか?」


瑞穂「うん。表面上は平気そうだけれど、田中さんのことが気に
なってそうではあるね…。」


♡「とりあえず、校長室に行くか…。」

「お前も気を付けて帰れよ。」


(校長室の前に立ちドアをノックする。)


「どうぞ。」と言われ中に入る。

中には伊藤教頭の姿もあった。


校長「スージー先生。こちらは機関からの封筒です。」

「あと、1-Eの佐藤さんが日曜日から家に帰って来て無い様です。親御さんから本日学校に連絡がありました。」


♡「ぐ。そんな…。」


教頭「佐藤さんは、田中さんの部活の後輩ですね。」

校長「田中さんと佐藤さんは陸上部です。」

「先生はランニングが趣味なんですよね?」


♡「はい。陸上部に顔出してみます。」(2人の視線が痛い。)


校長室を出るとグラウンドに向かう。ミコも陸上部だったな。

(封書の中身は、例のカードと生徒の写真が数枚。)


ゼロからメールが来た。

「やっほー。元気してる??」

「例のカードの返却とURLにアクセスした生徒の写真だよ。」

「他の生徒にも勧誘していたみたいだね。」

「写真の裏にクラスと氏名書いておいたからヨロシク。」

「HPへのアクセスは痕跡消してあるから安心してちょ。バーイ。」


♡「なんか色々先回りされていて気持ち悪いな。」

「とりあえず、陸上部の連中はと…。」


(ミコを見つけ歩み寄る。)


♡「ミコ、ちょっといいか?」

ミコ「後輩の佐藤さんが昨日・今日と部活に来ていないようです。」

♡「ああ。そうみたいだな。」「顧問の先生は何処かな?」


(あそこの背の高い先生。と指をさすミコ。)


♡「すみません。2-Bの副担任のスージーです。」

高橋「はい。校長からコーチを頼まれたとか?」


♡「(うーーー。)そうです。大学時代短距離走していました。」

「田舎育ちなので、走るのは得意です。」
(なんかハメられてるなぁ。)


高橋「みんなー。集まって。」(男女合わせて20人くらいが
集合する。)

「今日からスージー先生が陸上部のコーチになってくれます。」

「先生よりも詳しから質問していいぞ。」


♡「スージーです。みなさん宜しくね。主に2年生の英語を
担当しています。」

「大学時代は短距離走の選手で、ランニングは日課にしています。」

「こちらからも声かけるので、みんな頑張ろうね。」


(一同)「よろしくお願いします。スージーコーチ。」


準備運動を終えて、各々が練習を始める。

メンバーの中に3年生の山田くんがいた。写真に名前が書いてある。

♡「山田くん、ちょっといいかな?」  「はい、なんでしょう。」


♡「田中さんのこと少し聞いていい?」

「田中さんからカードもらったことある?」


山田「ありますよ。受験あるし、夏期講習あるから参加できないと

伝えました。」(なるほど、強制はしない流れか。)


♡「他に誘われた子はわかるかな?」  田中「いいえ。」


♡「わかったわ。ありがとうね。」

「次は1年の伊藤さんか…。」(伊藤さんを探す。)

「いた、あの子だね。」

「伊藤さん、ちょっとお話いいかな?」  


伊藤「はい?何でしょう。」


♡「田中さんからカードもらったことあるかな?」 

伊藤「あります。」「夏休みに農業体験の手伝いを頼まれました。」

♡「ほかに誘われた子とか知っているかな?」  


伊藤「いいえ。」

「田中先輩からは、伊藤さんあなただけよ。ナイショねと
言われました。」

(なるほど個別に勧誘して、口も堅そうな子を選んでいる。)


もう1枚は既に消えた佐藤さんか…。


ミコ「先生。もしかして佐藤さんも…?」(スージーは口元に
指を立てシーっと合図した。)


♡「練習が終わったらお話するね。」


30分ほどすると雲行きが怪しくなり、小雨が降ってきた。

高橋「みんな。今日はここで練習終わりにします。」

「身体を冷やさないようにして、早めに帰りなさい。では解散。」


(一同)「ありがとうございましたー。」


瑞穂「せーんせ!!」 (あーーーー。心臓ヤバイ。脅かすなよ。)

♡「なんだ、瑞穂。まだ学校に居たのか?」

瑞穂「図書室に居たら、遅くなっちゃった。」

「ミコは大丈夫そうだけれど、何かあった?」


♡「実は4人目の失踪者が出て…。」

「ミコ以外にも声をかけていたらしい。」

「他の学年にも注意が必要だな。」


瑞穂「なるほどね~。狙われた学園だぁ。」


♡「そうだな。お前も勝手な行動をしないでくれよ。」


瑞穂「はーい。了解でーす。」


ミコ「先生。お待たせしました。」
(着替えを終えて駐車場にミコが来た。)


♡「昨日預かったカードだ。ありがとうな。」

「特に怪しい事はなかったが、URLにアクセスしないほうが
いい。」

「田中から連絡があったら、私にも連絡をしてくれないかな?」


ミコ「はい。それで佐藤さんは?」


♡「ああ。たぶんミコが一度、連れていかれた施設にいると思う。」

「自分の意思で行った様だから、連れ戻すのは難しい。」

「未だに場所の特定は出来てないしな…。」


瑞穂「ミコちゃん帰るの? 一緒に帰ろうか?」

ミコ「うん。なんか一人で帰るの怖いかも…。ありがとう。」


♡「瑞穂。ミコをよろしくな。」

「とにかく不審なことがあれば先生に連絡してくれ。」

(3人でLINEグループを作った。)


瑞穂「名前は”牛筋煮込み”がいいね。」

ミコ「あはは。ソレいいね。」


♡「スージー買います。いや買わんからな!!」

(田舎では子供のころ揶揄われたな…。)

「まあ、ミコの笑顔が見れたからいいよ。気を付けて帰れよ。」


2人を見送り、職員室へ戻る。

途中、廊下の奥から視線を感じる。


事務員の本城だ。生きてる。こちらへと向かってくる。

本城「スージー先生ですね。あまり探られるのは好きじゃない
ですよ。」

♡「3人を還してくれ!!」

本城「3人は自分の意思で団体に来ました。」

「取り合えず、警告はしましたよ。」
(本城は踵を返して闇に溶け込んだ。)


♡「待て。」 (もう本城の姿は無い。)



その夜、スージーは夢を見た。子供のころの夢。


「すーじーかいます。すーじーかいます。」男の子たちが私の
後ろから近づき、囃し立てる。

振り返り、男子を睨む。泣きながら家に帰り母に縋りつく。


♡「私、甲斐って名前嫌い。」


スー母「私はお父さんの苗字好きよ。もちろんお父さんの事も。」

「マシューズはお母さんの苗字。お爺ちゃんの苗字。ひいお爺ちゃんの苗字。」

「あなたはパパやお爺ちゃん嫌い?」


♡「ううん。大好きだよ。」


スー母「いじめる男子もスージーが好きなのよ。」

「でもね、本当に嫌な時はこう云いなさい。」

「スージーを怒らせるとスミスが来るよって。」


♡「スミスってなあに?」


スー母「何だろうね?あはは。」



朝が来た。瑞穂の言葉で昔のこと思い出しちゃった。


ゼロからメールが来てる。

「おっは~。伊藤宛に田中からLINEが来た。」

「今度の日曜日に農業体験の説明会があるらしい。」


「取り合えず、警戒をしておけ。」

「あとアジトの特定が出来ないから追跡銃を手配した。」

「本城が死人なら迷わずに使え。」

「一度弾を受ければ、血液中にナノチップが食い込み追跡可能となる。」

「君は死んじゃ駄目だよ~。ではまた。」


郵便受けにゲーム機の箱が届いている。


♡「最新のポータブルゲーム機。」(の訳がない。)


中身はやっぱり”追跡銃”。弾は純金製3発のみ。

(だって税金だもの…。)

弾頭に追跡カプセル入ったやつ。



水曜・木曜と学校内に変化はなかった。


しかし金曜日に動きがあった。

保険医の清水先生が無断欠勤。

ついに5人目の失踪者。


ミコ「先生。またなの?」「なんだか怖いよ。」


♡「大丈夫。多分生きているはず。」

「ミコにお願いがある。伊藤さんに日曜日のことを聞いて欲しい。」

「さりげなくでいいから…。」


ミコ「わかった。頑張る。」



放課後、陸上部の練習中にミコが伊藤さんに話しかけている。


ミコ「せんせい。ミコも説明会に行くことにしたよ。」


♡「駄目だよ。何かあったらどうするの?」


ミコ「大丈夫だよ。なんかバスで会場まで行くみたい。」

「何かあればLINEするね。」

日曜日の夜。ミコからLINEが来た。


「説明会に行ってきたよ。」「男女問わず50人くらい。」

「場所は市内の普通の会議室でした。」

「育てた野菜やハムやベーコンとかを試食して、野菜体験か家畜体験を選ぶみたい。」

「私は野菜コースにした。夏休み前に再度連絡があるみたい。」

「伊藤さんも同じコースになった。」

「田中さんは会場には居なかったよ。」

「以上です。」


♡「あくまでも、自分で選択させる。」
(恐怖心は生まれないよな…。)


ゼロからメール。

「おつつー。会議室は普通のレンタル会議室。」

「誰でも予約可能。」「バスもレンタル。」

「ただ、申し込み者は団体名のみ。住所は無記載。」

「1-Eの佐藤さんと保険の清水先生は足取り追えず。」

「もう少し調べてみるよ。じゃあ。」

(携帯のスピーカーで盗聴。LINEも盗み見てる…。
ゼロはヤバイ奴だよ。)


なるべく携帯触らないようにしよう。

とりあえず、今から保健室を探りに行くか。

駐車場に車を停め、守衛さんに忘れ物を取りに来たと言い。

校舎に入れてもらう。


職員室で保健室の鍵を見つけ、廊下を歩く。

夜の学校は気味が悪い。


保健室のドアを開け、中へと入る。

電気を点け引き出しを開けてみる。

農業体験のパンフレットだ。やっぱり勧誘されていたのだ。


謎「せんせい。何やってるの??」

♡「わーーーー。」(慌てて口を押える。)

「瑞穂??」


瑞穂「ミコからのLINE見て、学校に来るんじゃないかと
思ったの。」

「もしかして、泣いてるの?涙目だよ(ニッコリ)」


♡「泣いてない。漏らしてもいない。」

「瑞穂はどうやって中に?」


瑞穂「合鍵あるよ。ホラ。」(と言って可愛いキーホルダー付きの
鍵を見せる。)

「何か足音がするね。」 (私には聞こえない。)


♡「伏せて。」(瑞穂を抱き寄せ身体を低くした。)

右腕に鈍い痛みがはしる。


本城「警告しただろう。お前は超えてはいけない線を越えて
しまった。」

(本城の左腕が幅の広い鎌の様な形状をしている。)


”ドン”っと追跡銃を撃つ。当たったと思われたが、動きが速い。
弾は大きく外れた。


♡「逃げるよ瑞穂。」

瑞穂「せんせい。待って私運動苦手。」

「先に逃げて、私は飛べるから…。」


♡「!!!!!」 (飛べる?どういう事。)


瑞穂「鬼龍はインプの血族。小鬼の力で空が飛べる。」

(確かに天井に張り付いてる。そのまま鎌を躱して、私の前に
出る。)

今度は狙って追跡銃を撃つ。

放たれた黄金弾を本城は右手で詰まんでいる。

本城「当たらないよ。諦めな。」


♡「嘘。イヤイヤ無理。死ぬわ私。」

「とりあえず瑞穂は逃げて。」(ってもういない。)


瑞穂「炎の鬼、襲い掛かれ。」

私と本城の間に炎の塊が現れて、視界を塞いだ。


瑞穂「せんせい。早く。」

♡「ありがとう。二手に逃げましょう。」

(なるべく瑞穂から離れなきゃ。)

「って、追ってこないじゃん。瑞穂狙われてるじゃん。」


瑞穂「鬼さんこちら~。こっちやでー。」

(本城がイラついているのがこちらにも伝わってくる。)

「せんせい。逃げて。」って小声で言ってる。

(手でシッシって感じで邪魔にされてる??足手まとい?)


本城は目が見えないのか鎌を適当に振り回している。

とりあえず距離を取って立て直そう。

音が止んだ。誰もいない??


スージーは2-Bの教室へ逃げ込んだ。

パンプスは脱げ、ストッキングも伝線している。


教室の窓を叩く音がする。

瑞穂「せんせい。開けて。(小声)」  (マジで宙に浮いてる。)

「マジでヤバかったよ。鎌お化け、少しづつだけれど回復してる
みたい。」

「弾はあと何発あるの?」


♡「1発。」

瑞穂「え?ショボい。なんで?」

♡「特殊な弾なの。」

「弾頭に特殊な加工がしてあって、命中したら何処に逃げても
追跡可能になるのよ。」

瑞穂「へー。ハイテクなんだね。」

♡「問題は相手が速すぎて当たらないのよ。」

瑞穂「じゃあ。動きを停めればいいの?私に任せて。」


♡「危ないと思ったら逃げるのよ。」

瑞穂「大丈夫。」



空が少し明るくなってきた。あと数時間で生徒たちが登校してくる。


瑞穂「本城いたよ。守衛室。」

♡「わかった。移動しよう。」


守衛室に着いた。

瑞穂「氷の鬼、全てを停めろ。」

本城が氷に包まれ、動きが止まる。

スージは狙いを定めて右肩を撃った。黄金弾が命中して

本城が前のめりに倒れた。氷が解けて、本城が呻く。


本城「右肩が熱い。焼けるようだ。おのれ小娘。」

守衛室を出た本城は廊下の奥へと姿を消した。


守衛さんが2Fからこちらに向かってきた。

「大丈夫ですか?」 とこちらに声をかける。


瑞穂「せんせい。危ない。」 (柱の影に隠れていた瑞穂が体当たり

してきた。)

守衛さんの左手が鎌に変わり、瑞穂の背中に当たる。

床に強くたたきつけられた瑞穂はピクリとも動かない。


◆「ちょこまかと煩い小娘が…。あとで目玉をくり抜いていたぶり
殺す。」

「その前にオマエを始末するとしよう。」


♡「瑞穂、瑞穂しっかりしろ。」 (全く反応が無い。脳震盪か?)

「許せない。もうどうなってもいいわ。」 


「スミスに我を託す。マシューの名の基にYa◎☆#Da□…#####」

(スージーから青い光が放たれ、辺りが白く輝き、2mを超える
長髪のガタイの良い男が現れた。)


金色の髪は腰まで伸びていて、腕や脚は丸太のように太い。

上半身は裸で、ズボンはぼろ布で出来た古臭いもの。

靴も履いておらず裸足であるが、地面に足が点いていない。



◆「あの女は何処に行った。」「まあいい、邪魔をする奴は全て
始末する。」


♡「・・・。」


◆「言葉が通じないのか?」「死ね。」

(左手の鎌で大男を薙ぎ払おうとする。)


しかし既にそこには大男の姿は無い。

◆「なにっ!?」

(ドッ。という衝撃とともに前に倒れる。)


背中に衝撃を受け倒されたが、すぐさま鎌で周囲を薙ぎ払いつつ

体制を整える。


が、今度は右側から新たな衝撃を受ける。

そして今度は左から、次にアゴ、さらに腹部、さすがに膝をつく
魔物…。


◆「オノレ、わしよりも速いだと…。」

「この身体では、敵わん。」

「小娘を殺して、身体を奪おう。」(瑞穂の倒れていた場所に視線をやる。)

既に瑞穂はそこに居ない。大男に抱えられ柱の影に移動している。

瑞穂「あなたは組織の応援?」

♡「…。」

瑞穂「先ほど保健室で回収しておいた弾です。使ってください。」

(本城に化けていた怪物が素手でキャッチした黄金弾。そのまま
弾頭を床に捨てたらしかった。)


♡「・・・。」
(コクっと頷き手のひらを上にし、瑞穂から受け取る。)


怪物目掛けて高速移動する大男、怪物は両腕を鎌に変え

防御姿勢を取る。


が、腹部を太い脚で蹴り上げられて仰向けに倒れる。


起き上がると同時に後ろから顔を手のひらで挟むように

高速でサンドした。


手のひらに乗せていた黄金弾の弾頭は、手のひらにくっついたままで

バンっという音とともに光を放つ。そのまま怪物の頭部は消滅した。


柱の影から瑞穂が姿を現し、大男に語りかける。

瑞穂「助けてくれてありがとう。」

「あなたの名前は?」


♡『我はスミス=マシュー。子孫に身体を返そう。』

(大男の身体が青い光に包まれ、青い光が胸に集まると辺りが
白く輝く。)


光の塊からスージーが現れた。瑞穂が彼女の体をゆすると

目を覚ましたようだ。


♡「瑞穂?大丈夫?」


瑞穂「地の鬼の力で身体を硬化したので大丈夫です。」

「脳震盪は起こしましたが、目覚めたらスミスさんが居ました。」


♡「スミス?ああ、また助けられたのね…。」



(回想)

あれは小学校5年の頃だったろうか、近所の同級生たちと山に遊びに行って

夕方になった時…。


突然野生の大イノシシと出くわしてしまった。

いつも私をからかってくる男子が、私たちの前に立ち「早く逃げて」と言う。


大イノシシを棒で追い払おうとするが、逆に興奮させてしまい突進してくる。

♡「玲くん、あぶない!!」

大イノシシが棒を持つ少年に体当たりして、足にぶつかり、倒れて
しまう。


♡「誰か助けて…。」

『助けが必要か?』とスージーの頭の中に声が響く。

♡「何?誰?」「お願い助けて下さい。」

『我に任せろ…。』 
(スージーの周辺が白く輝き、謎の大男が姿を現した。)


大男はイノシシを蹴り飛ばす。 驚いた大イノシシは森の奥へと
逃げて行った。


『スージーよ。本当に困った時にだけ助けよう。』

『怒り・悲しみ・恐怖・絶望、全てからお前を守ろう…。』



スー母「スージー?大丈夫?」

(目を開けると自宅の寝室で、目の前に母親がいた。)

「あなたは2日も眠っていたのよ…。」


♡「玲くんは?」


スー母「大丈夫よ。膝を少し擦りむいただけ。」


♡「良かった…。」(安心してまた目を瞑った。)


夕方に再び目を覚まし、食事を摂っていると玲が家にやってきた。

玲「この間は、ありがとう。もう死ぬかと思った。」

「スージーが言ってたことは、本当だったんだな…。」

「スミスなんていないって、からかってごめん。」


♡「いいえ。あなたが私たちの盾になってくれたこと。」

「こちらこそ、ありがとう。玲も怖かったよね。」

「その後、大人に知らせてくれたのよね。」


玲「ああ。急いで交番に駆け込んで、大人達でスージーを家まで運んだんだ。」「スージーの母ちゃんが、恐怖で気絶しただけって言ってたけれど、2日も目を覚まさないなんて心配したよ…。」


♡「うん。もう大丈夫だよ。」

「また明日、学校でね。」


玲を見送り、風呂に入って落ち着いたころに父母が部屋に
やってきた。

スー母「玲君が、スミスを見たって言ってたのよ?本当なのかな?」


♡「私は見てないよ…。」「でも頭の中で声が聞こえた。」

「我に任せよってさ。」

「そしたら、目の前が明るくなって気を失ったんだ…。」


スー母「そう。 お母さんの田舎の神様でスミス様という
大地の神がいるの。」

「ただね。直系男子にしか呼べない神様なのよ…。」


スー父「お父さんのご先祖は武田の忍者で、男が女になり女が男に
なれる術があったらしい。」

「お父さんは畑仕事しか出来ないけれど、スージーのひい爺ちゃんは使えたわ。」「子供の時、見せてもらった。里親に言ったが信じてくれなかったな…。」

「それと関係があるのかなぁ?」

「う~ん?」っと両親が唸っている。


♡「知らないことばかりで、頭痛くなってきたよ…。」

「とにかく大丈夫だから、おやすみなさい。」

「お父さんもお母さんも大好きだよ。」


部屋の外で父母の話し声がする。

「本部…」「報告…」

「大丈夫…」「大人になったら…」


また、睡魔が襲ってきてスージーは目を閉じた。



(現実に戻り)

携帯電話が鳴る。

ゼロからだ…。


ゼロ「スージー大丈夫か?」

「応援部隊を学校に向かわせるか?」


♡「大丈夫よ。もう解決したわ。」

「本城の遺体と警備の方の遺体を回収しなきゃだけれど…。」

「あとは、新しい靴とストッキングが欲しいわね。」


ゼロ「警備員は本城に殺られたのか?」


♡「えーっと。アレはその…。」


瑞穂「せんせい。ちょっと貸して。」

「組織の方?怪物が先生を襲って肩に追跡銃を当てたけど、
逃亡されて。」

「安心していたら、守衛さんに乗り移って更に攻撃をして
きたの…。」

「私が気絶していたら、応援のスミスさんが現れて怪物の頭を
潰して…。」

「そしてスミスさんは消えてしまった。」


♡「そうそう。だから、追跡は出来ません。」
(横から喋るスージー。)


ゼロ「なるほどな。スミス様か。」

「遺体の処理は手配するから、帰宅して休め。」

「まあ、解析して報告するよ。お疲れ様。」

「瑞穂ちゃんもありがとうな。でも危険な事は今後止めてほしい。」


通話が終了し、一気に疲れがやってくる。


♡「瑞穂。明日と言っても今日か…。あとでLINEする。」

「とにかく家に帰れ。」


瑞穂「はーい。」



しばらくして機関員が学校に到着して、警備員の遺体をまず収容。

守衛室の近くの廊下に本城の遺体もあった。腐敗はしていない。

修復能力の賜物か?


保健室と守衛室を封鎖して一時撤収した。

靴とストッキングも支給された。(ゼロ仕事してんなぁ。)


♡「眠い。とりあえず職員室で仮眠しよう…。」



教頭「先生。スージー先生…。」

教頭に肩を揺すられ目を覚ます。90分ほど寝ていたようだ。


「大丈夫ですか?今日はお休みにして帰宅されては?」


♡「いえいえ、大丈夫です。」「慣れてますから…。」


放課後になった。

昨夜の事件は特に問題にもならず、警備員も別の人物が派遣されて
いる。

ゼロからメールが来た。

「千葉の施設が判明した。施設に潜入した清水先生からの連絡が
あった。」

「山本先生・佐藤さんは無事に保護された。」
「田中さんは消息不明。」

「施設側も本城が消えた事で混乱しているみたいだ。」



LINEにもメッセージが届く。

「ゼロだよ~。」「スージーの同僚だ。」

「新しくグループLINEに加入しました。」

「山本先生と保険の清水先生、そして佐藤さんは無事に保護されたから安心して。」
「田中さんは自分の意思で他の施設に移動したみたいだね…。」


ミコ「よかった。佐藤さん無事だったんだね。」

瑞穂「田中さんは教団側に落ちたのね…。」

(悪魔的なスタンプをUPしてくる。)


♡「瑞穂、おふざけ禁止だ!!」

瑞穂が(「OKです。」のスタンプをUPした。)


瑞穂「せんせい。今後どうするの?」(背後に瑞穂が居た。)

♡「おおお、お前。」(ビクッとするスージー。)

「とりあえず、山本先生から教団について情報を得て

田中さんの足取りを追う事になるわね。」

「夏休みになったらほかの施設についても調査をする事になるわ。」

「あなたとももうすぐお別れね…。」


瑞穂「寂しくなるなぁ…。フフ。」(寂しそうに笑う。)



後日、山本先生は解雇。佐藤さんは復学。

清水先生はそのまま保険医続行。


そして、わたしは…。


校長「スージー先生が正式に我が校の英語教師となります。」

「山本先生はご実家に帰るそうです。全体への挨拶はありません。」

「2-Bのクラス担任は教頭先生が代理のままで、スージー先生はひき続き副担任となります。」

「夏休み中も危険な集まりには参加しない。闇バイトももちろん
禁止。」

「何かあれば、担任の先生や学校に連絡をしてください。」

「また9月に皆さんの元気な笑顔を見たいです。 以上」


教頭「スージー先生良かったですね。」

「臨任から正職員ですよ。」「授業は忙しくなりますが、遣り甲斐
有りますよ。」

♡「はあ。頑張ります。」(何故か正式採用された。)


もともとエージェントの依頼も少なく、世界を股にかける仕事では
ない。

地に足着いた仕事に就けた事には感謝せねばなるまい。


学校の夏休みや冬休みなどは、政府機関の仕事を優先して良いらしいがなんとも複雑な心境である。


学園内の事件を解決したのは、スミス様と協力者の清水先生。

わたしはエージェントとしては見習いだし、英語教師としても未熟。

瑞穂にも助けられて、いろいろと課題が見えた。


とりあえず、夏休みは田舎に一度帰ろう。




第2章 スージー修行する



瑞穂「せんせい。良かったね。」「お別れしなくて済んだよ。」

(ニコニコして教材準備室の椅子に座る瑞穂。)


♡「こないだは、先生居なくなっちゃうの?って泣きそうな顔して

いたくせに(笑)」


瑞穂「そんなことないもん。」

ミコ「あら、『寂しくなるなぁ。』ってため息ついてたじゃない?」

瑞穂「ミコ、言わないでっていったじゃない。」

ミコ「そうでしたっけ??」

「先生は陸上部の合宿の話、聞きましたか?」


♡「ああ、長野県で1週間ほどのやつな。」「参加予定だ。」

瑞穂「ええ、いいなぁ。わたしも行きたい。運動苦手だけれども。」

♡「遊びに行くわけでは無いよ。」

ミコ「そうだよ。秋の大会に向けてガチなやつだヨ。」

瑞穂「日程と場所教えてくれたら差し入れするよ。」
「長野にも別荘あるし。」

ミコ「いいなぁ。別荘。」


梅雨も明けて、平和な日常が戻ってきた。

頑張れスージー。課題は山積みだ。




夏が来た。燦燦と陽が降り注ぐ夏。

山梨の実家でボーっと畳に寝転ぶスージー。

♡「あー。実家はいいなぁ。」

「お母さん、お昼ごはん何~。」


スー母「もう。暇ならお父さんの畑を手伝いなさいよ。」

♡「いやでーす。」

「お母さんは、最近は機関依頼無いの??」


スー母「もう、現役引退して翻訳の仕事もセーブしているわ。」

「お父さんとゆっくり過ごすのが楽しくてね。」


♡「そうなんだぁ。今度いろいろ教えてほしい。」

「わたしはまだまだ新米で、上手くやれる自信もない。」


スー母「そろそろ、お父さんが戻ってくるからご飯の支度を
手伝って。」

♡「はいよ。」

スー母「野菜の天ぷらとお素麺にするわ。」


父が帰宅して3人でのお昼ごはん。

♡「夏休み明けから正式採用になったよ。」

スー父「おお、それは良かったな。」「教員免許を苦労して取ったのに活かせないと辛いものな。」

「母さんもエージェントと翻訳家の2足わらじだったし、この村の
出身者もエージェント多いよな。」


♡「ええ、そうなの?」

スー母「甲斐は忍者の末裔が多いから副業も多いと聞くわね。」

「専業のエージェントは珍しいけれどもね。 平和が一番よ。」

「あなたの幼馴染の玲くんもエージェントよ?」


♡「は?そうなの?」

スー母「高校の時から機関バイトしてて、卒業時にスカウト
されていたわよ。」

♡「知らんかったよ。」

「そう言えばお父さん。ひい爺ちゃんって今どこにいるの?」

スー父「何処にいるかな?あとで畑の大叔父さんに聞いておくわ。」

「何か気になることでも有るのか?」

♡「ちょっと忍者の事について知りたいの。」

「男が女になる術があるって父さん昔言ってたよ?」

スー父「ああ、オンナオトコノタマ何とかってやつな。」

♡「中途半端な情報ね(笑)」


夜になって幼馴染の玲が家に来た。

玲「スージー久しぶり。2-3年ぶりかな?」

♡「玲ってエージェントなの??」

玲「言ってなかったけ?まあ大した仕事してないけれどさ。」

「平和が一番。」「俺は高卒で機関に就職したから、先輩だな。」

♡「うお。玲のくせに生意気。」「よろしく先輩。」

スー父「大叔父さんに聞いたら、ひい爺ちゃん北海道に居るみたいだぞ。」

「増えすぎたシカや熊を駆除しているみたいだな。」

「90歳超えているのに凄いなぁ。」

「玲君ももっと呑みなさい。今夜は楽しいな。」

♡「お父さん。止めて。」「玲ごめんね。」

玲「田舎は呑みが多いから、慣れてるよ。」
「会合のたびに呑まされるしな。」

スー母「飲み会は情報交換の場だから、どこの国でも同じね。」

「私もワインやスコッチを沢山呑んだわ。」

♡「なんか、ごめん…。」

こうして山梨の夜は更けてゆく。


眠る前にゼロにメールでひい爺ちゃんの所在調査を依頼する事に
した。

「甲斐十蔵 カイジュウゾウ」「北海道の何処か」

「狩猟免許有り」「調査願います」



♡「明日は何食べようかな…。zzz」


翌日、昼まで寝ているとメール着信アリ。


「おは~。ゼロだよ。」

「カイジュウゾウ氏は北海道の知床にいる模様。」

「今は禁猟期間なので、山には入っていないはず。」

「猟友会の会長さんの自宅地図を送るわ。」



♡「お母さん、今から北海道に行ってくるわ。」

スー母「あら、ひいお爺ちゃんのところに行くの?」

♡「そう。ちょっと聞きたいことあってさ。」

「飛行機の時間ギリギリだからもう行くね。じゃあ。」


松本空港から札幌空港。ラウンジで一晩過ごしてから女満別空港まで  移動かな。そこから車で2時間ちょいかぁ。

まあ、飛行機の中で考えよ…。


札幌空港に到着。政府機関パスでラウンジは利用可能。

食べて飲んで、寝て、レンタカーの手配して、また寝て早朝便で

女満別空港まで来た。

とりあえず猟友会の会長さんの自宅に車で移動。

会長さんは出かけているらしく、戻るまでに時間が有るからと

会長の奥さんに近くの温泉を奨められる。タダ券もいただいた。


温泉は人が少なくて、広々としている。

♡「長距離運転したあとの温泉は格別だね~。」


近くにいた長い黒髪の奥様が声をかけてきた。

奥様「どちらから来ましたの?」

♡「山梨からひい爺ちゃんに会いに来ました。」

「これから探すのですが、何処にいるのやらで…」


奥様「それは大変なこと。何かあればウチの小料理屋に寄って
くださいね。」

「先にあがるので、名刺を置いておくわね。」


♡「ありがとうございます。」「お名前は?」

奥様「ジュンコです。」

♡「ジュンコさん、宜しくお願いします。」「私はスージーです。」

奥様「スージーちゃん。じゃあまたね。」


奥様は温泉からあがり、更衣室へと消えていった。


スージーが温泉から上がると籠の中に名刺が1枚。

「小料理屋 順子」

「裏には地図と電話番号が書いてある。」


温泉から上がって着替えてから会長宅に戻る。

会長「スージーさん。十蔵さんに会いに来たんだって?」

♡「はい。何処にいるか判りますか?」

会長「家はあるけど、禁猟期間は温泉巡りやらでなかなか帰らないんだよなぁ。」

♡「ええっ。マジかぁ。」(空振りか?)

会長「順子さんの所にはちょくちょく顔を出すみたいだから、行ってごらんよ。」

♡「小料理屋さんですか?」

会長「そうそう。山で採れたジビエとかも食べられるお店だよ。」

♡「ジュンコさんなら何か知っているかも。
ありがとうございます。」


会長さんの家から車で10分くらいのところに
『小料理屋 順子』があった。

お店の中は4-5人が座れるカウンターとお座敷が2つ。

ジュンコ「いらっしゃいませ。あら、温泉で会った
スージーちゃんね。」

♡「はい。先ほどはどうもです。」

「猟友会の会長さんが、ジュンコさんのお店によく来るらしいって
情報をいただきまして…。」

ジュンコ「ひい爺ちゃんって言ってましたよね?」

「年配の方はあまりお見掛けしないわね。」

♡「十蔵って言うんですが…。」

ジュンコ「ジュウちゃんのこと??」

「ジュウちゃんならお座敷に…。あら居ないわね。」
「おトイレかしら??」

「でもジュウちゃんは40過ぎくらいよ?」

♡「??」

(会長さんが知っているひい爺ちゃんとジュンコさんが知っている
お客さんは同一なの?)


♡「ちょっと車に荷物を取りに行ってきますね。」

ジュンコ「じゃあお席用意しておくわ。」


スージが車に戻ると、男性が近づいてくる。

男性「スージーかい?」

♡「はい。」

男性「甲斐真の孫か?」

♡「会った事ないけれど、そうです。」

男性「よう来たな。十蔵じゃ。」

♡「え~。」「どう見てもお父さんより若い!!」

十蔵「細かいことは中で話すから叔父さんって事で話を合わせて
くれんか?」

♡「わかったわ。」


店の中に戻る2人。

ジュンコ「あら、ジュウさん。スージーちゃんがあなたを探して
いたのよ。」


十蔵「どうも俺の爺ちゃんに会いにきたみたいなんだよ。」

「俺は爺ちゃんのマタギを継承するために知床に来たんだがね。」

「スージーは俺の兄貴の子供なんだわ。」

ジュンコ「あらそうなの?」


♡「うん。叔父さんみたい…。ハハハ。」

十蔵「俺の爺ちゃんは十三(ジュウソウ)だから間違えやすいん
だなぁ…。」

「兄貴は元気にしてるか?」

♡「地元で元気に畑仕事しているよ。」

十蔵「それはなによりだ。ハハハ。」「それよりメシでも食うか?」

「ジュンコさん、お願いして良いかな?」


ジュンコ「ええ、すぐに準備しますね。」

「スージーちゃんは苦手な食べ物あるかしら?」

♡「大丈夫です。」

ジュンコ「鹿肉があるわよ。春先の保存品だけど。」

♡「食べます。食べます~。」


食事を終えてから十蔵の家に車で移動。

十蔵「どうした?何が聞きたい?」

♡「私のお母さんの事は知っていますか?」

十蔵「ああ。イギリスのエージェントだった。」

「わしの息子の真もエージェントだったが、任務中に
亡くなっての…。」

♡「そうなの?はじめて聞いたよ。」

十蔵「孫の武士は早くに親を亡くして苦労をしたのじゃ。」

「真の兄は土地を継いで農家をやっとるじゃろ?」
「そこに引き取られての。」

「真面目に畑を耕して暮らしたのじゃ。」


♡「父が大叔父さんの畑を手伝っているのは知っています。」

十蔵「昔の事故をイギリスから調べに来たのが、武士との
出会いだな。」

「武士は自分の父親がなぜ亡くなったのか知らなかった…。」


♡「わたしも春からエージェントになったんだ。」

「母さんの紹介でね。まだまだ新米だけれど…。」


十蔵「なるほど。」

♡「先日の任務で危ない目にあって、ひい爺ちゃんのところに行けば何か強化のヒントが得られるかとおもってさ。」

十蔵「わしに教えられることなんて有るかのう??」

♡「お父さんがむか~しにさ。女性に変化する術を見たって
言ってたよ。」

十蔵「ああ。一度だけ武士に見せたことがあったわ。」

「だがアレはいかん!!」「その所為で真が…。」

「あの術は、時間をも操る。見た目だけでは無いのじゃ…。」


♡「でも。私は知りたいし、男性化の能力を得たい。」

十蔵「やめておけ。絶対に後悔する。」
「わしが若く見えるのも呪いじゃ。」

「時間が半分になる呪い。」「不老長寿の術ではない。呪いだ。」

(怒りと悲しみが入り混じった声で叫ぶ。)


♡「…。」

十蔵「今日はもう遅い。ここに泊まって明日帰れ。」

♡「うん。」(ひい爺ちゃんの寂しげな顔に、これ以上踏み込め
なかった。)


朝になった。

朝日が眩しく、空気も綺麗だ。


♡「おはよう。爺ちゃん。」

十蔵「爺ちゃんはヤメロ。ジュウちゃんじゃ。」

♡「はい。ジュウちゃん。」

十蔵「昨日は怒鳴って悪かった。」
「スージーはエージェントなのじゃな。」

♡「はい。」(真面目な返事を返すスージー。)


十蔵「男女逆化の術なら教える。」「筋力UPには成るじゃろう。」

♡「いいの?」

十蔵「甲斐の末裔ならそれくらいは使えんとな…。」(笑顔。)


(ひい爺ちゃんってこんな風に笑うんだぁ。)

まずは変化の呪文


「オン、ナオトコノ、タマ、ミズ、イレカエ、シン、カワル」


そして解呪は


「オンナ、オトコ、ノイレカエ、モドス」


どちらも早口で間違えないように唱えるのじゃ。


♡「オン、ナオトコノ、タマ、ミズ、イレカエ、シン、カワル」

「オン、ナオトコノ、タマ、ミズ、イレカエ、シン、カワル」

「オン、ナオトコノ、タマ、ミズ、イレカエ、シン、カワル」

「って何にも起きないよ??」


十蔵「そりゃあ、数分で出来たら術じゃない。」

「修行ってそんなもんだぞ?」

「とありあえず沢に水を汲みに行くぞ。支度しろ。急げ。」


♡「はい。師匠。」

十蔵「いや。ジュウちゃんじゃ。」


ひい爺ちゃんの家の裏山を登って少ししたところに沢へ降りる
階段があり、そこから水を汲んで戻るのは結構ハードだ。

変化の呪文を口にしながら往復する。

師匠は山菜やらを採ったりしている模様。


十蔵「呪文は憶えたか?」

♡「1000回以上は唱えたよ。」「頭が真っ白に成るくらい。」

十蔵「じゃあ、唱えてみろ。」

♡「オン、ナオトコノ、タマ、ミズ、イレカエ、シン、カワル」

(最初の3倍くらいの速度にはなった。)


十蔵「まだまだだな。 オン☆◎ワル。」

♡「速い。エッ。無理無理。どういう事??」


十蔵「これが時間短縮じゃ。」「解呪はゆっくり唱えることが
必須。」

「呪文を間違えたら、元の姿に戻れんぞ。ハハハ。」

「焦るほど早口になり、間違え、パニックになる。」

「実は解呪のほうが難しい。」


♡「これが秘術か…。」


十蔵「まあ、薪拾いしながら脳を回転させよ。」

「変化を速く言えても、解呪はゆっくり唱える。」

「速く言えるようになったら、逆にゆっくり唱えるのは難しい。」

「奥が深いじゃろう?フフフ。」


あっという間に夜になった。

♡「今日は異常に疲れたよ。」

十蔵「速く唱えられれば、それだけ相手方を出し抜ける。」

「術が発動するまで、敵方が待ってくれるかの?」

♡「そうだよね。確かにそうだわ。」

十蔵「今晩は熊肉を食べよう。塩漬けにしてある。」

「風呂も沸かしてあるからな。」「ゆっくり休め。」

♡「ジュウちゃん、ありがとう。」


十蔵「明日からは実際に術を試すぞ。」

♡「うん。」


昨日は爆睡した。あっという間に朝が来た。

既に時間の感覚がオカシイ気がする…。


十蔵「まずは、わしが見せる。良いか?」

♡「はい。」

十蔵「左手がパー。右手がグーじゃ。左右の手を合わせて。」

「そして、変化の術を唱える。」「オ☆△◎ル」

♡「ジュウちゃんが、女性になった。」

(背が縮み、胸が膨らみ、ウエストも細くなった。髪が伸びて、

脚も細くなった。)

「フォー。凄い!!」

十蔵は後ろに振り向き解呪の呪文を唱えた。
(すると元の姿に戻った。)


十蔵「こんな感じじゃ。」(ドヤァ。)

♡「えっ、私もやってみる。」(右手がグー?左がパー?)

「オン、ナオトコノ、タマ、ミズ、イレカエ、シン、カワル」
(変わらん??)

「オン、ナオトコノ、タマ、ミズ、イレカエ、シン、カワル」(は??)

「オン、ナオトコノ、タマ、ミズ、イレカエ、シン、カワル」(え??)


十蔵「雑念が多いのう。」

♡「オン、ナオトコノ、タマ、ミズ、イレカエ、シン、カワル」
(どうだ??)

「オン、ナオトコノ、タマ、ミズ、イレカエ、シン、カワル」(ん??)


30分後…。

♡「無理だぁ…。」「師匠無理です。」(何で?どうして?)


十蔵「呪文を頭の中で唱えて、口は動かすだけで…。」

「そのうちカッチリとはまる瞬間が来るぞい。」

♡「オン、ナオトコノ、タマ、ミズ、イレカエ、シン、カワル」
(パクパク)

「オン、ナオトコノ、タマ、ミズ、イレカエ、シン、カワル」
(パパパ)

「オン、ナオ◎シン、□ル」(お?)

「オン、ナオ◎□ワル」(ああ?)

「オン、ナ◎□ル」(きたー!!)


(頭の中が白くなって、背が伸びて、腕が太くなって、腹筋が熱い、

足の親指が地面を強く感じる。)


十蔵「出来たのう。」「黒髪じゃが…。」

♡「師匠。鏡どこ?」(やった~。)

十蔵「家の中じゃ。」

♡「なんか思ってたのと違う!!!!」

髪はボサボサの黒髪。細かった自慢のウエストが寸胴に、そして
胸が軽い。身体は少し重く感じる。でも、筋肉量は増えているのを
実感できる。


十蔵「そりゃあ、俳優さんみたいに成る訳無かろうよ。」

♡「とりあえず、元に戻ろう…。」

「オンナ、オトコ、ノイレカエ、モドス」(はい、違う。)

「オンナ、オトコ、ノイレカエ、モドス」(はい、違うう。)

「オンナ、オトコ、ノイレカエ、モドス」(はい、違ううう。)

「あれ?これってヤバイやつ??」「はっ?」


十蔵「焦ると駄目じゃぞ。」

♡「うん。判ってる。」

「オンナ、オトコ、ノイレカエ、モドス」(はい。全然違う。)

「オンナ、オトコ、ノイレカエ、モドス」(は??)

「オンナ、オトコ、ノイレカエ、モドス」(いやいや。)

「師匠。戻れる気がしません。」


十蔵「2-3日すれば、戻れるだろ?」

「元に戻るまでが修行じゃ!!」

「センスのない奴は1週間くらいかかったのう。」(ニヤニヤ。)


♡「先にいってよぉ!!」


十蔵「とりあえず、水汲みじゃの。」「筋力上がった分楽に
なるぞ。」

「異性化した時の体の使い方に慣れるんじゃ。」


沢に着いて水面を見ると、見た事のないシルエット。

本当に私なのか?身体は意志通り動くが無駄が多い。


ジュウちゃんと一緒に薪を拾ったり、山菜を集めたり、小動物を
眺めたりした。

元に戻る呪文を唱えるが、戻る気配はない。



十蔵「今日はここまでじゃな。」

「明日の朝は早いぞ。はよ寝ろ。」

簡単な食事を取り、風呂に入って床に就くが寝られない。

♡「どうやったら寝られる?眠り方まで忘れちゃった??」


十蔵「どうした?眠れんのか?」「仕方ないのう。」

(眉間を指で押された瞬間に眠りに落ちた…。)


朝日が顔に当たると自然に目が覚めた。

十蔵「温泉にでも行くか?」

♡「は?男のまま?」

十蔵「じゃあ。女湯に入るか?」

♡「通報される。」

十蔵「そうじゃな。ハハハ。」

「少し離れたところに、動物たちの温泉がある。」
「そこに行こう。」


山あいを30分ほど登った所に天然の沸き温泉があった。

シカが膝まで浸かっている。


十蔵「岩を少し積めば人も入れる。」

「此のくらいの岩なら持てるか?」

♡「30cmくらいかな?」「うん。持てるね。」

「もう一回り、40cmくらいの岩ならいけそう。」


岩を積み流れを堰き止めて造った、天然のかけ流し温泉。

十蔵「どうじゃ?気持ちよいか?」

♡「うん。とっても。」「なんか全てを忘れて開放的。」

十蔵「じゃあ。解呪を唱えてみよ。」

♡「オンナ、オトコ、ノイレカエ、モドス」(なんかイイ感じだ。)

「オンナ、オトコ、ノイレカエ、モドス」(ちょっと違う。)

「オンナ、オトコ、ノイレカエ、モドス」(なんか来た。)

「もう少しな気がする。」



十蔵「じゃあ。右手と左手逆にしてみろ。」

「ワシは先に戻って飯の支度するでの…。」

ニコっと笑ってジュウちゃんはもと来た道に消えた。(速い。)

♡「オンナ、オトコ、ノイレカエ、モドス」(この感じか。)」

(元の姿に戻れた…。)

「ジュウちゃん。わざとやってんな!!」

「ああ、でも男性姿で筋トレしたほうが効果高そう。」


しばらく変化と解呪を繰り返してみた。

コツが掴めた気がする。


空が蒼い。上空にオオタカがいる。ここは良いところだな…。

帰りも男バージョンで戻った。慣れたらこちらの方がいい。


十蔵「どうじゃ?術は完成したか?」

♡「ありがとう。師匠。」

十蔵「ジュウちゃんじゃ。」(ニコニコ。)

「やはり真に似てるのぉ。命はひとつ。大事にな…。」

♡「うん。大事にする!!」

十蔵「では、修行はここまで。」「メシにしよう。」


食事を取り、2人で車に乗ってジュンコさんのお店に向かった。

ジュンコさんは丁度お店の前で打ち水をしていた。

車から降りて別れの挨拶をする。


♡「ジュンコさん。また遊びに来ますね。」

「ひい爺ちゃんには会えなかったけれど、ジュウちゃんに会えたから良かった。」

「ジュウちゃんのこと、よろしくお願いしますね。」

ジュンコ「ええ、任せてください。」

十蔵「スージーも元気でな。」


♡「じゃあね。師匠。」

十蔵「ジュウちゃんじゃ。」(2人は車が見えなくなるまで、
手を振ってくれた。)

第3章 長野で合宿


空港で車を返却して、帰りは羽田までの直行便。

羽田に着くとゼロからメール。

「北海道の旅、お疲れ様。」

「ひい爺ちゃんには無事に会えたかな?」

「GPSが切れたから心配したよ。」

「こちらも動きがあった。」「ミコちゃんへ田中からメッセージが
来たらしい。」


私からもミコへ連絡してみよう。グループLINEで送信。


♡「ミコさん。田中さんから連絡があったの?」

ミコ「はい。合宿前に会いたいとのことでした。」

「伊藤さんは、佐藤さんの事もあって不参加にしたいと…。」

瑞穂「そりゃあ。佐藤さんが学校退学させられるかも知れなかった
から、無理もないわね。」

ミコ「でも、一人で会うのは怖い。」

瑞穂「わたしも行こうか?」

♡「待て。結論を急ぐな。」

ゼロ「確かに危険な目に合うかもしれないしね~。」

「千葉の施設が閉鎖されて、焦りがあるかも知れないしね。」


♡「ミコはとにかく、結論を急ぐな。」

「空いている日にちを確認しておく位の返信に留めておいてくれ。」

ミコ「はい。わかりました。」

瑞穂「万が一の時は、私が一緒に行くからね。」

わんちゃんのスタンプをUPした。(わんこが尻尾振ってる…。)


♡「明日部活に顔を出すからな。」

「その時までに考えておくから…。」

ミコ「はい。では明日。」



やっと自宅に戻ってこれた。実家に修行に明日から部活指導…。


ふとベランダの窓がノックされる。

♡「誰だ?」

瑞穂「せんせい。私だよ。」

♡「ここ5Fだぞ!?」

瑞穂「へへ。開けてもらえる?ベランダ熱い。」

♡「お前!!ウチの住所知らないだろう?」

瑞穂「学校の職員室に名簿あったよ。」

「屋上の鍵もあるし、痕跡は消しておいたし。」


♡「お前本当になんなの?」

瑞穂「理事の親族である以外は、普通の女子高校生です。」

♡「いやいや。普通じゃない!!」

瑞穂「褒めないでよ~。」(デレデレ。)

♡「褒めてない。呆れている。」


瑞穂「田中さんからの誘いどうするつもり?」

♡「ミコには危険な事をさせたくない。」

瑞穂「でも、教団の繋がりがまた無くなったんでしょ?」

♡「そうだな。千葉の施設も団体自体に違法性はなかった。」

瑞穂「田中さんからの連絡は重要じゃない??」

「ミコなら私が守るから、一緒に行かせて?」


♡「…。」

瑞穂「お願い。」


♡「わかった。GPSだけは持って行ってくれ。」

「ゼロに依頼しておくから…。」

瑞穂「ありがとう。危ないことはしないと約束するわ。」

(瑞穂は帰りは玄関から帰った…。行動が謎過ぎるな。)


翌日学校に顔を出す。グラウンドで各自練習に励んでいる。

♡「ミコ。ちょっといいか?」

ミコ「はい。」

♡「田中さんと会う約束をしてくれ。」

「会う場所はショッピングモールとか人の多い場所が良い。」

「瑞穂も同行してくれるそうだ。」

「わたしも近くの駐車場で待機するから、コンタクトして
みてくれ。」

ミコ「うん。わかった。瑞穂ちゃんが居るなら安心かも…。」

♡「ごめんな。こんなこと頼んで…。」


ミコ「田中さんが心配だし、逆に解決しないともっと恐ろしい
ことが起こりそうで怖いの…。」

♡「そうか。本当にすまん。」


夕方まで練習を見て、解散となった。合宿は翌週の水曜から1週間で、場所は長野県。部員の8割が参加予定だ。


夜にミコからLINE。

ミコ「日曜日にみなとみらいのショッピングモールで会うことに
なったよ。」

「鬼龍さんも誘ったよって言ったら、どうぞって返答された。」

瑞穂「じゃあ。一緒に行くね。」「服選ばなくちゃ。」

ゼロ「GPSも2つ用意してスージーに渡すから、受け取ってな。」

♡「当日、私の車でみなとみらいに行くときに渡すわね。」


ミコ「はい。」瑞穂「はいよ~。」

頂戴いたしますのスタンプがUPされる。



教団の目的や本城の怪物化など不明な点が多いが、ミコ達に頼る
しかない。

とにかく日曜日だな…。


自宅マンションの宅配BOXに荷物が届いていた。

たぶんゼロからだろう。中身はGPSが内蔵されたキーホルダー
だな。

ピンクと水色の猫を模したもの。お揃いだ。


それといつもの追跡銃の弾3発。(貴重な支給品。)

今回は使わずに済むといいなぁ…。



日曜日になった。

車でミコの家に迎えに行く。瑞穂も一緒に待っていた。

♡「今日はヨロシクな。」「GPSはコレなんだが…。」

瑞穂「可愛いね。わたしは水色かな?」

(お、意外だ。瑞穂はピンクだと思ったが。)

ミコ「私はピンクがいい。」

瑞穂「じゃあ、カバンに付けるね。」

ミコ「私はスカートのポケットに入れておこうかな。」

♡「では、みなとみらいに出発だ。」


ミコのマンションから20分ほどで駐車場に到着した。

待ち合わせはランドマークタワーの中央広場。

瑞穂「じゃあ。行ってくるよ。」(ウィンクしてくる。)

ミコ「先生。あとでね。」



2時間ほどして2人が車に戻ってきた。

瑞穂「あ~。楽しかった。」

ミコ「うん。楽しかったね。」

(2人ともテンション高め。危ない目には遭ってないようだ。)


瑞穂「なんか拍子抜けだったよ。葵とも仲良くなれたし、敵意は
無さそうだった。」

ミコ「瑞穂が居たからすごく和やかで、危険は感じなかったよ。」

「普通にお茶して、近況報告しあって、葵ちゃんと更に仲良く
なった。」

(田中さんから葵ちゃん呼びに成っているな…。)


瑞穂「葵は幹部候補になったみたいだよ。」
「もう学校には戻らないみたい。」

「元同級生として仲良くして欲しいってさ。」

ミコ「陸上部の合宿の事とかも話したよ。」「長野県に行くって
言ったら、次回の農業体験は長野で開催予定って言ってたよ。」

「なにかのヒントになるかな?」


♡「ありがとう。とにかく無事に戻ってきて良かった。」

ミコ「山本先生の事については、あんな男どうでもいいって
言っていたわ。」

「本部にとってもカッコいい人がいるんですって…。」

瑞穂「あの人の為ならどんな事でもヤルって言ってたね。」

「恋する乙女なんだけれども、怖さも感じたわ…。」


♡「なるほど。やはり色々な支部が存在するのか…。」

「そして本部が何処かにある。」


瑞穂「そうね。表向きは自然保護のNPOで、中身ははっきり
していない。」

「葵は幹部候補として、本部にも繋がりがある。」


ミコ「でも、葵ちゃんは健康そうだし以前よりも明るくなった
感じがするよ。」

♡「同じ部活だったミコが言うのだから、そうなのかもな…。」



火曜日の夜になった。

スージーは自宅で陸上部の合宿の準備をしている。

着替えにタオルに合宿のしおり。

先日支給された黄金銃と弾3発。

♡「万が一に備えて持参するか…。」


ゼロの調査によると、長野県にはそれらしきNPO法人は登録されて

いない。田中葵についても追跡は不可であった。


♡「まあ寝る前に日課のランニングに行こう…。」

「オン、◎□△」(かなり慣れて来た。)

マンションから出てくるスージーを屋上から見ている人影アリ…。


♡「はぁ、はぁ。」と息を切らしながら戻ってきたスージー。

マンションの裏手でクルーダウンをしながら

「オンナ、オトコ、ノイレカエ、モドス」と解呪の呪文を唱える。

元の姿になるスージー。


「ねえ?」と声を掛けられ反射的に後ずさるスージー。

声の主は宙に浮いた瑞穂であった。


♡「お前、いつから?」

瑞穂「いやいや、さっきの何??」「黒髪の男性は何処行ったの?」

♡「甲斐忍者の秘術…。」

瑞穂「どういう事?」「入れ替わりの術?」「性転換??」


(諦めたかのような顔をして…)

♡「自分の意識を保ったまま、性別が入れ替わる術。」

「ひい爺ちゃんに教わりに北海道に行ってきた。」

瑞穂「山梨の実家に行ったんじゃなかったの、せんせ?」

♡「実家でひい爺ちゃんの居所聞いて会いに行った。」

「そして、ひどい目に遭った。」


瑞穂「大変だったんだね。」(ニコニコ。)

「明日から合宿行くでしょ?私も週末に長野の別荘に行くから
みなさんに差し入れに行くね。」


♡「それは有り難いが、お前も夜ウロウロするな!!」

瑞穂「うん。心配してくれてありがとう。」

♡「敵方の暗殺者かと思ったわ。」

瑞穂「こんなに可愛い、暗殺者っている??」(うふふ。)

「目立たないように帰るから大丈夫だよ。」


「私もあれから鬼龍の力を上手く使えるように、少し頑張って
いるんだ。」

「ミコやせんせいを守れるようにね。えへへ。」

♡「危ないことには首を突っ込まないようにしろ。」

瑞穂「うん。わかった~。」(全くわかってない顔。)

「じゃあね。おやすみ、せんせい。」


瑞穂は暗闇に紛れて姿を消した。

♡「お前の方が忍者みたいだわ…。」

「さて、部屋に戻って寝るとするかな。」



合宿当日の朝。

普通に起床して、男性の姿でランニング1時間。

クールダウンしてから朝食を採り、軽い筋トレ。

ちなみに夜は30分のランニングをしている。


北海道に居た時に比べて、変化も早くなったし解呪にも慣れてきた。

息が切れていても元に戻れるようになったのは最近の成果だ。


♡「今日もいい天気。とりあえず集合場所の横浜駅に行こう。」

自宅から徒歩とバスで横浜駅へと向かった。


集合場所の大型バスに乗り込む。

顧問の高橋先生。保険医の清水先生。そして陸上部の部員たち。

受験を控えた生徒を除いたほとんどが参加。

もちろんミコや佐藤も参加している。


合宿先は学園保有のグラウンド付きの合宿所。

そこに宿長さんと地元のパートさんがいて食事や清掃などを
してもらえる。

3食付きで大きなお風呂が有るなんて独り者には天国みたいな
場所だ。


ミコ「先生。おはようございます。」

高橋「スージー先生。宜しくお願いします。」

清水「どうも。」「隣に座りますか?」

♡「はい。1週間よろしくお願いします。」


高橋「全員揃ったようなので、出発します。」

「途中で休憩するが調子が悪くなったら、周りの人や先生に伝えて
くれな。」

「じゃあ、出発!!」


全員「はい。」(みんな元気そうだ。)


途中のサービスエリアで休憩を挟みつつ合宿所へ向かう。

高速道路を降りて一般道から山林へ入り、無事に合宿所へと
到着した。


各自荷物をもってしおりに書かれた部屋に入る。
私は清水先生と同室。

高橋先生はひとり。相談部屋も兼ねているから、気軽に生徒たちが
訪れることが出来るように配慮している。


荷物を置いてから食堂に集合して挨拶。

高橋「それでは、みなさん移動お疲れさまでした。」

「今日から1週間、怪我無く安全にトレーニングしてゆきたいと
思います。」

「秋の大会までひと月ほどなので各自の仕上げを目標にします。」

「今日からお世話になる宿長の山下さんです。」

山下「みなさんのお世話をします山下です。」「安心して過ごして
もらえるように心がけますので、相談も気軽にしてください。」
(生徒たちが拍手。)


♡「コーチのスージーです。」「怪我しないようにみんなを
見張ります。」

「ヨロシクネ。」(生徒たちが拍手。)

清水「保険医の清水です。」「出番が無いように願います。」

全員「は~い。」


清水「写真とか動画撮影とかもするから必要なら声かけて
ください。」

「1週間健康的に頑張りましょう。」(生徒たちが拍手。)


山下「昼食の用意がしてありますので、召し上がってください。」

高橋「1年から取りに行っていいぞ。」

1年生たち「はい。」


高橋「みんな揃ったようなので、ではいただきます。」

全員「いただきます!!」


昼食は、ミートソースパスタとサラダそれにコンソメスープがつく。

ドリンクは麦茶・オレンジジュース・レモン水・普通の水の4種類。

高橋「お替りもあるし、食事を終えたものは各自で準備して2時に

グラウンドに集合だ。」


♡「高橋先生。お先に失礼して施設を見回ってきます。」

高橋「はい。スージー先生は初めてなので、不安もありますよね?」

「案内しましょうか?」

♡「いえいえ。大丈夫ですよ。」

「合宿のしおりもあるし、先生はゆっくり休憩してください。」

高橋「はい。では後ほど…。」


(スージーは合宿所を出て、施設周りのチェックをする。)

♡「グラウンドからは周りも良く見えるし、合宿所も入り口は2つ
しかないから警戒はし易いな。」

「食事も美味しいし、快適に過ごせそうだな…。」

「来て良かった。」



2時になり部員たちもグラウンドにやってきた。

高橋「では、柔軟体操をしてから各自の練習メニューに入って。」


短距離・長距離・ハードル競争・走り高跳びの選手もいる。


清水「短距離の選手はビデオ撮るから、一人ずつスタートしてね。」


♡「長距離の選手は私が見ます。」

高橋「じゃあ。ハードルと高跳びは私が見ますよ。」


各自が自分の長所を伸ばせるように工夫して練習に励む。

(♡「なんかいいなぁ。この感じ…。」)


♡「基本的な事は判っていると思いますが、手の振り・歩幅・ペース配分そして、最後のスパート距離を意識して個々の能力を伸ばして
いきましょう。」

「自分の得意な距離で大会に出られるように、頑張ろうね。」


♡「先生はグラウンドの中央で見ているから、外周を2周走って
ください。」

「はい。スタート。」


スタートダッシュする子。様子見をして走る子。グループで流す子。

個々の性格もあるが、だいたいの距離感は掴めているようだ。


♡「あなたは400mね。君は800m。あなたは1500m向きね。」

「適性が判らなかったり、不安が有ればどんどん質問とかして
ください。」

「400mと1500mの子たちはタイム測るわ。」

「残りは800mをもう1回走ります。今度はペースを意識して走り
ましょう。」

「水分補給もちゃんとして、軽く休憩してから再開します。」



♡「辛くなったら途中で止まってもいいよ。ペースの落ちた距離は
何となくで良いから覚えておいてね。」

「全員が大会に出られるように目標をもって取り組みましょう。」


あっという間に夕方になった…。

怪我人もなく、無事に1日目が終了。

夕食は和食中心のメニュー。食後は部屋ごとに入浴。


ミコ「先生。お風呂一緒に入りましょう。」

♡「いいぞ。ミコはハードル走チームか。」

ミコ「男女で10人です。お部屋は6人部屋。」
「男子は4人部屋かな。」


ハードル女子チームと一緒に入浴。先輩が後輩の面倒を見る
感じだな。

明日はハードルのチームも見させてもらおう。


入浴後にミーティングをして就寝となった。

大体がチームごとに部屋割りされている。

やっぱり中・長距離が多いな。合宿中に適正距離が固まれば良しと
しよう。


瑞穂からLINEが来ている。

「ミコ。せんせ。合宿はどう? 金曜日に別荘に行きます。」

「学園の合宿所だよね?」「当日、差し入れに行きます。」


ミコ「瑞穂ちゃん。合宿所に顔出してくれるの?」「嬉しい。」

♡「ありがとう。」「メシもうまいし最高だ。」

瑞穂「うん。金曜日にね…。」(おやすみのスタンプUP。)


(清水先生が風呂から部屋に戻ってきた。)


清水「スージ先生。今日はお疲れ様。」

♡「先生こそビデオ撮影、大変でしたね。」

清水「明日から忙しくなりそうですね。」

♡「朝から練習ですものね…。」「早く寝ましょう。」



合宿2日目。

スージーは5時起きして、修行のランニング。

男性に変化して、施設周辺を探索しながら駆け抜ける。

(ふと思う。男性の状態でスミス様を呼んだらどうなるのか??)

(呼べるのか?助けて貰えるのか?)


♡「今までにスミス様に助けて貰ったのは2回だけ。」

「本城をどうやって倒したのかも記憶が無い…。」

「記憶もないまま、万が一死んでしまったら私は…。」


解呪をして、合宿所に戻り。シャワーを浴びて部屋に戻る。

清水先生も丁度、目を覚ましたようだ。


清水「スージー先生。お早いですね。」

♡「日課のランニングに行っていました。」
「今日は暑くなりそうですよ。」


7時半になり食堂に移動。

朝食は和食・洋食のビュッフェスタイル。


スージーはもちろん和食。一人暮らしは時短のため基本洋食。

トーストだけやゼリー飲料だけの時もある。

最近は日課の修行で朝早く目覚めるので、食事もきちんと採るようにはしている。


高橋「みんなおはよう。午前中は個人練習。」
「昼食後は英語自習。」

「3時からは全体練習な。」

全員「はい。」


高橋「では。いただきます。」

全員「いただきます。」

 

軽めに食べる子。しっかりと食べる子。スタイルを気にしてい
そうな子。しっかりと食べて、その分カロリー消費すればいい。

(まあ、そのあたりも合宿中に改善出来たら良いなぁ。)


♡「じゃあ。午前中はハードル走のチームを見るよ。」

ミコ「フォームを見てもらって良いでですか?」

♡「ああ。とりあえず流しでいいから1-2本走ってみて
くれるか。」

ミコ「はい。」

(リズムよくハードルをこなしてゆくミコを斜め後ろから
観察する。)


♡「もう少し足を水平に抜く感じで、着地ももう少し先に点く
イメージで…。」

「ここで脚をあげて、ストップ。」(浮いている膝と足首を
つかんで、少し持ち上げた。)

ミコ「こんなに上げていいの??」

♡「ここが水平位置。」「多分着地を意識しすぎて下がって
しまったようね。」

「ゴール前ではもっと下がるかもしれないから、この高さを維持できるといいね。」

「ちなみに逆脚は?水平にあがるかな?」

「逆踏切で1本飛んでみようか?」
(タイムは落ちるが安定している。)


ミコ「利き足で飛ぶから空中で安定する気もします。」

♡「自分が速く走れるならばどっちでも良いぞ。」


生徒たち「ぼくも。わたしも見てください。」

♡「あはは。いいわよ。」

みんなで片足立ちしてキープして。グラグラしそうならば逆の脚でもいいよ。

空中姿勢と足の回転が肝だからね。

怪我するよりも安定して飛べるように。安定したらタイムを
削っていこう。


あっという間に昼食。今日はグラタンと自家製ピザであった。

長野県の新鮮な野菜がたくさん乗っている。


午後は英語自習。 スージー先生の臨時英会話教室などで
盛り上がった。


3時になり全体練習。

♡「午後は高跳びを見ようかな。」

高橋「では私は長距離などをみますね。」


田中葵に声を掛けられていた伊藤さんがいた。

♡「伊藤さん。調子はどうかな?」

伊藤「元々、高跳び希望の生徒が少なくて私は田中先輩に

見てもらっていました。」

「今は田中先輩が居ないから、男子の先輩に教わっていますが

なかなか上達しないです…。」

(高跳び志望は5人くらいか…。)


♡「じゃあ。バーなしで飛んでみようか?」

「このあたりにバーが有るとイメージして飛ぼう。」

「何種類かのフォームが有るから、自分の好みに合った飛び方を

マスターしよう。」「背面飛びはかなり慣れてからだな…。」


♡「伊藤さんは、ベリーロールが合っていそうね。」

「120cmを超えるまではそれで行きましょう。」


「2-3年の男子は、大体フォームが固まって来ているな。」

「きみは顎を引くのが速すぎる。」

「君の場合は腰が引けているかな?」

「もう少し踏切位置を手前にしてみようか?」

(個々の癖が有るから指導も難しい。だが自己ベストを超える
楽しさは格別だからな…。)


夕食になった。今日は野菜カレー。ふんだんに長野産の野菜が使われていて美味しい。(焼き野菜にトマトも旨い。ここは天国じゃ~。)


高橋「明日は、趣向を変えて午前中から近くの山に登ります。

水筒とお弁当を持って登るので、なるべく動きやすい恰好でな。」

山下「おにぎりとサンドイッチの2種類用意しますので、夕食後に

こちらの紙に記入をお願いします。」


今日は寝る前に合宿所の周辺をランニングしようかな。

明日は朝から登山だから、朝のランニングはやーめた。



合宿3日目。

翌朝、ビュッフェスタイルの食事を終えて合宿所の玄関に集合。


高橋「それではこれから軽登山します。行けるところまでいって、

合宿所に戻ります。」

「途中で調子が悪くなったり、怪我などあれば山下さんが車で迎えに

来てくれる予定となっています。」


♡「じゃあ。出発するよ~。」

合宿所の山道から車道に出て片道3時間の展望台を目指す。

1時間ほど歩くと湿原が見えてくる。


高橋「じゃあここで一旦、休憩にします。」

「水分補給やストレッチなど各自やってくれ。」

清水「まだまだ先は長いから飲みすぎ注意ね。」


北海道には釧路湿原という日本最大級の湿原がある。

長野県にも湿原は多く、コケや水辺の草が生い茂っている。

高橋「そろそろ移動開始します。全員揃っていますか?」

全員「大丈夫です。」

高橋「では。また1時間ほど歩きます。茶屋があるので其処で
休憩します。」


舗装道路なので脚は問題ない。緩やかな登りが続くので、足裏を
しっかり使って歩くのが良い。

景色も良く、山の木々が目を和ませてくれる。


しばらく歩くと大きな駐車場が目に入る。

茶屋の看板もある。ここで再度休憩し、目的地に向かう。


高橋「ここから、旧中山道に入ってショートカットします。」

「帰りは舗装道路で戻るから、間違えないようにな。」

全員「わかりました。」

♡「山道はワクワクするね。」


舗装道路に戻り、小1時間ほど登ると展望台に着いた。

高橋「みなさんお疲れ様。ここでお昼休憩をします。」

「休憩後はここから下の湿原まで、マラソンして帰ります。」


「歩いて2時間ですが、走れば50分ぐらいで着きます。」

「ちなみに世界記録は10kmで26分だそうだ。」

「早く着けば自由時間が長くなるので、頑張って下山しよう。」

「長距離が苦手な生徒は、徒歩で下山でも構いません。」


「あと、おにぎりは予備が有るから足りない人は先生に言って
ください。」

全員「は~い。」


見晴らしの良い場所でお昼ごはん。

スージーはサンドイッチを食べ、高橋先生からおにぎりも2つ貰って平らげた。

展望台の横に丘が有る。どうせなら一番高い場所から下を見たい。


♡「岩だらけの丘だが眺めはいい。」

ミコ「先生。合宿来て良かった?」

♡「そうだな。いろいろな事を忘れてのびのび出来て楽しいぞ。」

ミコ「うん。良かった。」「葵ちゃんと一緒に来たかったな。」

♡「それは仕方がない。」「あれから連絡は無いか?」

ミコ「ええ。今のところ。」

♡「まあ、なるように成るさ。合宿を楽しもう。」

ミコ「はい。」



高橋「では下山スタートするぞ。」

「俺と清水先生は最後を歩くから、車に気を付けて無理な追い越しは

せずに完走してください。」

「スージー先生は一緒について行ってもらって大丈夫でしょうか?」

♡「はい。任せてください。」「中盤くらいで様子見て、最後は
トップでゴールします。」(久しぶりに生身で走るわ。)


男性体でトレーニングをしてきたので、筋力はかなりUPした
気がする。

この身体でどれくらいの身体能力が上がったか試してみたい。


高橋「では。スタート。」

皆が様子見でランニングをはじめる。

長距離の選手は時計を見ながら結構なペースでスタートした。

短距離やらの生徒はゆっくり下山するみたいだな。


行きと違い、帰りは緩やかな下り道。風が頬に当たり心地よい。

先頭の生徒は姿が見えなくなった。一番後ろは先生方がいるので
安心だ。

今のところ調子を崩す生徒もいないようだし、そろそろ本気出すか。


スタートから10分ほど経って、スージーはペースを上げた。

中盤位置から少しずつ速度を上げる。脚は全く問題なく疲労も
感じない。

20分ほどで茶屋を通過。第2集団に追いつく。

♡「みんな大丈夫か?」「先生は先に行くぞ~。」

更にペースを上げ第1グループに追いつく。

3年生「先生はやいですね。はぁはぁ。」

♡「まあ。このくらいはな…。」「先頭はまだ先か?」

3年生「前に2人ほどいますよ。」

♡「わかった。」「よぉしぃぃ。」(カーブの先に1名発見。)

徐々にペースを上げ生徒に並ぶ。

♡「先に行かせてもらうわね。」

2位の生徒を抜かして前を伺う。


♡「あら。まだ先かしら?」次の次のカーブで1位の生徒を発見。

1位の生徒も振り返り、私に気づく。そしてペースを上げた。


♡「高校生にしてはイイ速度だな。」
「よし、スパートをかけるか。」

少しずつ1位の生徒との距離が縮まる。

そして直線で一気に抜き去ると振り返らずに全力疾走。


湿原の駐車場に無事到着。

タイムは42分くらい。市民ランナー並みのタイム。

3分後に1位だった生徒が到着。

それから続々とゴールして、1時間ほどで全員が戻ってきた。


高橋「おにぎり欲しい奴はもう少しならあるぞ。」

「余裕のあるやつは、湿原に降りて散歩してもいいぞ。」

「4時くらいに合宿に戻るから、それまで自由に過ごしてくれ。」


♡「ミコ、湿原見るか?」

ミコ「はい。写真撮って瑞穂に送りたい。」

♡「それはいいな。」「いこういこう。」


湿原は涼しく、空気もきれい。風に草が揺れていい感じだ。

LINEに写真を投稿する。

瑞穂「写真ありがとう。」「5時くらいには合宿所に着くよ。」

ミコ「じゃあ。のちほどね。」

瑞穂「うん。」 (お疲れ様のスタンプがupされる。)


集合時間になり、全員で徒歩で下山。

5時前に合宿所に到着して一時解散。

瑞穂「ミコ。せんせい。お帰り~。」

♡「おお。無事着いたか。」

ミコ「瑞穂ちゃん。いらっしゃいませ。」


瑞穂「食堂にスポーツドリンクや果汁飲料を寄付したよ。」

高橋「悪いな、鬼龍。」「みなも喜ぶな。」

瑞穂「えへへ。」


高橋「夕飯食べていくか?」

瑞穂「いいの??」

高橋「もちろんだ。問題ない。」

瑞穂「わーい。」


各々、入浴や休憩をして食堂に集まる。

高橋「今日はマラソンおつかれさま。怪我もなく完走おめでとう。」

「そして鬼龍から飲み物の寄付があった。」

「みなを代表して礼を言う。」「ありがとう。」
(生徒たちが拍手する。)


高橋「明日から合宿折り返しだ。各自の課題を意識しながら
記録を伸ばしていこう。」

全員「はい。」

高橋「では。いただきましょう。」


夕飯は、ビーフシチューとパンの盛り合わせ。サラダバイキングと
ポテトフライ。

1日の疲れが取れるようなボリュームのあるメニュー。


瑞穂はミコの隣で楽しそうに過ごしている。

食事を終えて、片付け。


♡「瑞穂。別荘は近いのか?」

瑞穂「ええ。直線距離で5分くらい。」

♡「直線距離か。はは。」「途中まで送ろう。」

瑞穂「わーい。」


第4章 最終決戦


♡「高橋先生。鬼龍を外の通りまで送ってきます。」

高橋「はい。お願いします。」「鬼龍。気をつけてな。」

瑞穂「は~い。せんせいまたね。お夕飯、ご馳走様。」



合宿所を出て、グラウンドを横切る。

瑞穂「せんせ?気づいてる?」

♡「ああ。なんか居るな。」


(森の中から少女が現れる。)

田中葵「奇遇ね。瑞穂ちゃん。」

♡「ここで何をしている?」

田中葵「ミコさんと伊藤さんをお招きしようと思って…。」

♡「何のことだ?」

田中葵「彼女たちには適性が有りそうなのよ…。」

「そこの瑞穂ちゃんは、幹部候補にだって成れるわ。」


瑞穂「葵。なんか変わったわね?」

田中葵「変わったかしら?」「今が本当の私なのかも…。」

♡「ミコも瑞穂も渡さんぞ!!」

瑞穂「伊藤さんもね。」


田中葵「あら。残念だわ。」

「じゃあ、死んで貰って憑依魔の依り代に使わせてもらうわ。」


田中葵の髪が逆立ち背中越しに細長い尻尾が見える。

両手の爪が伸びて銀色に輝く。


田中葵「わたしには猫又の適性が有ったみたい。」

「死人人形とは違い、人を超えた存在になったの…。」


猫又の化身となった田中葵が瑞穂に飛び掛かる。

♡「オン、◎□△」(男性に変化して瑞穂を抱えて、距離を取る。)

田中葵「あら、あなたも変化の力が有るのかしら?」

「あの方と同じね…。」


瑞穂「炎の小鬼、敵を包め。」

火炎が発生して田中葵の視界を塞ごうとする。


が、田中葵も素早く移動して炎を避ける。


瑞穂「せんせ。銃は?」

♡「森の中だ。まさか急に襲われるとは思ってなかった…。」

「あの木の天辺にBOXごと置いてある。」

瑞穂「わかった。取ってきてあげるから猫ちゃんは任せた。」


そう言うと、空に浮かび目印の樹を目指す。


とりあえず、地面に落ちている木の棒を拾い猫又と
対峙するスージー。

♡「まあ。落ち着け。」
(力は強くなっても、武器がこれじゃあ分が悪い。)


田中葵「そんな棒っ切れで、何をするのかしら?」

爪を鳴らしながら距離を詰めてくる田中葵。


瑞穂「氷の小鬼。敵を包め。」

今度は氷の粒が田中葵の周囲を囲み、視界を遮る。


瑞穂「せんせ。コレでいい?」

♡「ありがとう瑞穂。助かる。」

BOXを開けて銃を手にとり、弾を込めるスージー。


(あれ?田中葵って生身?死人じゃない?)

(撃っていいの??当たったら死ぬの?生け捕り?)


瑞穂「せんせ。大丈夫?」

♡「弾当たったら、田中さん死んじゃうかも?」

瑞穂「ええ、今ソレ言う??」

田中葵「死ね。」(2人に鋭い銀の爪を振り下ろしてくる。)


瑞穂「氷の小鬼。敵を包め。」

田中葵「また。それか。」「飽きたぞ。」

瑞穂「じゃあ。雷は?」(田中葵目掛けて、雷が落ちる。)


白い光に包まれた田中葵が、その場にへたり込む。

♡「瑞穂。殺しちゃ駄目だ。」

瑞穂「しなないよ。大げさだなぁ…。」

「水と風を合わせたら電気出るようになったんだよね~。」


♡「諦めろ、田中葵。」(黄金銃を向けて対峙する。)

田中葵「シン様。申し訳ありません。」


■「freeze.」 


(耳の奥に低い声が響き、身体が硬直する。)


田中葵は立ち上がり、謎の男の背後に移動した。

瑞穂も動かない…。その場で立ち尽くしている。

謎の男は右手にナイフを持っており、瑞穂に近づく。



このままでは2人とも殺られる…。

♡「スミス様。お願いします。瑞穂を…。」

『我が必要か?マシューの血を引くもの…。』

『お前の時間をもらい受ける。それでも良いか?』

「瑞穂が助かるなら、どうとでも…。」


『あい、了承した。』『契約は叶った。』

スージーの身体が蒼い光に包まれ、黒髪は金色の長髪になり

背も伸びて、 腕や足がさらに太くなった。

 

♡「なんか、力が湧いてくる。」「何。これわたしの手足?」

「瑞穂を助けなきゃ。」「必死に右手を謎の男に伸ばす。」


スージーに手を掴まれそうになった謎の男は後ろに下がる。

が、右手に持ったナイフごと捕まえられる。

■「スミスまで操るか武士の娘。」

ナイフを離して腕を強引に引き抜く。


(ゴキンという鈍い音がして、謎の男の肩関節が抜ける。)


■「ワシの名はシン。今は駒が足りない。」

(右腕をだらんとさせながらつぶやく。)


「今夜は引くとしよう…。」


♡「逃がさないわ。」


シン「では。コイツを盾としよう。」

(田中葵の背中に左手の掌を当てる。)

「オン。◎△☆」


田中葵「シン様。ああああああああ。」


(田中葵の口が裂け、牙が生える。目は赤くなり、しっぽは二股に
割れた。爪も太く大きくなり、身体も一回り大きくなった。)


田中葵だったものは、猫又となりスミスの脚に噛みついた。

その隙にシンと名乗った謎の男は森に消えた。


物凄い力で噛みつく猫又。

スージーは猫又の尻尾を掴み持ち合上げる。

二股の尻尾がブチンと抜けた。


猫又がビクンとなり、動かなくなった…。

猫又の身体が白い光に包まれ、田中葵の姿に戻った。

瑞穂「葵っ。」(硬直が解除された瑞穂が、田中葵に駆け寄る。)

「大丈夫。息はしているよ。」


♡「良かった。」「スミス様。身体をお返しします。」

『ああ。何時でも貸そう。契約は続いている。』


蒼い光がスミスを包み、光が胸に集まり辺りが白く輝く。

スージーが元の姿に戻った。変化も解けている。


瑞穂「せんせがスミスさんだったの?」

♡「ああ。でも、自分の意思で動けたのは初めてだ。」

「とにかく瑞穂が殺されると思って必死だった…。良かった。」

「あれ。全身が痛い。なんだ?イタイ、イタイ。」


瑞穂「え。ちょっと待って。」「清水先生を呼んでくるわ。」


清水「スージー先生。大丈夫ですか?」

♡「ちょっと昼間に無理したみたいで、筋肉痛??イタタ。」

「私よりも、田中さんを…。」


ミコ「葵ちゃん。大丈夫。」

田中葵「ミコちゃん。どうしたの?ここは何処?」

ミコ「落ち着いて。ここは長野県の合宿所よ。」

田中葵「どうしてココにいるのか判らないわ…?」


清水「とりあえず合宿所の部屋へ…。」

「ミコさん。高橋先生も呼んでもらえるかしら?」

ミコさん「はい。今すぐに。」

(走って合宿所に向かうミコ。)


高橋先生にお姫様だっこをしてもらい運ばれるスージー。

それを撮影する瑞穂…。 (この娘は…。)


みなでスージーを部屋まで運び込む。

田中さんもとりあえず落ち着いたようなので、合宿所に泊まらせる
ことにした。


高橋「鬼龍も泊まるか?」

瑞穂「いいの?」

高橋「部屋は空いているし、大丈夫だ。」

ミコ「私たちの部屋に行く?」

瑞穂「うん。わあぃ。」(嬉しそうな瑞穂。)


スージーは完全に気を失っている。


しばらくしてゼロが合宿所に来て、清水先生と一緒に田中葵と

面談したようだ。


スージーは翌日の昼まで目を覚まさなかった。

おなかの減る音で目を覚ますと凄い勢いで食事を採り、
完全覚醒した。


瑞穂・ミコ「せんせい。大丈夫!?」
「ずっと目を覚まさなかったんだよ。」

♡「ああ。心配かけたな。」

瑞穂「葵はひと月ほどの記憶が無くなっていて、今は落ち着いて
いる。」

「本人の希望で、陸上部の合宿に途中参加できることになったよ。」

「諸々の手続きはゼロさんがやってくれるってさ。」


♡「ゼロが来たの?」

瑞穂「ええ。けっこうイケメンだったよ。」

「清水先生とも知り合いみたいで、スージー先生のこともイジって
いたよ。」

ミコ「夜のうちに帰っちゃったけど…。」


ゼロからメールが来た。

「お疲れさまー。(夏)」

「田中葵の血液を検査したが、異常は無かったよ。」

「記憶の混濁が有るが、問題ないと判断したぞ。」

「本人の希望で復学できるように手配中。」


「スージーは昨日気絶してたから挨拶できずに残念だ。」

「また別の任務で会えるさ。これからも宜しくな~。」


ゼロへ返信。

「今後は相手が生身の場合、銃以外の無力化できるアイテムが
必要だ。」「検討を願う。」「田中葵の件は了解した。」

「教団の幹部はシンと名乗っていた。」「私の情報も持っていた。」

「意外と大きい組織かもしれない…。」


ゼロから再信。

「OK。上の方に相談しておく。」「とりあえず、敵側も立て直しに時間がかかるだろうからのんびりバカンスを楽しんでくれ。」

「俺はこれからロンドンにバカンスだよ~。」


(おおーい。私は昨日死ぬところだったんだぞ…!!)

♡「ゼロのバーカ!!」「ばーーーーか。」

瑞穂「大丈夫?せんせ?」


♡「何でもない。」「安心したらまた腹が減ってきたわ。」

ミコ「もう先生ったら。寝て食べてばっかり。」

(明るい笑い声が部屋に響き渡る。)



田中葵も戻り、つかの間の平和が戻ってきた。

これからもスージーの身に不幸が降りかかるであろうが、
それはまた別のお話。

いつかまた何処かでお会いしましょう。


See you.



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