新作オペラ「ロミオがジュリエット」

シアターE9に、太田真紀さん、山田岳さん主催、足立智美さん作曲の新作オペラ「ロミオがジュリエット」を観に行きました。

この新作オペラ、ぶっ飛びポイントが満載なんですが少し紹介します。まずテキスト。タイトルから想像できるように、元となっているのはシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」。それをウエストサイド・ストーリーのように翻案するのではなく、いくつかのパートをAIに学習させ、新たなテキストを産み出すというもの。まずはこれがどんなものなのか興味津々だったわけですが、これはある程度想像の範疇でした。というのも、台本は当日渡され全て読めるようになっていたのですが、ある程度意味は読み取れるものの、かなりシュールで不条理なテキストとなっており、ロミオとジュリエットの原型は殆どありませんでした。AIがネットから様々に拾い集めた情報を基に編み出したのとのことですが、一文だけ読むと詩のように素敵な部分もありますが、続けて読むうちに意味は霧消していきます。まあ、これがある種の狙いだったとは思いますが、このテキストを基にオペラを作ろうという意気込みが凄いなと思いました。

次のポイントは作曲が足立智美さんであるという事。実は足立さんの作品に触れるのは初めてだったんですが、かなり前衛的な作品を書く人というイメージがあったので、このテキストだったら覚悟しないといけないなぁ。と、観る前はかなり身構えてました。しかしこれは良い意味で裏切られたというか、非常に明快な音楽で、テキストの不条理を踏みつけていくような力強さがありました。全体としては全部で9曲の組曲のような構成になっていたのですが、どの曲もアプローチが違っており、ロックテイストの曲から、ループ音楽、ミニマル的な音楽など飽きずに楽しめました。楽器もエレキギター、エレキベース、クラシックギター、リュートと、様々に持ち替えることで楽器の特性を活かした音楽となっていました。テキストは、英語と日本語の半々だったのですが、言葉と音が分離して身体に入ってくると言えばよいのでしょうか、上手く説明できないのですが言葉と音との関係が非常に面白かったです。しかしなんだろうなぁ、この浮遊感。だれか説明してください(笑)。

そして演出について。演出はあごうさとしさんという演劇の演出家の方だったんですが、通常のオペラとは全く違うアプローチがとても良かったです。幕が開くと同時に現れた太田さんは、ダボっとした布に包まれ、座った姿勢で上半身だけが見えてるようになっています。後半はさらに手も見えなくなり達磨のようになっていたのですが、なかなかインパクトがありました。驚くべきはその座った姿勢で全編を歌い通していたことです。通常だと、歌手に座って歌ってくださいとは言いにくいと思うので、それを貫いた演出に驚愕です。対するギターの山田さんは燕尾服にシルクハットという衣装。ロミオとジュリエットの世界観とは全く違いますが、この不条理なテキストにはぴったりだと思いました。私は、太田さんはAIの象徴で、山田さんはそれを完成させようと夢見ているマッドサイエンティストみたいな設定なのかなと思っていましたが、アフタートークでそれらは全てベケットからの引用であることがわかりました。不条理劇を意識しての演出であることは種明かしされたのですが、それらがわからずとも十分に楽しめる舞台でした。

舞台を見る前は、とにかく前衛的で小難しい作品なんだろうと思っていたんですが、それに反してポップで親しみやすい作品でした。しかし、ここまで長々と書いておきながら、全くもって私自身がこの作品を理解しておらず、単なる印象を連ねているだけという事は自覚せざるを得ず、この作品が親しみやすさとは裏腹に、簡単には触らせてくれない警戒心の強い猫のような作品だと思いました。まあ、そう思わされているだけかもしれませんが…。

とにかくこの作品は衝撃的であり、簡単には言葉にできない作品であるという事です。シンプルでありながら様々なジャンルが融合した、まさにオペラであると言えます。こうした作品が少しでも多く世に産み出されていくことができれば、現代オペラ、現代音楽の状況ももっと面白くなるのではと思いました。

https://askyoto.or.jp/e9/ticket/20211105


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