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ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第12番&第14番 【プラジャーク・クァルテット】

昨日は、ザ・フェニックスホールで「プラジャーク・クァルテット」を聴きました。3夜連続公演の2日目です。ベートーヴェンの弦楽四重奏作品の後期チクルスで、2日目は第12番と第14番が演奏されました。

ベートーヴェンの弦楽四重奏作品は初期、中期、後期に分類されますが、第12番は後期の1作目に当たります。曲が完成したのはベートーヴェンが亡くなる2年前、交響曲第9番の初演の後です。人生の大仕事をやり終えた後にさらなる緻密な作品を創造するとは凄いとしか言いようがありません。

プラジャーク・クァルテットの演奏は素晴らしく、作品の緻密さを丁寧に表現されていました。その上で彼らの演奏が凄いと思ったのは、良い意味で大雑把に聞こえたところです。全体の音のバランスやアンサンブルに対し、完璧を維持するのではなく意識的に少しずらすことで、音の凹凸をはっきりと描いているように思いました。それが人間的な温かさというか人間臭さになっていることに気付き、とても心地の良い演奏でした。

休憩の後に演奏された第14番は、ベートーヴェンが誰かに依頼されて創られた曲ではなく自らの意思で書き上げた作品だと言われています。亡くなる前年の年、体調も万全ではない状態で全7楽章にわたる長大な作品を生み出したベートーヴェンに感服します。

実のところ私はベートーヴェンの後期弦楽四重奏作品については苦手でした。交響曲第9番という巨大な塔を創り上げたあと、ベートーヴェンはさらなる高みというか、孤高の領域へと足を踏みいれます。それは深遠すぎて私などが簡単には近づいてはいけないように感じていたのです。私自身は、弦楽四重奏はラズモフスキーセット(第7番~第9番)があれば充分じゃないかと思っているくらいでした。

というわけで、全7楽章が切れ目なく演奏される第14番は心して聞かねばならぬと身構えていたのです。

で、演奏を聴いたわけですが、この曲は前半の演奏をさらに超える圧巻の演奏でした。楽章間の切れ間がないことにより、次々に楽想が展開し、息をつく暇がありません。どの楽章も全てが個性的で、深く底の見えない海へと沈んでいくような曲もあれば、もふもふとした小さな天使がキラキラと天上を飛び回っているような曲もあります。まるでベートーヴェンが人生の最後に観た走馬灯のように曲が次々と大胆に展開していくのです。

プラジャーク・クァルテットの演奏は前半の演奏にさらに磨きをかけたように力強く推進していきます。緻密に練り上げられた演奏計画をベースにしながら大胆に崩していくような演奏に感じたのですが、それももしかしたら初めから計算されていたのかもしれません。完璧な演奏というのではなく、人間臭い演奏というのでしょうか、プラジャーク・クァルテットならではのオリジナリティの高い演奏が私にとって素晴らしく心地よい演奏でした。

と言うわけで、苦手としていた後期弦楽四重奏曲作品ですが存分に楽しめました。

今夜は最終日、ベートーヴェンの弦楽四重奏作品の中でも最大規模である第13番が演奏されます。第5楽章のカヴァティーナはベートーヴェンの数ある曲の中でもっとも美しい曲と称されることもある傑作です。お時間がある方は是非。

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