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最近よく耳にする「特権」ってなに?  女性4人に聞いてみた

大学入学直後、奨学金の説明会に参加する同級生が思いのほか多いことに藤崎さんは驚いたという。

「高校の友人にも奨学金を借りる人はいたんですが、同級生の過半数が説明会に参加しているのを見て『思ったよりずっと多いな』と感じました」

その後の大学生活では、仲良くしていた友人が親から学費の援助は難しいと告げられ、退学するのを見届けることになる。

「私は何の苦労も勉強できる一方で、勉強したくてもできない人がいることや、友人との立場の違いをようやくはっきり実感しました。自分が持つ『特権』を自覚したのはそのときだったと思います」

ミネソタ州でジョージ・フロイドさんが白人警官に殺害された事件を受け、「特権」についての議論が活発化している。5月末、歌手のビリー・アイリッシュがインスタグラムで米国における「白人特権」について投稿したことも大きな話題を呼んだ。

「特権」を辞書でひくと、以下のような定義が出てくる。

①特別の権利。ある身分・資格のある者だけがもっている権利。
②特定の職務にある者が、その職務の故に与えられている特別な権利。例えば、外交官特権など。(三省堂 大辞林 第三版より

しかし、人種差別反対運動やフェミニズム運動など、人権運動の場における「特権」という言葉の使われ方はどうも上記の定義におさまりきらない。

そこで、「Sisterlee」編集部では、ツイッターユーザーの女性に自らの「特権」「マジョリティ性」について気づいた経験を、グーグルアンケートで募集した。

「なんでもない」体験の中にある「特権」

アンケートの回答には、前述の藤崎さんの体験談の他にも、以下のような体験談が集まった。

「大学進学を身近な人に反対されたり、実家の近くの大学や女子大にしなさいといったことを言われなかったこと」(日向サチコさん)

「日本ルーツの日本人であること」(Nさん)

「大人になるまで、幼少期に頻繁に通っていた病院がコリアンタウンの目の前にあることに気付かなかったこと。民族的マジョリティだから、気づかずにいられたのだと思う」(annさん)

「なんでもない体験じゃないか、大げさな」と思うかもしれない。でも、そういった体験の中にこそ特権はあるのではないか、お話を聞かせてくれた日向さんは指摘する。

「もし『特権』という言葉を説明するとしたら……気づかないようなこと、当たり前だと思っていることの中にすごくたくさんある、とまず説明すると思います」

ある面ではマイノリティでも、ある面ではマジョリティ

アンケートには、自身もマイノリティとしての属性を持つ方からも回答があった。

インドネシアと日本のミックスであるRaiさんは、同じ外国ルーツの同級生の間でも差異があることに小学生の頃に気づいたと話す。

「外国名を持ったミックスの子の名前が集会で読み上げられて、嫌な笑い声があがったことがあります。私の名前は日本名なので、同じような経験をすることはないと気づいたのを覚えています」

レズビアンであるあゆみさんは、セクシュアルマイノリティのオフ会で障害のある人に出会ったときに少し驚いたことを教えてくれた。

「普通に考えれば、セクシャルマイノリティでありつつ、他の面でもマイノリティの人が存在することは当たり前です。でも、その出来事があるまで、障害のある人にそこで出会うこともあるとは思い至らなかった」

ある面でマイノリティであること、そして別の面では「特権」を持つマジョリティであることは矛盾しないと気づかされる。マイノリティは、いついかなる場面でもマイノリティではないのだ。

あゆみさんは「マイノリティだから、他のマイノリティの気持ちや経験がわかる」といった言説にも警鐘を鳴らす。

「セクシュアリティに関わる話のときに、『私も別の面でマイノリティなので……』と言われたことがあります。そうやってまとめられてしまったので、私はそれ以上、セクシュアルマイノリティであるがゆえの苦しみや差別については話すことができませんでした。

ただ、私も他のマイノリティの方に似たようなことを言ってしまったことがあると思います。明確に心当たりがあるわけではないんですけれども、言われたほうはきっと覚えている。特権ってそういうものですよね」

「特権」について考えることがなぜ必要か

お話を聞かせてくださった方々の話を総合すると、「特権」とは「あまりに当たり前に享受していて気づきにくいもの」、そして「ある面では持っていなくても、別の面では持っていたりするもの」と言えそうだ。

後出しジャンケンのようで申し訳ないが、今回の企画を考えたきっかけは、ジョージ・フロイドさん殺害事件とその後の抗議デモを受け「米国ではアジア系だって差別されている」という声が、特に日本在住の日本人から多数あがったのを見たことだった。

異なる差別問題をひとくくりにする姿勢に危うさを感じたほか、普段マジョリティとして暮らしている人が、真っ先に自身のマイノリティ性に言及したことが心に引っかかった。

ひょっとすると、自身のマジョリティ性や特権について気づくことは、自身のマイノリティ性に気づくことよりも難しいのかもしれない。しかし、それでも差別や不平等について積極的に学び、自身の特権を見つめることは不可能ではない。

また、自身のマイノリティ性だけに捉われずに、他者の困難について学ぼうと努力することはできる。今回皆さんに伺ったお話からは、そのようなメッセージを受け取ることができると思う。

最後に、私自身の特権を記しておこう。私は日本社会で暮らす外国籍の白人だ。母国ではその国の国籍を有した白人として非常に大きな特権を持っている。日本では外国籍であることや、白人であることから差別を受けることもあるが、それでも非白人系の在日外国人の友人たちが受けるような差別を経験することは少ないだろう。

人種や国籍から離れると、私は健常者であり、シスジェンダーのヘテロセクシャルで、中流家庭の出身であることから特権を持つマジョリティだ。

今回みなさんに質問したように、私も自分の「特権」に気づいた瞬間を思い出そうとしてみた。しかし、びっくりするくらい具体的なエピソードが思いつかなかった。私は毎日特権の中で暮らしているというのに。

それでも私自身の「特権」を今後も見つめ続けられれば、そして、この記事が、これを読んでいるあなたが「特権」を見つめるきっかけになればと思っている。

執筆=Sisterlee編集部・
写真=Unsplash


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