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大ブレイク中の「お笑い第7世代」 なぜ「おじさん的価値観」に抗うことができるのか

少し前まで、バラエティ番組に出ている芸人はおじさんばかりだった。
MCとして番組の司会進行を務めるのも、MCに一番近い席に座ってドッカンドッカン笑いをとっているのも、ほとんど皆おじさんだった。

出ているのがおじさんで、作っているのもおじさんだから、バラエティ番組は「おじさん的価値観」に染まっている。若者も女性もバカにされ隅に追いやられる世界。おじさんがおじさんに忖度し、おじさん同士の内輪ノリで笑いあっている。

今振り返ってみれば、長らくお笑い界の雰囲気ってそんな感じだった(私もそれを楽しんでしまっていた)。「お笑い第7世代」が出てくるまでは。

「お笑い第7世代」ブームの成り立ち

2018年、お笑い界の重要な賞レースである「キングオブコント」と「M-1グランプリ」を制覇した2組(ハナコと霜降り明星)が、どちらも20代の若手芸人だったことが話題になった。彼ら以外にも、EXITや四千頭身、宮下草薙などの20代若手芸人が人気を集め始めていたタイミングだった。

そして2018年12月22日のラジオ「霜降り明星のだましうち!」内で、せいやが放った一言が、その後のブームを引き起こすきっかけとなる。

「勝手に次の年号の世代「第7世代」みたいなのをつけて、YouTuberとか、ハナコもそうですけど、僕ら20代だけで固まってもええんちゃうかな」

かつてダウンタウン、とんねるず、ウッチャンナンチャンは、「たけし・さんま・タモリ」に変わる新しい世代という印象を世間に与えるために、「第三世代」というキャッチコピーで売り出された。

お笑いマニアのせいやによる「第7世代」発言には、「俺らで世代交代成し遂げようや!」という熱い意図が込められていたと思う。M-1優勝直後のラジオなので、気持ちはよくわかる。

しかしまさか、この発言が後々のお笑い界を変えてしまうような重要なものになるとは、せいや自身も一切想像しなかったのではないだろうか。

せいやがラジオ番組内で口にした「第7世代」という言葉は反響を呼び、その後も人気の若手芸人を総称する言葉として、テレビや雑誌などのメディア上でよく使われるようになった。

私が覚えている中で特に印象的な出来事は、2019年6月18日に「お笑い第7世代」を特集したムック『芸人芸人芸人』が発売されたことだろうか。表紙には「言い出しっぺ」の霜降り明星が勇ましい顔で写っており、誌面にはハナコ、EXIT、かが屋などの「第7世代」の代表格が多数掲載された。

その後、2019年8月17日に放送されたフジテレビの「ENGEIグランドスラム」も印象深い。4時間ぶっ続けの生放送で人気のお笑い芸人が次々にネタを披露する、お笑いファンにとっては絶対見逃せない「お笑い版FNS歌謡祭」のような番組だ。

この時の放送では、EXITや四千頭身、宮下草薙、ハナコ、かが屋、ゆりやんレトリィバアなど若手芸人を大勢集めたコーナーがあり、「第7世代芸人集結!」と銘打っていた。

こうして2019年下半期からさらに盛り上がりを見せた「第7世代」ブームだが、一過性のものでは終わらなかった。2020年9月現在も留まるところを知らず、「第7世代」をテレビで見ない日はない。今では若者たちが、お笑い界のメインストリームを席巻しているのだ。

「第7世代」がバラエティ番組を変える

冒頭で述べたように、ここ最近のバラエティ番組の出演者は、おじさんばかりだった。しかし「第7世代」ブームにより、新しい価値観をもった若者たちが大勢参入してきた。

これまでダラダラと放置し続けてしまった「おじさん的価値観」のノリ――女性出演者に対するセクハラ的な「イジり」や、「男は〇〇、女は〇〇」といったジェンダー規範を前提とした語り、見た目や年齢を貶すことが「面白い」とされる風潮、「後輩は先輩を立てるもの」といった厳しい上下関係などなど……が、もしかしたら若手芸人たちの活躍によって変わっていくのではないか、と期待してしまう。

「チャラ男漫才師」として絶大な人気を集めているEXITの兼近大樹は、2020年5月17日に出演者した「ワイドナショー」でこんな発言をしている。

「お笑い芸人って、ほんとそうだと思うんすけど、ずっとたぶん、中堅層がずっとテレビ出てたんすよ、最近まで。だから若い子たちは、そのお笑いしか見れないんで、お笑い界が廃れてった感じがすげーして」

先輩芸人に対して「お笑い界が廃れたのは、あなたたちの責任ですよ」と突きつけているようで、テレビを見ているこちらがドキッとしてしまう。

また、活躍している先輩芸人たちが、一昔前に流行った漫画や有名人でたとえ話をすることに関して、兼近は以下のように語った。

「それを若い子たち見てたから『あれ、わかんないから見なくていいや』でお笑いから離れてったと思うんすよ」

「トーク番組しゃべる時、例える時に自分の世代の何か好きだったもの“あつ森”とか『鬼滅の刃』とかやった方が若い子たちは面白いんすよね。でもその分、上の人たちは離れていくとは思うんすけど」

この兼近の発言は「たとえ話に使う固有名詞」に関するものだが、中堅芸人が同世代の共通言語で盛り上がって、若い人たちが置いてきぼりになっていることを指摘する、重要な発言である。

「おじさんもう時代遅れっすよ」と、松本人志の目の前で臆せず口にできる。これこそが第7世代の持つパワーであり、これからのバラエティ番組を変える可能性に繋がっていると私は思う。

この他にも兼近は、古い価値観を刷新して若者たちを鼓舞するような、興味深い発言が多い。気になった人はぜひ以下の記事も読んでほしい。

EXIT兼近、若者たちの「やっぱり政治に参加したら嫌な思いする」を危惧​(マイナビニュース)
“ママやめたい”背景にSNSの影響も? ベビーシッター経験者のEXIT兼近「理想とのギャップに苦しんでしまう」(ABEMA TIMES)

新しい価値観を持った「第7世代」芸人たち

兼近ほど直接的な発言はなくても、「第7世代」と呼ばれる若手芸人たちの中には、これまでのお笑い芸人の常識ではありえないような、新しい価値観を持った人が多い。

たとえば、今年になって人気が急上昇した3人組の漫才師、ぼる塾が提示する価値観には、女性としてすごく救われる気持ちになった。

実はぼる塾はもともと「しんぼる」と「猫塾」というコンビが合体してできあがった、女性4人組のカルテットである。しかしユニット成立直前に猫塾の酒寄希望の妊娠がわかり、産休・育休を取得することになった。

酒寄が戻ってくるまで3人での活動を続けることに対して、元しんぼるでツッコミ担当のあんりは以下のように語っている。

「酒寄さんも、コンビ時代は、産休育休をとるときに、相方に申しわけないという気持ちがたぶんあったと思うし、ほかの女性芸人さんもきっとそういう場面になったら同じ気持ちになると思うんです。でも、ぼる塾は『育休とるね』『行ってくるね』みたいなフランクな形で休める、女性の働きやすい環境ができるんじゃないかなって思うんです。」(引用 : FRaUより)

そんなぼる塾のことを、あんりは「福利厚生芸人」だと自称する。このインタビューは、読んでいてつい目頭が熱くなってしまった。

あるいは、「ネガティブ漫才」で個性を発揮する宮下草薙のボケ担当、草薙航基の発言にも、毎回驚かされる。

2020年7月14日に放送された「あちこちオードリー」にて、草薙は相方の宮下から「草薙はここ数年で辞めるつもりでやってます」と暴露され、その後こう語っていた。

「明日辞めてもいいやって思ってないと(テレビや舞台に)出れない」

まさか、そこまでギリギリな精神状態でお笑いをやっていたとは。他の出演者たちは驚くが、相方の宮下は慣れきっているようで、平気な顔をしているのも面白い。

また、ブレイクのきっかけとなった「アメトーーク!」の人見知り芸人企画に関しても、草薙は「出たくなかった」と言う。

「お笑い真剣勝負みたいな番組、すごい嫌い」

どこまでが本心なのかはわからないが、先輩芸人や番組制作者に忖度しない、草薙らしい発言である。

「芸のためにプライベートも犠牲にしてきた」「お笑いにストイック」な芸人を賛美する風潮は、未だに残っていると感じるが、草薙のような「お笑い真剣勝負をしていない」人物を受け入れる土壌を、草薙自身が耕し続けているのだと私は思う。

余談だが、同じアパートに住みお互い支え合いながら暮らしている宮下草薙に、なかなか今までにない「男性同士の協調関係」も感じるので、これからも目が離せない。

「第7世代」活躍の本当の理由とは

ここまで、一部ではあるが「第7世代」と呼ばれる若手芸人たちの発言を紹介しつつ、彼らの新しい価値観や忖度のなさについて取り上げてきた。

「第7世代」の若手芸人たちが、凝り固まった「おじさん的価値観」を払拭し、新しいバラエティ番組の流れを作っていくかもしれないと期待する理由が、わかっていただけたんじゃないかと思う。

最後に、なぜ「第7世代」と呼ばれる芸人たちは、おじさんが作り上げたお笑いのお約束やルール、慣習に合わせずに自分をさらけ出し、堂々と意見を言えるのかについて考えてみる。

もちろん彼らが若くて勢いのある、将来有望な人気芸人だからとか、「第7世代」同士の連帯感・仲間感が後ろ盾になっているから、という理由もあるかもしれない。

しかし、一番大きいのは「世間が第7世代にそれを求めているから」ではないだろうか。

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おじさんのノリについていけず、バラエティ番組に興味関心を失いかけていた視聴者たちが、「第7世代」に新鮮な面白さを感じ、彼らに好き勝手暴れてほしいと切望している。

その期待を敏感に感じ取っているからこそ、「第7世代」の芸人たちはお約束もルールも気にせず暴れられるのではないか。

何より私自身が、「第7世代」に今までのバラエティ番組を変えてほしいと思っている視聴者の一人であるからこそ、そう思う。

視聴者のニーズと若手芸人たちの勢い、双方が影響し合って起きたのが「第7世代」ブームなのだとしたら、なんともワクワクするじゃないか。セクハラ・パワハラ的ノリに怯えずに、安心してバラエティ番組を見ることができる時代も、もうすぐそこまで来ているかもしれない。

彼らの躍進はまだまだ続く。期待と希望に胸躍らせながら、今後も注視していきたい。

執筆=たぬき
画像=Unsplash

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