キメラ6(完結)

夫が自殺してしてしまってからしばらくしても、結局、なぜこの時夫が自殺したのか、私にはわかっていなかったんだと思う。
私の中の夫は永遠に止まったままになってしまったが、私はこれからも緩やかに年齢を重ねていく。
突然の事故死とか病死にならない限り、私は一人緩慢に生きていくだろう。
時折、夫が生前よく聴いていたCDのコレクションを少しだけ聴いてみる。
メイヘムの「キメラ」も聴いてみるけど、私にはやっぱり暗くて喧しい音楽で、よくわからない。
夫がそのどこに惹かれていたのかも、結局わからないままだ。
夫にもう少し訊いてみればよかったかな、と思っても、もう叶わない願いだ。
メイヘムの自殺したメンバーも、夫も、私には遠すぎた。
それでも愛し合えた時間は少なからずあったのに、なぜ人は理解し合うことができないのだろう。孤独な夫から、私は砂漠で一人で死ぬ夢まで奪ってしまったのだろうか。
夫にとって奇妙なキメラだった私が、夫に与えることができたものとは、一体何だったのだろうか。
私はせめて、夫を少しだけ信じてあげて、その分、他の何かを少しだけ否定してみよう。