キメラ2

出逢った頃の夫は、寛容と言っていいようなおおらかさの反面、自分の好む音楽や小説、美術作品に、並々ならぬ情熱と確信を持っているようだった。
かといって、自分が好まない作品を批判するということも特になかった。
「自分自身で演奏したり描いたりする才能がないからね」と、夫は笑いながら、でも少し寂しそうに本棚を見つめていた。
「何かを信じるということは、他の何かを否定することだから」。その言葉は、特にこだわりを持たない私にも、少なからず納得できるものが感じられた。
夫は私と結婚した。
そのことで夫は、他の何かを否定することになったのだろうか。
その分私は夫を幸せにできているのだろうか。