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第六話 「崩壊」

その日学校から帰ってきた私は、近所の仲の良かった友達と二人で家の前で遊んでいた。母は仕事で居なかった為、子供達の自由時間である。探検ごっこしたり走り回ったりと、ごくありふれた遊びをしていた。すると、どちらが言い出したのかは覚えていないが、石ころをどこまで遠くに投げられるか勝負しよう、という話になり、少年二人は石ころを投げ始めた。

この時点で、大体どういう展開になるのか既に予想がついていることだろう。が、小学校一年生の二人にとっては、石ころを投げることにそんなリスクがあろうとは思いもしないのである。

私は、その時やけに張り切っていたように思う。今まで物を力の限り投げた経験が無かったのだろう。それこそ振りかぶって、できるだけ高く、遠くへ、何度となく投げ合っていた。どちらも負けまいと、ひたすら投げ続ける。5ターンぐらい投げ終え、互いにいい勝負である。次は私の番だ。渾身の力を込め、空高く、投げた。

次の瞬間、「ゴッ」と鈍い音がした。音がした方に恐る恐る近付くと、隣の家の車の窓にヒビが入っていた。ヒビどころか、何重にも蜘蛛の巣が張られた様な、言わば結晶の様な状態だった。

その後少年二人が何を話したのかまるで覚えていない。ショックのあまり記憶を消去しようとしたのだろう。お遊びは終わった。

段々と日が暮れていくと共に、私の気持ちも沈んでいた。もうこれは隠しようがない。正直に話そう。腹をくくって母の帰りを待つ。

普段は母の帰りを心待ちにしている私も、この日ばかりは帰ってきて欲しくなかった。でも、正直に話せば許してくれるとも思っていた。そう、悪気があって割ったわけじゃないんだし、何かの絵本にもウソは良くないと書いてあった気がする。大丈夫。許してくれる。

そうこう考えていると、母が帰ってきた。

どう話したのかは記憶がないが、ヒビの入った車の周りに、母と私と、一緒に石ころを投げていた友達とその親と、当の車の所有者の男性とが一同に介した。大人たちが深刻に話をしている。私はうつむくばかりだ。そして、大人たちの会話から、なんと車の所有者が警察官ということを知る。

「あぁどうしよう…おまわりさんにつれていかれる」

真剣にそう思った。そして、その警察官が車のドアを開けて中をいろいろと確認してドアを閉めた瞬間、

「ガシャン!」

何もかも崩れ去った。ドアを閉めた衝撃で、窓ガラスは粉々になって地面に落ちた。全員沈黙。張り詰めた空気の中、解散した。

そして、正直に話せば許されると思っていた少年の淡い期待も崩れ去る。

家に入るや否や、日が暮れて薄暗い部屋の中で電気をつけることもなく、母は鬼の形相で怒鳴り始め、兄の修学旅行のお土産で飾ってあった木刀を持ち出し、私の体を容赦なく叩き始めた。一回や二回じゃない。何度も何度もだ。

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

泣きながら何度も叫んだが母の手は止まらなかった。短パンを履いていた私の足は、真っ赤に腫れ上がった。地獄の時間だった。

どれくらいの時間叩かれたのやら、ようやく叩くのをやめてくれた頃には、もう私は涙やら鼻水やらでボロボロだった。幸い、顔だけは叩かれなかった。さすがに顔はまずいと思ったのだろう。

やはり僕は川で拾った子供なんだ。でなきゃ実の子にここまでの仕打ちをするはずがない。

それからというもの、一緒に石を投げていた友達は、二度と遊んでくれなくなった。

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