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夏のおもひで(プチホラー)


ここ城東の地でも2、3日前からセミが喧しく鳴き始めた。初めは人が通るとピタッとなりを潜めていたのだが、もう今は遠慮会釈なしである。
夏を感じる音である事は確かだ。

このセミも含めて私は虫の類は総じて嫌いである。子供時代から大方の男の子が好きであろう甲虫系も大の苦手であった。親父の友達の子供が私にと採ってきてくれたクワガタムシなども、その時はありがとうと頂戴するのだが、夜になると箱を開けベランダに出して逃して(と言うか出てってくれ感)いたほどである。
秋の夜長を鳴き通す虫の音に季節の移り変わりを感じて聞き入る事はあっても、その姿は見たくないと言った具合だ。

ことセミについては子供時代のプチ恐怖体験とも言える出来事があって以来、姿を見るのさえ嫌なのだ。

幼稚園当時、母親の実家で家族住まいだったが、お袋は8人兄妹の次女で、当時未婚の弟や妹が4人一つ屋根の下という環境であった(もちろん祖父や祖母も元気だった)。
この未婚の叔父、叔母がよく遊びに連れて行ってくれた。1人の時もあるし行った先で彼らのお友達や彼氏、彼女さんに会うこともあり、今にして思えばダシに使われた感もあるが芝生の上や遊具で遊び、帰りにはお決まりの駅前の不二家でぺこちゃんサンデーなど食べさせてもらったり楽しい(と言うか子供がうれしいと感じる)ひと時を過ごしていた。総じて子供の頃の幸せな記憶というのは長じても尚覚えているもので、こういう記憶がなければ成長していく中で辛い事や悲しい事があっても踏みとどまれないだろうなぁとしみじみ思う。

そんな中、四女(末娘)の叔母と真夏の駒沢公園に行った時のことである。並木の低い所で鳴いているセミ(アブラゼミだったか?)を叔母がサクッと掴んで僕の目の前に「ほらセミよ(ニコッ)」って感じで差し出してきた。
目の前の奴の顔を見た瞬間に子供ながらに体が総毛立つのを感じた。あまりの事に言葉を失っている私を前に叔母は「家に持って帰ろうね」などと自分の髪を束ねていたゴムをやおら解くと器用に奴の足に結び、もう片方をこともあろうに僕のズボンのベルト通しに結びつけたのだ。
 そこから先は何をしてどうやって帰ったのか(多分東急バスだ)全く覚えていない。奴が背中の辺で飛び回り、たまに背中に止まってジジッと鳴くのが堪らなく気持ち悪かった事だけは確かだ。

叔母的には男の子はみんな虫が好きという前提だったのだろう。良かれと思ってしてくれた事だが僕にとっては拷問に近い仕打ち(仕打ちって言うか?)だった。

そんな叔母も母方の兄妹でただ1人元気に暮らしている現在。この陽気でちゃんと食べて元気でいてくれぃと思い、先日食べてみて旨かった冷凍便の鯖寿司を送った。さっそくLINEで美味しかったと返信があり誠に重畳。
かつての叔母の彼氏(今は夫)であるおじは堅焼きのお煎餅が大好物。近々旨いのみっけて送るね。

てな事を言ってる自分も還暦を過ぎて早2年。こんな思いを胸に暮らしていく為にもご自愛せねば。(と言いつつまだまだプチ煩悩的なものが頭をもたげるのだが)

この夏は7月から真夏並み。皆様も何卒お身体ご自愛下さいませ。今年の夏は特にヤバイですぞ。

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