見出し画像

「麻(マー)」は正義!いつしか世の中は花椒のトリコに。

いつの間にか、日本でもすっかり定着した中国山椒。一度その魅力に取り憑かれると、ハマってしまう人が続出する中毒性の高い香辛料です。四川料理に欠かせない中国山椒について、赤坂店の料理長である田中良司に話を聞きました。

ー四川料理には「山椒」が欠かせないと言われます。最初に基本的なことからおうかがいしたいのですが、四川料理で使う山椒は日本の山椒とは違うものなのでしょうか。

田中:中国の山椒も日本の山椒も、植物としては「ミカン科サンショウ属」です。ただし同じ分類にはなっていますが、実際には両者はかなり異なるものですね。

ー山椒はミカン科なんですね!独特の爽やかな香りは、ひょっとしたらそんなところにも理由があるのかもしれませんね。

画像1

↑赤坂店料理長の田中良司

田中:四川料理にとって、唐辛子と同じくらい欠かせないのが「花椒」です。中国語で「ホアジャオ」、日本語では「かしょう」と読みます。これは熟した「華北山椒(カホクザンショウ)」の果皮の部分を乾燥させたものです。日本の山椒と区別するために、「中国山椒」と呼ばれることもありますね。

ー「花山椒」というものもありますよね。あれは何ですか...?

田中:花山椒は、日本の山椒の花の部分のことですね。牛肉とあわせて、しゃぶしゃぶにして食べると美味しいです。「花椒」と「花山椒」とでは確かに名前が似ていますが、全くの別物です。

画像2

↑フレッシュな「花山椒」。豊洲市場のサイトより

ー四川飯店で使うのは「花椒」ということですね。

田中:僕たちが使っているのは、四川省の中でも「漢源」という地方で採れる山椒です。産地の名前を取って「漢源山椒」と呼んでいます。あとは色が赤みを帯びているので、「赤山椒」と言うこともありますね。

ー料理に使うは、その漢源山椒の1種類だけですか?

田中:いえ。それとは別に「青山椒」というものも使います。これは赤く熟す前の、青いうちに収穫した中国山椒を乾燥させたものです。

画像3

↑右が「漢源山椒」、左が「青山椒」

ー漢源山椒と青山椒とでは、どのように使い分けるんですか?

田中:四川料理の特徴である、しびれるような味わいを「麻(マー)」と言いますが、それをしっかり出すためには漢源山椒を使います。四川飯店でつくる料理全般のベースとなる山椒はこちらですね。一方で、より香りを強く出したいときには青山椒を使います。使う割合で言えば、漢源山椒と青山椒で9:1くらいですかね。

ーそれらの山椒はどのようにして使うのでしょうか?

田中:粒のまま使うこともありますし、粉にしても使います。粉にするときは、自分たちでミルで挽くんですが、殻とか種などの舌触りの悪い部分が出てしまいますので、それをしっかり漉して取り除くんです。そうすると、量としては最初の半分くらいになってしまいます。

ー半分になっちゃうんですか!

田中:それなりに高価なものですからもったいないですけれど、美味しく召し上がっていただくためには仕方ありません。たまに、油の香り付けに使うこともありますが、ほとんどは捨てることになってしまいますね。あと、粉にしてしまうと、どうしても風味が落ちやすくなるので、一度に多くつくらず、こまめに挽く必要があります。

ー具体的にはどんな料理で花椒を使いますか?

田中:四川飯店の代表料理である麻婆豆腐では欠かせませんね。それから、スープありの担々麺では使いませんが、正宗担々麺という汁なし担々麺では、大事なアクセントになっています。

ーそれ以外の料理でも使いますか?

田中:炒めものでもよく使います。粒のまま炒めることで、良い香りをうつすことができます。炒めるときには、粉ではすぐに焦げてしまうので、粒でないとダメですね。あとは、豚肉などの肉を塩漬けすることがありますが、そのときに一緒に山椒を粒ごと漬けるんです。洋風の料理でもタイムなどのハーブを、肉と一緒に漬けたりしますよね。あれと同じで、肉に良い風味を付けることができるんです。

ーそれは美味しそうですね!

田中:粉の場合は、塩と合わせて「山椒塩」として使うこともあります。春巻きに付けたりするといいですね。ちなみに、皆さんは「五香粉」って聞いたことがあると思いますが、花椒はその中にも含まれている重要な香辛料です。

ー四川飯店名物の麻婆豆腐での花椒の使い方を教えて下さい。

田中:麻婆豆腐においては、調理の最後の仕上げに使うんです。中国から輸入している山椒オイルがありますが、これを回しかけて香りを加えます。そして最後に漢源山椒の粉を振りかけます。

画像4

ーオイルと粉とダブルで風味付けするんですね。

田中:はい、それによってしっかりと「麻(マー)」の味わいを出すことができます。ちなみに、僕が入社したのは今から30年以上前の1988年のことです。その頃の麻婆豆腐は今とは全然違うものでした。

ーてっきり麻婆豆腐は、四川飯店にとって創業からの「変わらぬ味」かと思ったら、そうではないんですね。

田中:当時はまだ安定した流通のルートがなくて、中国から花椒を仕入れることはできなかったんです。なので、当時流通していた「中国の山椒」を使っていました。まだ「四川省の山椒」とか「花椒」というように、こだわって入手することはできなかったんですね。ただ、やっぱりそれでは「麻」の味は出ませんでした。現会長の陳建一が「料理の鉄人」というテレビ番組に出ていた1990年代から輸入業者さんとのルートができて、それで花椒を使えるようになったんです。

ーそのおかげで麻婆豆腐の味が大きく変わったわけですね。

画像5

田中:実は最初の頃は結構クレームのような反応も多かったんです。花椒を口にすると、舌や口の周りがしびれますが、初めての方にとっては「何だ、これは!」となるわけです。

ー確かにそうですよね。僕も最初に食べたときの驚きを今でも覚えています。

田中:それが今ではすっかり定着したもので、「もっと花椒を足してほしい!」なんていう声が結構多いんです。時代は変わるものですね。【終】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?