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姉弟日記 『ホワイトデー』

都心に建つショッピグモール。

少女はコソコソと物陰に隠れながら、
“とある人物“を尾行していた。

その標的は──少女の弟。

探偵ドラマを観て会得した尾行術で、
誰からも不審に思われることなく追跡する。

彼は洋菓子の専門店へと入っていき、
そして静かに品々を見定め始めた。

今日は、ホワイトデーなのだ。

弟はバレンタインのお返しを選ぼうと、
慣れない買い物に一人で来たらしい。

少女はモヤモヤとした気持ちを抱く。
何故なら──渡す相手が分からないから。

弟はその日の朝、家族の皆に対して、
既にバレンタインのお礼を済ませていた。
少女が弟から貰ったのは、
スーパーで売られている市販のクッキー。

それに比べ、洋菓子を眺める
今の彼の視線は真剣そのものだった。

同級生の女子に渡すのだろうか……
まさか弟が、私やお母さん以外から
チョコを貰っていたなんて……

「あの子、コソコソ隠れて変なのー!」
そんな同い年ほどの子供の声を無視して。

少女はじっと弟の監視を続けていた。


ホワイトデーに、洋菓子店に入った弟。

大人な雰囲気の小箱や、色鮮やかな個包装。
綺麗に並べられたお菓子達を見るだけで、
心ときめいてしまいそうだ。

買うものを決めかねている様子の彼に、
店員さんが相談に乗るよう話しかけている。

そして、2時間ほど悩んだ末に、
なんとか弟は納得する品を買えたようだ。

お店から出てくる弟に、
尾行がバレないよう少女は足早に帰宅した。

──その日の夜、少女の私室にて。

算数の宿題をテキパキとこなす少女のもとに、
落ち着かない様子の弟が訪ねてきた。

手に持っているのは、マドレーヌの小箱。

何やら、朝に市販のお菓子を渡した際、
姉があまりにも不服そうな顔をしたために、
仕方がないと買い直したのだという。

「あ……ありがとう……」
驚いたような、少し恥ずかしいような、
複雑な気持ちで少女はそれを受け取った。

弟が部屋を出た後、しばらく箱を眺める。
お店まで行って、自分のために悩んで、
なけなしのお小遣いで買ってくれた品。

口元を緩ませた少女が、箱を開けると──

突然、少女の顔にピタリ。
箱から飛び出た『カエル』がへばりつく。

思いもしない出来事に彼女は、
悲鳴をあげて椅子から転げ落ちた。

それは、弟がいたずらで箱に仕掛けた、
おもちゃのカエルだった。

──隣の私室に戻った少年は。

姉の慌て声を聞いてふっと微笑みながら、
ゆっくりと読書を楽しもうとしていた。


ホワイトデーの夜。

少年が私室で、読書を楽しもうとしていた。
隣の部屋から聞こえる悲鳴と物音に、
少しやりすぎたかなと反省する。

今日、洋菓子店の店員さんに言われた、
迷う少年へのアドバイスを思い出す。

「貴方らしい贈り物なら、
 きっと相手は喜んでくれますよ」

たぶん喜んでくれたと己を納得させつつ、
彼が読書のために、本を開くと──

突然、少年の顔めがけてバチン。
本に挟まれた『栞』が少年を襲った。

思いもしない出来事に彼は、
驚いて椅子から転げ落ちてしまう。

それは、姉がいたずらで本に仕掛けた、
ダンボールと輪ゴムで作った飛び出す栞。

今日一日やきもきさせられたことへの、
ちょっとした仕返しのつもりなのだった。

──しばらくして。

ひよこと星の柄のマグカップに、
仲良く牛乳が注がれて。

姉の「美味しいね」に、頷く弟。

一緒に食べることになったマドレーヌは、
どこか特別な味がするのだった。


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