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004 貴方に内緒で貴方の話をしよう

貴方に内緒で貴方の話をしよう。


いち、謎のおいしそうな匂いがする。

星野源さんの歌にもあるけれど、首筋の匂いがパンとまではいかないにしてもなんだかおいしそうなのである。具体的にどんな匂いかと問われると言葉に詰まる言語化できない匂いだが、とにかくおいしそうなのだ。フォロワーさんが愛の表現として「食べてしまいたい」という言葉を用いていた気がするが、なるほど分からなくない。なんだか無性に齧り付きたくなってしまい、堪らずたまに噛んでみる。もしかしたら私の前世は吸血鬼かもしれない。


に、知らない人にすぐ声をかけられてしまう。

私もよくおじいちゃんおばあちゃんに話しかけられるタイプであるが、貴方は私の三倍くらい頻繁に声をかけられる。外国人にもよく道を聞かれていて、隣で私が英文を調べるより先に小学生みたいな英語で答えている。度胸があると思う。そしてそれで分かってもらえるのだから凄い。相手の理解力もさることながらさすが出川イングリッシュを見て育っただけある。あれは本当に面白い。「おいしい匂いがするから人が寄ってくるのかな」と言うとキョトンとされた。少し悲しい。


さん、甘いものが苦手なくせにいつも一口目を食べる。

貴方は甘いものをあまり好まない。反対に私は糖という糖を愛している。しかし辛いものも酸っぱいものも好きだ。もはや食が好きだ。それはさておき、「甘いものはたくさん食べられないし食べたいと思わない」と言う。言う割に私が買ったアイスもクレープもショートケーキも一口目を食べる。そんなことで怒ったりしないが、変なやつだなと思う。あとはどうぞ、じゃないよ。まあしかし一番美味しいところをあげるくらいに私は貴方が好きだったりする。


よん、甘えるのは恥ずかしいと言いながら寝るときはくっつき虫になる。

初めてのキスも久しぶりのハグもありとあらゆる身体的愛情表現はいつも私からだ。どうやら恥ずかしいらしい。その羞恥心のせいでセックスに持ち込む時すら真面目になれず、結果ムードというものが私の中からも家出した。それなのに寝る時だけはぴったりと擦り寄ってくる。寝る時は少々離れていたい派の私であるが、これが可愛くて離れられない。母性を通り越して父性が芽生えてしまい、腕枕をするのは私の役目になった。夜中に腕が痺れてそっと抜くと寝ぼけたままキョロキョロと腕を探す。可愛い。私は右利きなので左腕ならあげてもいい。


ご、未来の話が嫌いだ。

貴方に、未来のふたりの話をするといつも困ったように笑っている。だから私の話題リストからifの話は削除した。確かに明日のことも分からないけれどそうじゃなくてただ私が傍にいる未来を願って欲しいだけだった。当たり前のように描いて欲しいだけだった。けれど貴方は未来の話を嫌う。不確定なことを言語化することを嫌う。分かってる。いや分かろうと努力はしている。第三者を前にした誠実な貴方はまだ見ぬ嘘すら吐きたくないのだろう。下手な期待も。それでも時折泣きそうにはなる。言語化されないすべてに。愛に。

貴方が嫌いな未来の話を貴方に内緒でしよう。
この先私が生きる為に貴方が居る必要はないけれど、私が幸せを抱きしめる時、出来れば傍に貴方が居て欲しい。


004 貴方に内緒で貴方の話をしよう

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