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005 ただ、貴方の好きな私になりたかった
この髪型可愛いねと言われたあの日から私の髪は肩口で揺れるパーマヘアになった。
テレビで見る赤いリップが少し怖いと言われたあの日からポーチの中の赤リップは消えた。
元カノに今日の予定を聞かれるのが苦手だったと言われたあの日から貴方のスケジュールは後日談で聞くものになった。
夜通し考えた孤独とひとりの違いについてを難しい話はよく分からないと言われたあの日から夜の思考は言葉にすることをやめた。
ただ、貴方の好きな私になりたかった。
貴方を好きになるほど貴方の好きそうな私になろうとする私がいた。貴方がそれを望むかは分からない。強要されたこともない。穏やかな貴方になにかを押し付けられたことなど、ただの一度もなかった。これは私が勝手に始めた私だけの緩やかな縛りなのだ。
勝手に始めておいてなんだが、たまに、「こんなのおかしいよな」と思ったりもする。「貴方と出会う前の私を好きになってくれたはずなのだから、私があえて私でなくなる必要はないよな」と思ったりもする。けれど結局貴方の言葉をひとつもこぼさないようにと聞いてしまう。嫌いなものを避けて、好きなものを選ぼうとしてしまう。ただ、出来るだけ長く貴方のそばに居たい。ただ、出来るだけ長く貴方に嫌われずにいたい。ただ、出来るだけ終わりを遠くに追いやってしまいたい。これは愛と呼べるか?どちらかと言えば、ただ、自己愛な気がする。
貴方は私に「僕の薦めた曲以外にも聞いてくれるところが好き」と言ったけれど、貴方の好きなアーティストを聴いてしまうのは私も好きになったからではなくてただ貴方にふたりの好きなものが似ていると思って欲しいからだったりする。感性は近くとも、どうやってもふたりは同じになれない。私はそれを分かっている。だから私と違う貴方も愛おしく思う。けれど貴方はどうだろう。貴方は貴方と違う私も受け入れてくれるだろうか。今と変わらず好きだと言ってくれるだろうか。難しい話はよく分からないと苦笑いされてしまうからこれもまた言葉にすることをやめた。
だから今日も、ただ、貴方の好きな私になりたい。
005 ただ、貴方の好きな私になりたかった
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