016 きちんとお別れをしてからあなたの街に行きたいと思うよ
春が来ているようだ。まだこちらは薄ら寒くって私は実感できていないけれど、どうやらあなたの住む街では桜が満開らしい。いいね、ソメイヨシノ。花の密度に驚いてしまったことを今でも覚えている。そちらに行くたび、こちらにないものばかりでなにもかも魅惑的に見える。人の冷たささえ私にとっては心地よく見える。まつ毛が凍りつく寒さも30分でたどり着く湖もどこにでもいるタヌキも、羨ましくはないのだろうな。それでも帰りがけに見る満天の星も見上げるたび開かれた青空も刈られたばかりの草の匂いも、私はいつも愛おしく思うよ。いつかもし、あなたの街に住んだら私は何を捨てるのだろう。何を置き去りにしてあなたの元へ向かうのだろう。分からないままにしたくはないな。当たり前の顔をしていつもそばにあったそれらと、きちんとお別れをしてからあなたの街に行きたいと思うよ。
016 きちんとお別れをしてからあなたの街に行きたいと思うよ
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