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極寒の海【日記:2023/11/26】

・朝7時半起床。真っ暗だけどあまり寒くはないのがありがたい。もう12月がすぐそこまで来ているのに気温は10度前後。黒潮様様である。

・「明日、9時に村の浜辺集合ね!みんなで海、泳ぐから」と昨日の夜の帰りしなに言われる。そういう謎のイベントは大好きだ。海パンとバスタオルを持って村に車を走らせる。

・集合場所がわからなくて墓地に迷い込んだりしたけれど、なんとか9:15には集合場所を見つける。まだあまり人は集まっていない。「ハイダ時間は30分遅れだよ」ひとりのエルダーが冗談混じりに言う。焚き火で体を温めておく。

・9:30になるとみなじわじわ集まってくる。こんな時期になぜ海に入る必要があるのか?「コールド・クレンジングだよ」イベントのボスであるジョシュがいう。マセットのハイダ族は昔から朝、海で体を清めていたらしい。ハードコアな民族である。

・祈りを捧げた後、皆服を脱いで水着になる。天気はどんより、海岸は海藻だらけ、そして身を刺すような冬風。水着がいちばん似合わない光景である。

・エルダーに先導され、十人ほどが海に向かう。ゴーグルをつけると「お前ガチやん!」とみなに笑われる。そんぐらいの気持ちで行かないと凍えてしまいそうだ。クロックスを脱いで、ゆっくりと足から海に入る。

・冷たい。当たり前のことだけれど、しんしんと冷たい海水である。いくら暖流が流れているとはいえ、カナダの冬である。あれだけ意気込んでいたサシャはものの数秒で海から上がって行った。ふたりのエルダーは肩まで浸かるところまで進み、何かを唱えながら頭まで潜る。僕も真似して潜る。

・1分ほど経っただろうか?身体中から軋む音がするようで、さすがに僕も海から上がる。バスタオルで体を拭く。すると、海に浸かっていた部分が不思議にじんわりと暖かく感じる。体温調節機能がおかしくなってしまったのだろうか。

・焚き火で体を温める。樹脂をたっぷり含んだレッド・シダーが心地いい音を立てて燃える。火を囲むって素敵だ。

・ウェルネス・キャンプを主催している団体のメンバーたちが泊まっているロッジに招かれ、朝食を作る。スピナッチ・エッグとベーコン、そしてイングリッシュ・マフィンである。カナディアンな朝食づくり。「あなたはチーズ係ね!」と大きなチェダーチーズの塊を渡される。ひたすらにチーズを刻む。

・ロッジはエイプリル・ホワイトというハイダアーティストのギャラリーでもある。建物中にシルクスクリーンプリントや絵画が展示されている。なんという贅沢。

・朝食を作っているとどんどん人が増えてゆき、最終的に八人でテーブルを囲む。顔は見たことあるが名前は知らない、という村人たちと挨拶する。ハイダグワイに来ることになった経緯を語ると、みな目を細めてしっかり聞いてくれる。「エブリバディ・ラブズ・コウヘイ!」仲良しのクリスがおどけて言う。嬉しい。

・ロングヘアの青年と話す。その顔立ちからハイダ族のひとりだと思い込んでいたが、彼も僕と同じく八月にハイダグワイに引っ越してきたという。名前はマイク。プリンス・ルパートで育った彼は、テラス(BC州北部)近郊の先住民だという。

・アートスクールを休学し、ハイダアーティストのもとに修行に来たと言う彼。ビーバーのマスクを見せてくれる。手で掘ったものとは思えないシンメトリーとディティール。木目調が美しい。「2020年から彫り出したんだ。まだ完成には遠いよ」

・ウェルネス・キャンプ最終日。次のセッションは13時半からだという。村の港近くに車を止め、少し仮眠する。このところ夜更かしし過ぎている。

・時間になりホールへ行くと、誰もいない。ジャンベ・ドラムのレッスンがあるはずだ。「急遽キャンセルになったの。今朝村で誰かが亡くなったらしくてね」

・ドラムセッションの代わりに、グリーフ・サポートのセッションに向かうことにする。円になり、おのおのの抱える悲しみをシェアするというセッション。島外から来た薬物・アルコール中毒のかたがたが集まったセッションには以前参加したが、この村の人々のセッションに参加するのは初めて。知り合いたちはどんな胸の内を明かすのだろうか。少し緊張する。

・それぞれが語る過去は決して明るいものではなかった。親から引き離されて寄宿校に入れさせられたこと、母親がアルコール中毒で大きなトラウマを抱えたこと、若くして兄妹・子供を亡くしたこと。この国の先住民が通り過ぎてきた過去は基本的に悲惨なものだと聞いていたが、それを友人たちの口から聞くのはなかなか辛かった。

・僕はなにを話せばいいのだろう?悩んだ末、英語を絞り出して伝える。ここに参加させてもらえて嬉しい、コミュニティに貢献したくてここに来た、僕であればなんでも助けになりたい、と。頷いて聞いてくれて嬉しい。

・二時間のセッションが終わった時、心の中にずっしりと重いものを感じる。

・閉会式とディナーも今日の故人へのリスペクトのためにキャンセルとなる。かわりに近くのレストランでフィッシュ・アンド・チップスのテイクアウトが出来るということで、ルイーズおばあちゃんと一緒にいく。「昔、スペインの探検団の船がハイダの若者を連れて、ハワイと日本に行ったと言う言い伝えがあるのよ」初耳すぎる。そんなことさらっと言わないでほしい。どういうことだろう?それ以上は語ってくれなかったので、自分で調べてみるしかなさそうだ。

・フィッシュ・アンド・チップスをふたつテイクアウトさせてもらい、家で同居人のタロンと食べる。彼は手術後三週間目にして、やっと満足に動けるようになってきたようだ。安心。


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