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「ゲド戦記」を初めて観た感想

 前々からいつか観ようと思って放置していた「ゲド戦記」を今更ながら初めて観たのです、宮崎吾郎監督作品はこれが初めての鑑賞となります。
 原作は読んだことがありませんので前知識は一切ありません、しかしながらこの映画の評判があまり芳しくないのはなんとなく知っているんです。
 ですが自分で観ないことには評価できませんからね、だから今回観たのですよ。

 先にざっくりとした感想を言っておくと,、超大作という題名のイメージに反してびっくりするほど中身が無い映画でした、父親の宮崎駿監督とは明らかに違う作風です。

 あまり褒められるポイントが無いのですが先に挙げていきましょう。


壮大なテーマ

 冒頭のシーンで竜が現れて共食いを始めます、次のシーンでは国王に家畜が大量死したり記録的な凶作になっていることが報告されるんです。
 世界規模の異変が起こっていることを強調する導入部です、この物語のスケールの大きさを感じて期待値が上がりましたね。

音楽はまあまあ

 なんというか壮大な感じのBGMが使われていましたね、ゲド戦記というタイトルにはふさわしいイメージかもしれません。
 印象に残ったのは挿入歌「テルーの唄」ですね、アカペラで歌われる物寂しいような歌なのですが、とても心に残りましたね。

ラスボスの悪者感

 今作のラスボス「クモ」はとても悪者感があって良かったですよ、不気味な雰囲気と部下に対する暴君のような振る舞い、そして目的が「永遠の命を得ること」という俗物感も最高です。

 さて褒められるのはここまでです、気になったところを挙げていきますよ!

主人公の奇行

 主人公アレンは国王の息子です、冒頭の会議の後に自室へ戻る国王を襲って刺殺してしまうのです!
 大変ショッキングなシーンです、民を想う賢君である国王を殺すからには余程の事情があるに違いありません!
 その事情を解き明かすのがこの映画の主題なのだろうと思っていたのですが最後まで特別な事情があったとはならなかったのです。
 主人公の分身(?)が語るところによると、アレンは普段は自信が無く大人しいが時折凶暴になったりする、らしいのです。
 え? それだけのこと? それで父親を殺したの?
 世界の異変の影響を受けたとも考えられますが、殺人が急増しているような描写はありません、これはやはりアレン個人の問題のようです。
 作中でも普段は碇シンジ君のようなうじうじモードなのですが、時々乱暴者に変貌するんです、これは多重人格者というやつなのでしょうか?
 まあどんな設定でも良いんですけど、観てる側にわかるようにしてほしいものですね、主人公が何を考えてるかわからないんじゃあ物語に入り込めないんですよ。

大賢人ハイタカの能力

 父王を殺害して逃げたアレンは狼の群れに襲われて苦境に陥ります、そこで登場するのが大賢人ハイタカです、魔法の力で軽く狼たちを退けて強者感を印象付けましたね。
 だけどハイタカが最強の魔法使いとして無双するかと思ったらそんなことはなかったのです、物語終盤に宿敵クモの居城に颯爽と乗り込むんですが、あっさりと捕まってしまうんです。そこから最後まで活躍することはありませんでした・・・。
 大賢人というのは賢いだけで戦闘能力は無いものなんですかねえ?

衝撃のラストバトル

 ハイタカが知り合いの夫人を助けるためにクモの居城に乗り込むところからエンディングまで一連のバトルが始まるわけなんですが、これが本当に無茶苦茶なんですよ。
 門の前で待ち受けるクモの手下たちをピョーンと飛び越えて城への侵入を果たすハイタカ、いきなりイージーな戦いですねえ。と言うよりクモの手下が少なくないですか? デカい城なのに守備兵が6人ぐらいではいくらなんでも盛り上がらないでしょう。
 宿敵クモと対峙したハイタカ、ここから因縁の戦いかと思ったら操られたアレンと戦うことになります、まあこういう展開もいいでしょう。
 と思っていたらアレンとの戦闘中にさっき飛び越したクモの手下に投げ縄で捕まっちゃいました。
 えー? やられるにしても雑魚キャラにやられるのー?

 処刑されそうなハイタカと夫人を助けるべく改心したアレンとテルーが駆け付けます。アレンがクモの手下たちを一蹴した後、物語序盤から抜くことが出来なかった父王の剣をついに抜き放つのです! 光る剣がライトセーバーみたいでカッコいいです。
 それでクモを一刀両断するのかと思ったら手傷を負わせるだけなんです、焦ったクモは変身してテルーをさらって逃げ出します。
 グダグダの追跡劇の後、クモを追い詰めるんですが足場が崩れてアレンがもがいている間にテルーは絞め殺されてしまいます、ああなんということでしょう。
 と思ったらテルーが突然竜に変身してクモを焼き殺して大団円です・・・・・・・・なんだそりゃ!?

 ・・・・・これはいったい何ですか? 私は何を見せられているのですか? そんな伏線どこかにありましたか?
 急展開にも程があるでしょう、マリオがピーチ姫を助けるためにクッパのところに行ったら、覚醒したピーチ姫がクッパを撲殺したようなものです。
 これを観て納得出来る人がどれぐらいいるんでしょうか、と言うよりもよくこの内容が企画会議で通りましたねえ、ジブリにはまともな感覚を持った人がいないんでしょうか。

起こる出来事が少なすぎる

 とにかく内容が薄すぎるんですよ、作中で起こった出来事は

・アレンが父王を刺殺
・ハイタカとの出会い
・街でテルーと出会う
・知り合いの夫人宅でホームステイ
・夫人がさらわれる
・ラストバトル

 これだけなんですよ、「ゲド戦記」という大仰なタイトルにしては寂しすぎるでしょう。
 アレンの内面についての描写も足りないし、大賢人たるハイタカの能力についてもっと描かないと、あれじゃあただのおじさんじゃないですか。
 ラスボスのクモとハイタカの因縁についてもセリフでちょっと触れるだけなんです、重要なところじゃないですか。
 アレンの分身がアレンの真実を語るシーンについても、小難しい設定をセリフだけで説明しようとするんです。ボソボソ声で解説するのはいいんですけど回想シーンみたいにして絵で説明してくださいよ、「悪の心が体を乗っ取った」みたいなことをいきなり言われても納得できないんですよ。

 そもそも無駄なシーンが多すぎるんですよ、街でのシーンにけっこうな尺を使ってますけど話の大筋に関係ないシーンばかりですよね。
 他に無駄なシーンの一例を挙げると、クモの手下がハイタカを探して夫人の家に来ます、ハイタカが不在なので「また来るぜ」と言ってあっさり帰るんです。その後クモに指示されて夫人をさらいに来るわけなんですが、それなら最初からさらえばいいじゃないですか。一旦帰って報告してまた来てという一連のシーンは全部いらない部分ですよ! 削れるところはどんどん削らないと映画の上映時間には限りがあるんですからね。

セリフが棒読み

 やはりこれにも触れなくてはならないでしょう、アレン・ハイタカ・クモの声についてはまあまあだったと思います、良くもないけど悪くもないと思いました。
 しかしながらヒロインのテルーは何なんですか! 「私は台本を読んでいます」という演技にしか思えません、彼女がしゃべるたびに雰囲気がぶち壊しですよ。
 プロの声優を使わないのは賛否があるでしょう、私はプロの声優を使ってほしい派ですが、俳優さんの中には上手い人もいます。クモの手下役の香川照之さんは良かったですね、今作のMVPだと思います。
 でもテルー役の手嶌葵さんは歌手でしょう? 演技の経験もない素人を主役級に抜擢するのはもはや狂気ですよ、ただ奇をてらうだけで名作が生まれるわけがありません、まともな判断ができる人がジブリにはいないのでしょうか。


 さて言いたいことを全部言おうとするときりがないのでここまでにして、採点にいきましょうか。

総合評価

・ストーリー 15点
 前述したように中身が無さすぎです、冒頭で言ってた世界の均衡とかはどうなったんですか? 最初に大風呂敷を広げたのに作中で起こったのは「悪い魔法使いが永遠の命を得ようとして失敗する」、これだけなんですよ。

・ビジュアル 40点
 作画そのものは悪くないと思いました、そこは腐ってもジブリですからね。
 でも人物はいいけど街やクモの居城などのデザインが地味なんですよ、基本的にロケーションが夫人宅・街・クモの居城の3つしか無いんですから、せめてクモの居城ぐらいはもっと印象的におどろおどろしい造形に出来なかったんですかねえ?

・音楽 50点
 これは前述しましたが悪くなかったですよ、特別良いとも思いませんでしたけどね。
 挿入歌「テルーの唄」は良かったですがエンディング曲はいまいち響きませんでした。

・キャラクター 10点
 主人公アレンに魅力が感じられません、情緒が不安定すぎてあまりお近づきになりたくないタイプとしか思えません。
 父親を殺したことに対する後悔を一切見せないのはどういうことなんでしょうか、これではただのサイコパスですよ。
 ヒロインのテルーはかわいそうな身の上なのはわかりますし、人嫌いになるのも理解できるんですが、吹き替えがすべてをぶち壊してしまいました。抑揚のない声で感情のこもらない言葉をしゃべる少女という印象です。
 それより竜になるというのはどういうことなんですかね? 人間と竜は別々の世界で生きてきたと冒頭に言ってたじゃないですか、設定を忘れてしまったんでしょうか?
 ラスボスのクモは良かったですが、ハイタカの大賢人としての凄さが描かれないのでただのおじさんと化しています、もうちょっと見せ場を作ってあげればいいのに。

・総合評価 20点
 ストーリーというか脚本がすべてなんでしょうねえ、原作を読んでませんからこの映画との違いがわからないんですが、ひとつの映像作品として観た後に全然スッキリしないんですよ。
 世界の均衡についても主人公の分身についてもどうなったのかわからないですし、ヒロインが竜になることについても説明がありません。
 エンディングで主人公が国に帰ろうとしていましたが、国王殺害の罪というのはどうなるんですかねえ? 多重人格による心神喪失で無罪という結論になるんでしょうか? まあどうでもいいですけどね。
 意外に思われるかもしれませんが鑑賞後の後味は悪くなかったです、面白い物語を見たという満足感は当然無いんですが一応ハッピーエンドですからね、それだけが救いでした。


 観た後の感想としては、巷の評価はもっともだなあという思いです。

 宮崎吾郎監督の作品を初めて観たわけですが、一作だけでは何とも判断しかねるところですね。デビュー作でゲド戦記のような大作を扱うことに無理があったような気もしますし、父親の宮崎駿監督作品のように思わせぶりな描写を散りばめて、さも深い意味があるかのように見せる手法を採らないのは好感が持てます。2作目の「コクリコ坂から」も観てみようかなあ。


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