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放射能に負けない強い気持ちで

3.11から半年ほど経った頃に、ライブで郡山に行った。
カネがないので、全員で1台のレンタカーに乗り込んでの車移動だった。

バンドメンバーは7人ほどいたのだが、正直まだ怖いっていう人は1人もいなかったからやはりバンドマンはアホなのかもしれない。

ライブ自体は何事もなく終わり、出番が早めだったので終わってすぐ飲む(終わる前から飲んではいたけど)。
イベント自体はまだまだ続き、何かを忘れたいがごとく朝まで騒ぎ続けるのだという。地元民も他の地方から来た者達もみんなキラキラギラギラしていた、好きな音楽を聞きに来ている人達っていうのは本当にいい顔をするし美味そうに酒を飲むのでとても居心地が良い。

ライブ後に入った居酒屋で少しだけ地元のおじさんと話した。
「うぢはよぉ〜カミさんが放射能怖ぇすけって1人で出でいってまって娘ど二人暮らしだ」
丸顔のがっしりした体型で無精髭、作業服。40歳前後だろう。酔いと上気で顔が真っ赤になっているのがよく似合う。
「娘はよぉ〜、転校したぐねっていうがら家にいんのよ。おらが毎日部屋の拭き掃除してんだ、拭けば線量ちょっと下がるがら」
原発付近の除染作業が始まっていたとはいえ2011年9月頃はまだまだ線量が高く、高速道路の線量計だとか街中の線量計だとかの数値に驚いた。

当時俺の住んでいた埼玉県某所もホットスポットと言われる「まとまった放射性物質が風で遠隔地に運ばれて着地した」感じの所となっていて、当時は花粉だかなんだかわからない粉が車やバイクに積もっていたものだった。
少し不安だった俺はガイガーカウンターを買い色々と計測してみたが、部屋の中はホットではなかった。
植え込みだったり、マンションの排水溝みたいなところは雨で流されない物質が溜まっていたのだろう、ざっと部屋の中の10倍程度の数値が出た。

おじさんは除染の仕事に従事しており、毎日毎日大変だと言う。
「おらだぢは5次受けでよ、大した金にもならねんだ。でもやる人いねがらやるけどさ。誰が責任とってけんのがって。取らねべ。おらどがやるしかねんだよ。 補償金もらえだ人だぢはみーんな外車のったりして県外さ出でいってしまったしよ。1次受けの会社なんかゼネコンみたいな大きい会社だけど現場来たごと1回もねーぞ」
返す言葉もなかった。
「復興復興て、何が復興なんだって。現場来たごどねーやつが復興計画してんだべ。」


俺の実家の方は幸い大した被害もなかったので、被災者の当事者意識というのは正直なかった。今でも胸を張って「ある」とは言えないが、その居酒屋で被災者と話したことで認識は変わったのだと思う。これは福島の問題じゃなくて、世界の問題なんだった。


1泊して次の日、せっかくだからとJビレッジと海沿いに足を伸ばした。
その時はJビレッジには立ち入ることはできず、入り口手前で南下しいわき市方面へ。
たしかいわき市内だったかと思うが、リーダーの指示で海岸へと車を向ける。

「ちょっと降りてみようか」

ガレキは無かったものの、基礎だけになった「元」住宅地、鉄筋だけになった工場などが海岸線に沿って見渡す限り続いている。
少し周辺を歩いてみるが人っ子ひとり遭遇しない。
しばらく絶句したまま、海を眺める。

「実際見るまでわかんないもんだな、これ復興とか言って只事じゃないぞ。みんなでやってかないと。」
リーダーが独り言のように呟く。

俺は基礎の上の残った風呂のタイルと蛇口を見てもうたまらなくなり、都会での自堕落で放埒な生活を恥じた。

果たして、俺に何かできるんだろうか。

全然どうしたらよくわからないまま帰路につき、通りかかった定食屋でモツ煮定食360円をいただく。
除染作業の作業員で賑わっているようだったが、除染作業事業が終わってしまったら働いているオバチャンたちはどうなるんだろう。
「ごちそうさん、また来るね」
再度来る予定は無いが、来れるようにと願いながら定食屋を出て車へ。

地方に行ったら車内では地元のラジオ局を流すのがセオリー、車内には地元局のニュースが流れる。
「本日市民マラソン大会が開催されました。大会初頭、復興への願いをこめて代表の小学生が選手宣誓を行いました。」
アナウンサーの後に続きその様子の録音が流れる、ありきたりの定型文の後

『僕たち、私たちは 放射能に負けない強い気持ちで 頑張ります』
と選手宣誓が締め括られる。


言ってんのか、言わされてんのか。


福島の子達には俺らは何か言えるのか、例えば会えたとして、関わる機会を得たとして、大人として何をすべきかしないべきか、未だに正解ぽいことはわからん。

まあたしかに気持ちで負けたらいけないよっていうのはそうかもしらんね。
放射能に負けてる大人達を沢山見てきた今はそう思う。


地震、事故から10年経過したけども下記ニュースのような事に関してはきちんとした検証はいまのところなされる様子はない。
現状のCovid騒動をみても、これからも検証は難しいのだろうなと思うが被災地に不利益を押し込めるのはあってはならないよなと思います。


こういう情報も真偽いろいろ入り混じってるので多角的に見て鵜呑みにしないようにしないといけないけど、頭のいい専門家も正反対のこといってたりするので一般人はどうすればいいんでしょうね。勉強するしかないか。

2010年9月の福島上空


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