想像だけで"ブルスケッタ"を作る
みなさんは「ブルスケッタ」という料理を知っていますか?
そうです、アレです。なんかヨーロッパ圏?の料理でお祝いのときに家族みんなで食べるとその日から1年が良い感じのアレになるとされているらしい料理……
すみません、知りません
私はブルスケッタを知らない
あいみょんが私を見たら「君はブルスケッタを知らない」という曲を書き下ろしているレベルで私はブルスケッタを知らない
【参考】君はロックを聴かない/あいみょん
そうだ、ブルスケッタを「勘で」作ってみよう
私はさっそくブルスケッタを勘で作る準備を始めました。
1.ブルスケッタを想像する
まずは、「ブルスケッタ」という言葉の意味合いからヒントを探っていきたいと思います。
手始めに「ブル」だけの意味を調べてみます。食材のヒントが出てくるはずです。
(「ブル 意味」でGoogle検索する様子)
出てきました。「上げ相場。また上げ相場であると読んで強気で臨むこと」と一番上に出てきます。あれっ……
「雄牛(bull)」!!!!!!!
少しルール違反をしたような気持ちです。ブルスケッタは完全に「牛」を使った料理であるということがこの検索によって分かってしまいました。
検索してヒントを得てしまった私は少し反省しながらも、残りの「スケッタ」部分は自力で考えることにします。
以下、私の苦悩の様子をご覧ください
(透けている田とは?)
"助けて"というメッセージが込められている…
もしかして
牛肉をめちゃめちゃにするやつでは?
この料理は、牛が「助けてほしい」と思うくらいめちゃめちゃなことになる料理なのではないでしょうか。
めちゃめちゃになるでお馴染みの料理といえば…もうお分かりですね。
"なめろう"です
(「来世生まれ変わりたくない料理第1位」ことなめろう)
なめろうとは、魚などの肉を包丁で「なんか恨みでもある?」というくらい粉々に切り刻んで提供される料理です。
そうか、すべて分かったぞ……
ブルスケッタは、牛肉のなめろうだ!
(ダァーーーン!)
ただちょっと待ってください。
生肉をアレするのは法律に反しているということをインターネットで見たような気がします。
そうなったら…「なめろうにしたのちに、カリカリに焼く」というのはどうでしょうか?
死ぬほど火を入れてしまえば、警察も何も口出しはできないはず。
法さえ守れば誰にも文句は言われない。それが人間界のやり方です。
というわけで、私が想像したブルスケッタはこちらです。
法におびえながら作る料理は最高だぜ!
2.ブルスケッタを作ろう
想像できたところで、実際にブルスケッタを作っていきます。
【ブルスケッタ作りで用意するもの】
・牛肉
・刻みねぎ
・にんにくチューブ、しょうがチューブ
・味噌
※牛肉を『鯵』や『鰯』に変えると普通のなめろうができます
①牛肉を木っ端みじんにします。
(私が牛肉だったらキレている無惨なビジュアル)
②肉と薬味をすべて混ぜ合わせ、一口大に丸めます。
③ごま油をひいたフライパンに乗せ、中火でしっかりと焼き上げます。
④完成
生焼けにしたら捕まるという想いが強すぎて少し焦がしてしまいましたが、おかげで完全に"合法"と言えるブルスケッタが焼きあがりました。
姉に写真を送ったところ、以下のようなリアクションが返ってきました。
・・・こうなったら・・・味で勝負じゃい!!!!
3.プロに味を見てもらう
見た目こそ"スランプに陥った土井善晴が壁に投げつけたハンバーグ"みたいになってしまいましたが料理にとって一番大切なのは味。
味さえ『食のプロ』に認めてもらえれば、今日からこれをブルスケッタと呼ぶことにしても許されるのではないでしょうか(許されますか?)
というわけで、さっそくプロに試食してもらいに行くことにします。
私がプロに会いに向かったのは……
嘘みたいな話で恐縮ですが、私の父は現役の料理人をしております。
某有名ホテルで料理長をしていた経験もあるガチシェフなのです。育ちが良くてすみません。
緊張しながらも、LINEで父に趣旨を説明。
寛容~!
日本一寛容なシェフから合意を得られたところで、作ったブルスケッタをタッパーに詰め込んで実家へ帰省しました。
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私「今日はお時間いただきありがとうございます。ちなみに『ブルスケッタ』を作ったことってある?」
父「あるよ。過去に200種類は作ったと思う」
200種類……??????????
私の頭の中には無限のハテナマークが浮かびました。ブルスケッタにそんな伸びしろあった?
困惑する私を置き去りにして、父の説明は続きます。
父「クロスティーニって言うこともあって、女性にはクロスティーニ、男性にはブルスケッタって分けてたときもあったな」
クロスティーニ・・・???????
理解が追いつかなすぎて脳が宇宙になってしまいました。
父「じゃあ早速食べてみようか」
父がタッパーから普通のお皿に盛りつけます。プロが盛るだけで心なしかオシャレに見えてくるのが不思議です。
(それはまるで店頭に展示されているおしゃれな靴のよう)
緊張感が漂う中、父がブルスケッタを口に運ぶのを見届けます。
少しの沈黙のあと、父が口を開きました。
父「・・・・・・・つまみに最適だね」
父「味噌が効いてる」
幾多の料理を作ってきたプロが「つまみに最適だね」「味噌が効いている」と認めた料理、それがブルスケッタ――。モンドセレクション金賞受賞と同等の重みの言葉をもらってしまいました。私が今後ブルスケッティストとして実績を積んで名を馳せていく未来が完全に見えた瞬間です。
用意したブルスケッタをぺろりと平らげたシェフ(その後、ちゃんとした寿司を食べて口を整えていました)
最後に、肝心のこの質問をさせていただきました。
私「ズバリ、このブルスケッタは本物とどのくらい近いですか?」
父「このままの状態だと2%かな」
父「というか、なめろうを焼いた料理で"さんが焼き"っていうのがあるよ」
!?
急いでインターネットで調べる私。
ブルスケッタじゃん……
私が想像で作ったブルスケッタは実は別の料理として正式に確立されているやつだったという衝撃的な事実が発覚したのです。
これはまさに、俺(※1)がお前(※2)で、お前(※2)が俺(※1)で状態―――。
(※1)…ブルスケッタ (※2)…さんが焼き
4.ブルスケッタとの対峙、そして葛藤
本物のブルスケッタとの親和性が2%だということが分かったうえ、気づかないうちに完全に別の料理を作っていたという衝撃を抱えながら帰宅した私は、「これはいよいよ本物のブルスケッタを知るフェーズに入るべきなのでは」とおもむろにインターネットを開いたのです。
検索ボタンを押す寸前で、私はふと手を止めました。
ブルスケッタとはこんなに簡単に知っていい存在なのだろうか?
四六時中ブルスケッタのことを考え続けた日々に思いを馳せました。
たまたま入ったお店のメニューの片隅にあった「ブルスケッタ」。疑問を感じたその場で、親指一つで検索してしまえば、どんな料理なのか答えはすぐにわかりました。
でもそこで検索せず「なんなんだろう」と想像し続けた結果、自らが創作するという行動が生まれた。私のブルスケッタへの情熱も、「さんが焼き」を知ったときの衝撃も、検索してしまえば生まれなかった感情だった。
なんでもインターネットで検索できる時代。
そんな時代だからこそ、イマジネーションを膨らませ、まだ見ぬ景色に思いを馳せる。そんな時間を慈しむべきなのではないでしょうか。
私は、そっとパソコンの電源を落としました。
私は「知らないまま」でいい。
いつか偶然に、本物のブルスケッタに会える、その日まで―――
おわり
ありがとうイン・ザ・スカイ