空飛ぶストレート（ショートショートnote杯応募⑤）

何かが始まる予感がする！
彼は文字通り白馬に乗ってお店にやってくると、
赤いマントを翻し、何の迷いもなく一番奥のVIP席に座った。
緩くパーマのかかった栗色の髪、碧い瞳、透き通るような白い肌。
子どもの頃から思い描いていた王子様そのものだわ。
彼は店内を見渡すと、大勢のウエイトレスの中から、
他でもない私に手招きをしてオーダーを入れた。
その深みのあるバリトンときたら…
耳元で「愛している」と言われたら昇天してしまうかも♡

そう、これは運命よ！
けさ、テレビの星占いでも言っていたもの。
「乙女座のあなた。素敵な男性と出会いがあるかも」って。
だからお化粧は念入りにしたし、珍しくハイヒールも履いてきた。

さぁ、勇気を出して、今から王子様の席に向かおう。
あと１０ｍ、５ｍ…彼が気付いて微笑みかけてくれたわ！

＜グキッ‼＞

いたたたた…慣れないヒールで転んじゃった…
いやだっ⁉お盆に載せていた淹れたてのストレートコーヒーが、彼めがけて飛んでいく‼

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