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【ツノがある東館】のお題で、一行目で惹きつけるショートショート

その都市は大きな動く館でできていた。館は敵が攻めてくると門を閉じ、「三十六計逃げるにしかず」と嘯いて逃げ出した。そして安全な地をみつけると、そこに腰を落ち着けるのだ。市民は自分の身を守ってくれる館を「お館様」と呼び、感謝の念を込めピカピカに磨き上げた。

綺麗で安全な都市には人・金・物が集まる。気付けば人が溢れ、館に入りきれなくなっていた。市民集会では「移民を排除しろ」との意見もあったが、お節介おばさんの「お館様に嫁を娶らせれば」の一言が支持を受け、あれよあれよと話が進み、祝言の日を迎えた。

花嫁は白壁が美しい城だ。白無垢姿の花嫁を前にお館様はいつになく緊張した表情で、貧乏ゆすりをしたり、三々九度でむせ返ったり。市民は笑いが止まらない。花嫁の城もコロコロと鈴のように笑う。その様子を見て「綺麗な嫁だ」「三国一の花嫁だ」と皆が口々に褒めそやす。

でも、お館様は知っている。新たに東館となる花嫁の角隠しの下に、大きな尖塔が、まるでツノのようにそびえ立っていることを。

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