業界の実態にあった法整備を

1.  経済の意味は「世をおさめ、民をすくう」という経世済民という語からきていると言われる。つまり人の幸せのためというのが根本にある。

なので競争こそが社会を豊かにする。規制は悪だという自由競争原理も上手く機能すれば経世済民につながる。

この発想が元になり独占禁止法(以下独禁法)が制定されている。

2.  しかし、この原理がかつての警備業界みたいな不毛な価格競争状態を導くのであれば本末転倒である。

これについて独禁法上も「正当な理由なしに、原価を著しく下回るような安い価格で、商品などを継続して供給し、他の事業者を困難にさせるおそれを生じさせる」不当廉売を2条9項3号で禁じている。

この原価は警備の場合、ざっくりいえば警備員の人件費ということになるだろう。

人の命を削る安売りを誘発する行為は法律上でも許されていないということ。

3.  しかし、最近、都市部だけでなく地方でも少しずつ警備料金が上がってきた。

その原因はおそらく警備仕事に対する需要の増加というよりは、人手不足による供給不足にあることは前にのべた通り。

なので今は逆に人材獲得競争のフェーズに入っており、各社とも数少ない警備員を巡って奪い合いの状況になってきた。

警備員にとっては、状況は少し改善されたが、警備会社にとっては相変わらず厳しい状況だ。現に人手が集まらず廃業する業者も増えてきている。

4.  もちろん、人をどう集めるかは企業努力の問題だ。自社もそのためにいくつか手を打ってきたし、今もあることを企画中なので近いうち皆様にお伝えできるように今全力を尽くしている。

でも、警備という仕事はお客様、ひいては地域の方々の安全・安心をお守りするという半公的な仕事なのに、こんな競争ばかりの不安定な状況ではたして警備会社としての本分が全う出来るのか甚だ疑問だ。

やはり、警備の場合は、民間の努力+何らかの公的なサポートが必要になってくると思う。

なんらかの形で業者間で足並みを揃えて価格や人件費の無限の値上がりの調整ができる仕組みが必要なように思える。

ただ、そんなことをすれば、場合によっては、事業者または業界団体の構成事業者が相互に連絡を取り合い、本来、各事業者が自主的に決める商品の価格や販売・生産数量等を共同で取り決めるカルテルにあたり、独禁法2条6項に抵触する恐れがある。

5.  やはり独禁法上の枠で解決するのは厳しくといえるので、国や自治体で警備員の適性比率の維持を含む最低価格維持制度なるものを設定してもらい、それを制度として独禁法上の特別法という形で法制化してもらうのが妥当ではないかと思う。

業界によっては自由競争に適さないものもある。そんな場合にまで独禁法上の考え方を例外なく押し付けるやり方は冒頭で述べた経世済民の考え方に反するのではないかと思うのである。

経世済民は消費者だけでなく、生産者や社会にかかわるすべての人のことをいうのだから。


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