初心忘れるべからず!

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昨日、荻原浩の直木賞受賞作「海の見える理髪店」を読んだ。

さすが、直木賞受賞作だけあって、文章の妙を感じさせる良作だった。

読者が当初イメージしていた登場人物達の位置付けを言葉の使い方一つで覆して最後に全体像を見せるやり方は歌野晶午著「葉桜の季節に君を思うということ」に近いと思う。

そしてこの作品は老理容師の山あり谷ありの人生の独白がその巧みさによって、大切なものを思う優しさに転嫁する感じが絶妙で読者をハートウォーミングな気持ちにさせてくれる。

でもそれを具体的に述べるとこれから読もうと思っている方々に失礼なのでここでは書かない。

興味のある方は書店で買うなり、図書館で借りるなりして実際に読んでみる事を是非お勧めする。

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この作品で個人的に印象的だったのは理容師のおじさんのいうように社訓ではなく初心を大切にという旨のセリフ。

初心でありつづけることの難しさと謙虚であることの大切さだと思う。

初めは純粋な気持ちで始めてすることそのものが楽しくても、いつしか、周りの評価にのぼせてしまい、勘違いしてしまう。

現実の厳しさ、周りの賞賛とバッシング、組織の自己目的化、一部の従業員との確執、そういった要素に振り回されてしまい、手段が当初の目的を飲み込んでしまう。
そうなると、順調な人生が一転、停滞・解体の方向に進んでしまう。

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我が社の目的は一言でいっていい仕事をする警備職人を育成して、警備の人がいるから助かるわとお客様や地域のみなさんに評価していただくこと。

そして経営者である自分はそんな警備職人が育つ環境を作っていくこと。

でもこの思いを貫くのはほんとに厳しい。

人のコストの上昇による教育にあてる資金確保の困難さ、警備料金が仕事ぶりよりお金の安さに流れるお客様の多さ、警備員自身の自己管理の問題。

思わず、会社を守るために易きに流される誘惑にかられ、実際に流される時もある。

でも、その中でも曲がりながらでも初心を貫きたい。

そのためには、目的を達成するということは具体的にどういったことか、それを達成するために自分の足りているところ、足りないところは何なのか、それらをよりよくし、改善していくためにどうすればよいかを現実に即して素直に見つめる謙虚さが必要なのではないか。

そんなことをこの作品を読みながら考えた昨日だった。

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