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年下の元カレの話①

年下の元カレの話がしたい。

彼、吉田君と付き合ったのはたった三か月だった。

しかし、私が出会った中でも特別な存在なのでここに書きたいと思う。

出会いは趣味の集まりで、私のひとめぼれだった。

好きなのは伝わっていたと思う。

彼のことをよく見ていたし、彼としゃべれるように努力した。
何より彼と居るときの私の笑顔は特別なものだった。

だが別に付き合うつもりはなかった。

好意は見せてはいるが一切進展させないつもりだった。

私はちょうどその前の彼氏と別れた直後で、当分恋愛すると思っていなかったので吉田君から告白されたときは慄いた。

「好きです」

彼の車の中で家まで送ってもらっている途中、コンビニの前の駐車場で目を見つめながら言われた。

「え」

吉田君は人の目を見て話す人だ。

「好きです。付き合ってください」

「ちょっと待って、私の元カレ知ってるやんな」

「いいです。気にしませんから」

元カレは吉田君とも面識があり同じ趣味を楽しむ仲間だった。

気まずくなるのではないかと心配した。

「ずっとかわいいと思ってました」

「おお、まじか」

年下の男の子からこんなこと言われたらとても良い気持ちになるに決まっている。

しかも好きな人なら尚更顔がにやけてしまう。

彼からにやけた顔をそらして、

付き合うのはなあ、と私は言った。

君は若いし、そんなノリで付き合うのもな。

「なんでそんなこと言うんですか」

「俺のこと好きでしょ」

「何がだめなんですか」

ああかわいい。

「そりゃ、好きやけどね」

「じゃあ付き合いましょう」

「押すなあ」

「だめですか」

ああかわいい

「そういやずっと敬語やん」

「年上の人にタメって難しいんですよね」

「ふうん、ちょっとタメで話してみてよ」

「無茶振りしますね」

「なあ、私まあまあ年上やで」

「あんまり年上やと思ったことないですよ」

「なんやと」

「俺のほうが年上感あるでしょ」

嘘やろ、そう言って私は笑った。

吉田君と話すのはとても楽しくて、ついついずっとしゃべってしまう。

付き合ったら楽しいんだろうな。

落ち着いた人、どちらかと言えば寡黙な人との恋愛が多かったから、この人と付き合ったらどうなるんだろうかと興味がわいた。

正直に言えば好みのタイプではない。見た目も若い子から好かれそうな顔をしていて、はじめは話すのにも気が引けた。吉田君じゃなかったらあまり仲良くもならなかっただろう。

せっかちで行動力があって、常に動き回っているような人だ。

優しいが口が悪くて、面倒見はいいが我が強い。

男友達が多い。よく年下の男の子をいじっては可愛がっている。

声が大きくてよく通る人。

結局付き合った。

「めっちゃうれしい」

「そっかあ」

「そうでーす」

吉田君は車の運転がとても上手だ。

自分が酔うからめっちゃ気を使います。

何なら自分の運転でも酔うんですよね。

「運転上手やなって初めて車乗った時思ったよ」

「そうですかあ」

そう言ってニコニコしていた。

これから三か月間何度も何度も車で送ってくれることになる。

彼はいつだって私を家まで送り届けてくれる人だった

尽くしすぎちゃうんですよね。

やりすぎて、それが当たり前になって、悲しくなったりとか。

そう言っていた。

ありがとうと、ごめんなさいをきちんといえる人が好きです。

「ふうん、気を付けるよ」

「いやいや、全然大丈夫です。でも慣れって怖いから」

「ちゃんと言うようにするね。送ってくれてありがとう」

「言わせてるみたいですみません。でも当たり前ですよ。絶対送りますから」

「そうやって絶対とか言ってるとしんどくなるで」

「ならないです」

「また明日ね」

次の日は複数人で趣味の集まりを予定していた。

付き合うことはまだ秘密にしていようね。

「わかりました」

じゃあね。そう言って車を降りようとしたら、彼が助手席に近づいてきてキスをした。

あっ、やっぱ楽しいじゃん。
そう思った自分の単純さに笑ってしまった。