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年下の元カレのはなし②
「デートをしましょう」
吉田くんからLINEがきた。
「いいよ」
そういうわけで、いよいよ私たちは次の日曜に初めてデートをすることになった。
待ち合わせ場所に彼は先に着いていた。
私が吉田くんの車に近づくと、すかさず運転席から降りて笑顔で私に向かって両手を差し出した。彼は大きな犬みたいに目をキラキラさせながら私を見つめていた。
「なに」
「荷物」
彼の後ろに尻尾が見えて思わず笑ってしまった。
カバンを差し出すとそれを受け取って、後部座席に置いた。
そして私のために助手席のドアを開けてくれた。
「ありがとう」
お姫様かよ。
こんなこと毎回するつもりなのかな。これをしてくれなくなるタイミングがいつになるだろうかと予想しては、その時に襲いかかる寂しさを和らげようと予防した。
「どこに行くとかも決めなかったね」
「映画行きたいっていってませんでしたっけ。それかドライブでもいいし」
「映画行きたい。でもシリーズ物の途中だから知らないんだったら面白くないと思うよ」
「全然平気です。想像しながら補うんで。想像力豊なんで」
「まじか」
そういって彼はナビの設定をして目的地を手際良く探していた。
「若いのにいい車乗ってるよなあ」
車は詳しくないので何がいいのかはあまり分からないが、大きくていいナビ載せてて高いんだろうとは予想した。
「いずれ買うものやし資産になるでしょ。それにこの趣味続ける限り車は必須やから」
「それもそうね」
私は車の免許も持っていないので、毎回誰かに乗せてもらっていた。だから今後趣味で出かける時は彼に連れて行ってもらえるんだって思うと楽しみだった。
「ドライブデート憧れやってんな」
私は言った。特に君とドライブデートするのはとても憧れていたよ、とまでは言わなかった。
「今までしてこなかったんですか」
「あんましてないね」
「これからいっぱいしよ、いっぱい連れて行く」
嬉しいなあ、そう言って私は窓の外を眺めた。
彼は友達といる時はもっと騒いでいたし、年相応にはしゃぎまわっている印象だったが、私の横に座っているこの人はどこか落ち着いていて安心感があった。
「長男っぽいよね」
「なんで分かったんですか」
「分かるよ、分かりやすいよ」
「お兄ちゃんっぽくないってよく言われるんです」
「それは多分かなり年齢が下やからっていうのと、」
「と?」
「キャラの問題じゃない?」
「それは思います」
年上にはいじられキャラで通っているからだ。
「いじられキャラは楽やからな」
楽しそうにいじられるし、場を盛り上げるのがとても上手い。
無言の空間とかどうしたらいいか分からん。
落ち着かんから喋っちゃう。
会話しようと思えばいくらでも話題は出せるからずっと場を持たせようとしてしまう。
前みんなで出掛けた時にそう言っていたのを思い出した。
無神経に見えて、人一倍気を使うタイプだし、人のことをよく見ている。そして面倒見の良さと、責任感の強さ、小さな約束を守るところ、人の言ったことをよく覚えている、これは純粋に記憶力が良いんだと本人が言っていた。
「記憶力が良すぎて損してると思う」
そうだろうな、と思った。
「みんな案外適当だし、何も考えていないことの方が多いからね」
「そうですね、あと感が良すぎて困ります」
私は笑った。
彼の過去の恋愛について聞きたいと思った。
彼女相手にも気を遣って話してるのかと思ったけど、ドライブ中はゆったりとした時間だけがすぎていた。
彼の家にいるダックスフントの話、以前行ったパン屋さんの話、ルービックキューブの話、ガチャガチャの話、どの話一つとってもこのノートの記事1枚分になりそうなくらい興味深くて楽しい内容だった。
しかし別に山場があったりオチがあったり、うわっと盛り上がるわけでもなく、ゆるゆる喋って、少し黙って、また笑って、まるで自分の部屋で家に出る準備をしながら話しているかのように穏やかな会話だった。
「吉田くんはおじいちゃんみたいやね」
「それは言い過ぎでしょ」
「じゃあなんやろ」
「せめておっさんで」
「おっさんはいいんか」
「俺の方が年上っぽいしな」
「そこ強調するね」
そういうところ年下っぽくてかわいいんだよな。
その日は夜の11時には家に送り届けてくれた。
「今日も可愛かったです」
「ありがとう」
そういって車の中でキスをした。
私は帰りたくないなって思った自分に驚きながら、笑顔でばいばいした。