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千羽鶴の不思議な夜

この間、夜、疲れ果てて下を向きながら新宿西口を歩いていると、目の前に小さい紙を渡された。

前も見ずに受け取ると、おばあさんだった。

こんな夜遅くに何してるんだと思ってヘッドホンを外すと、宗教系のお方だった。

僕は疲れていたこともあって小さな紙を返して帰ろうかと思った。けど同時にちょっとだけこんな冬の夜遅くにするまでなのか?と興味があった。

ほぼ意識ない状態でぼーっと聞いていると、この小さい紙で鶴を折って欲しいとのことだった。


よく見ると後ろにはビニールシートを敷いてあり、千羽には達していない鶴が置いてある。

今は冬。ポッケから両手を出すのもしんどい。

けどもう正直後戻りできない。
「鶴を折るなら大丈夫です」だなんて言えない。

しかも僕は鶴を折ったことがない。

「鶴を折ったことないんですけど...」
というと、
「言う通りにして!」とグイッと距離を縮められ、早速、終電間近の鶴教室がスタートした。


普通の折り紙だったらありがたいけど、本当に紙が小さいし、手も悴んでる。
「ここをこんな感じで折って!」
「できました」
「ちょっと折り方違うね、でも惜しいよ!」

なんだかポジティブに教えてもらいながら、僕の手を掴みながら教えてくれる。

時間はかかってしまったが、鶴が完成した。

もう終わりかなと思い、ちょっと帰る雰囲気を出す。

「それでね、この鶴はあの被災した方々に送るの!これは政府は何もしてくれないから、私たちが一致団結して協力して支えなければならないの!地道な作業が必要なの!それでね、〜〜〜〜」

話は続く。
素直な気持ちで聞きたいが、やっぱりちょっと変な目で見てしまう自分もいる。

「〜〜〜〜!それでね、これは団体とかではなくて、何かできないことはないかを考えて今行っているの!みんなが忘れていってしまうけれど、今も苦しんでる人がいるの!〜〜〜〜」

そうか、団体とかで活動していないんだ。
おばさま1人で気合い入れてやってるんだ。すげー。
と思った。

「〜〜〜〜!それでね、これを受け取って欲しいの!これは今世界で何が起きているのかを書いてあるから帰ったらでいいからぜひ読んで欲しいの!〜〜〜〜」

冊子を2冊ほど受け取る。

「それでね、明日、〇〇駅の近くで集会が行われるの!あなたももしよかったら来てくれない?!タメになるし、より今のことが詳しく知れるから!それでね、〜〜〜〜」

なんやねん。団体やんけ。
と思った。

「いけません。用事があって。」

「そうだよね!急だよね!来週の日曜日も午前中にやってるからもし良ければ来てね!来た方がいいと思う!」

「いけたら行きます。ありがとうございます。」

「うん!待ってるね!それでね、〜〜〜〜」

終電間近ということもあり、僕がかなりソワソワし出した。
急がなきゃ。

「〜〜〜〜!それでね、さっきの本をね、作るのに〇〇円かかっているの!もしよければお気持ち程度のお金いただける!?」

最後の最後にこういう感じで来るんだ。
と思った。
別に渡すつもりはないし、運悪く本当に財布も家に忘れて困っていた。

「今日家に財布忘れてないんですよ。すみません。」

「いいのよ!小銭でもいいよ!お気持ち程度でいいから!」

「paypay使えますか?」

「使えないよ!使えそうに見える!?スマートフォンも持ってないんだよ!」

「すみません。」

ここでおばあさんとバイバイして、ヘッドホンを装着して、残り5分で発車する終電に小走りで向かった。

改札の付近にいる人たちはみんな少しだけ急いでいる。いつもよりも早く歩いてるんだろうな、くらいの速さで歩いている。

今日も一日お疲れ様!と心の中で言いながら歩いていると、改札まであと10mくらいの場所で急に後ろから肩をまあまあ強く叩かれた。

びっくりしながら振り返る。

「それでね、これを渡し忘れていたの!これが一番大事だから!家に帰ったら絶対に読んでね!これを読んだら今世界で何が起きているかわかるから!」

「ありがとうございます。」


不思議な夜は能動的に作れるものでもあるな、と思った。



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