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糖尿病と栄養不足

もしも健診で血糖やHbA1cの数値が危ないレベルに近づいてきたら、ぜひ一度、下記の栄養素を摂って経過を観察してみて下さい。いずれも糖の代謝に関連しているので、もしかするとこれらの栄養素のうちのどれかが不足しているが故に血糖値が上昇しているのかもしれません。


カリウム

グルコースが細胞内に取り込まれる際にインスリンとともに必要。

『忙しい人のための代謝学』より

カリウムを多く含む食品
煮干し・トマトジュース・アボガド・ジャガイモ・バナナ・ほうれんそう・納豆


マグネシウム

マグネシウムは糖代謝において数種類の酵素の補因子になっています。また、動物実験ではマグネシウムが欠乏するとインスリン受容体の自己リン酸化が阻害されてインスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなった状態)を惹きおこすことが知られていますが、日本人を対象に1,999人を21年間追跡調査した結果でも、2型糖尿病の発症率はマグネシウムの摂取量の上昇とともに有意に低下したという結果が出ているので、ヒトでも同様の仕組みになっているようです。日本人がマグネシウムを多く含む雑穀を食べなくなった頃と、塩の製法が変わってマグネシウムが主成分であるニガリが取り除かれるようになったのがほぼ同じ時期なのですが、そのときから糖尿病や高血圧が日本において増えはじめたという横田先生の指摘は正鵠を射ているように思います。

『マグネシウム健康読本』より

インスリンに対するマグネシウムの働き

  • インスリンとインスリン受容体(αサブユニット)とを結合しやすくする

  • インスリン受容体(βサブユニット)からグルコーストランスポーターへのシグナルを出しやすくする

  • グルコーストランスポーターの細胞膜への移動を助ける作用がある


マグネシウムを多く含む食品
アーモンド・煮干し・大豆・落花生・ひじき・納豆・牡蠣・ほうれんそう



亜鉛

インスリンが分泌される場所である膵臓のランゲルハンス島β細胞に大量に含まれています。インスリンの分泌には結晶化が必要であり、結晶を形成するためには亜鉛の存在が不可欠です。またインスリンの分泌のみならず、インスリン抵抗性にも影響を与えているとの報告もあります。上でマグネシウムが不足するとインスリン受容体のリン酸化が阻害されてインスリンが効きにくくなると書きましたが、亜鉛はこの脱リン酸化に関与する酵素の活性を阻害することによって、インスリン受容体のシグナルを増強して血糖を下げるようです。さらに最近の研究では、膵臓のβ細胞からインスリンとともに分泌される亜鉛イオンが、肝臓でのインスリンの分解を抑制する信号として働き、末梢組織へと向かう血液中のインスリンレベルを高める効果があることがわかっています。

日衛誌 (Jpn. J. Hyg.),69 『亜鉛と糖尿病』より 

図中のZnT8が亜鉛を運ぶトランスポーターで、Zn2+が亜鉛イオンを表しています。下の方がこの亜鉛トランスポーター8を働かないようにしたマウス。わかりにくいかもしれませんが、亜鉛イオンが分泌されないと全身でのインスリンの働きは低下しているのにも関わらず、膵臓β細胞からのインスリンの分泌は正常マウスよりも増えています。このような状態が続くと、β細胞に慢性的なインスリン分泌負荷がかかかるために膵臓が疲弊し、その結果糖尿病が発症するのではないかと考えられています。


亜鉛を多く含む食品
牡蠣・煮干し・肉類・ホタテ・カシューナッツ・たらこ・アーモンド


クロム

インスリンとともに糖質の代謝に働きます。インスリンの働きをよくするGTF(Glucose Tolerance Factor 耐糖因子 )の成分です。ヒトでもラットでも、グルコースを投与すると血中グルコース量の増加とともに血中クロム量も増加し、グルコース量が減少すると血中クロム量も減少します。しかしながら糖尿病患者ではグルコースを投与してもクロム量の増加が見られないことから、糖尿病では組織内クロム貯蔵量が欠乏しているのではないかと考えられています。

クロムを多く含む食品
煮干し・青のり・ヒジキ・小豆・調味料・香辛料(バジル粉・山椒・胡椒・シナモン粉)


リコピン

トマトに含まれているカロテノイド。抗酸化物質として有名なβカロテンの仲間ですが、この栄養素を多く含むトマトジュースを一年にわたり高血糖の被験者に飲んでもらうという研究がありました。結果は平均7.9%あったHbA1cは摂取後一年で平均6.8%まで下がったそうです。もっともトマトジュースにはカリウムも大量に含まれていますからどちらが効いたのかはわかりませんし、まだ詳細なメカニズムも解明されてはいないようですが、試してみる価値はありそうです。被験者の数は15名でした。

こちらがその論文
https://www.nagoya-bunri.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2022/03/2007_01.pdf


貧血

貧血が原因でHbA1cが上がる場合があるので、貧血を改善することで血糖値改善の可能性があります。貧血に関連する栄養素は下図以外にも亜鉛・モリブデンがあります。

赤血球新生の材料 『目でみるからだのメカニズム』より


『治療2003Vol.85 貧血に対する栄養アプローチ』より


また、過度の飲酒で血中のアセトアルデヒド濃度が高まると、骨髄がダメージを受けて白血球が減少したり貧血が起こったりしますので、貧血気味の人はお酒の量にも要注意です。



番外編 

運動🏃筋肉量💪食べ方を変える🍚睡眠💤



運動

グルコースを細胞の外から細胞の中へ輸送するGLUT(グルコース輸送体)はインスリンでも反応しますが、筋肉の収縮によっても同様に反応して血液中のグルコースを細胞内に取り込みます。また、骨格筋に分布している毛細血管は特別な性質を持っていて、運動をしていない静止した状態では血管のわずか四分の一程度にしか血液が流れないようになっています。動くことで血流が増え、代謝が活発になり、高かった血糖値が下がるのです。糖尿病の患者さんに運動が勧められる所以です。


筋肉量

過半のグルコースは筋肉中にグリコーゲンとして蓄えられます。したがってもし筋肉量が増えれば、その分グルコースの行き先が増えることになるので血糖値が上がりにくくなります。


食べ方を変える

食後の血糖値の上昇を、四種類の食事で比較するという研究があります。

  • ご飯だけ単独に食べる 338kcal

  • ご飯とタンパク質が豊富なおかずを一緒に食べる    486kcal

  • ご飯とタンパク質と脂質が豊富なおかずを一緒に食べる  573kcal

  • 三番目の食事に野菜を加える    604kcal

結果はカロリーが一番高いにも関わらず、四番目のご飯とタンパク質、脂質、野菜のコンビネーションがもっとも食後の血糖値の上昇が低いものとなりました。


また別の研究ですが、食べる順番を主食であるご飯を先に食べてからおかずの肉や魚を食べるのではなく、まずはおかずの肉・魚を食べてから主食のご飯を食べるという順にした方が血糖値が上がりにくいことがわかりました。

これらの知見を組み合わせると、食事の際にはまず肉や魚や野菜などのおかずから先に食べ、まだ足りないようなら主食のご飯やパンやパスタなどを食べることにすれば食後の血糖値の急騰を抑えることができます。


睡眠

数多くの研究から、睡眠が不足するとインスリン抵抗性が高まるとの報告があります。例えば、シカゴ大学の研究者が行った実験によると、成人男性に対して睡眠時間を一日4時間に制限し、それを一週間続けると、朝の血糖値が高くなり、インスリンの分泌が少なくなったそうです。さらに通常ならば減少するはずの夕方からのコルチゾールの分泌が低下せず、交感神経が緊張状態になり、インフルエンザのワクチン接種後の抗体産生が悪くなるなどの影響も生じたとのこと。なお、この状態を放置したままでいると、2型糖尿病、循環器疾患、認知症へと進んでしまう可能性が高まるとの報告もありますので、食事、運動も大事ですが、睡眠のことも忘れずに!



いずれを試してみても効なき場合


もはや栄養の不足を疑うよりも、糖質の過剰を心配した方がいいかもしれません。糖質制限という方法があります。そもそも血糖値を上げる食べ物は糖質だけなので、精製された炭水化物(白いご飯や食パン、砂糖等)を日々の食生活から減らしていくという考え方です。タンパク質や脂質はいくら食べても血糖値を上げませんので、主食であるご飯やパンや麺類などを減らし、その分タンパク質と脂質を増やすような形になります。実行すると本当に血糖値は上がらないようになるので結構なのですが、エンゲル係数は確実に上がるのが残念なところです。


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