日本沈没外伝-希望の跡-

地震学者の田所の予言通りに関東地方が沈没に見舞われた、その夏。

水没したタウシュベツ川橋梁を、東山は窓から眺める。しかし、目には入ってこない。我に返ると、窓際に立っている自分に気づく。

アイヌ語タッタ・ニ・ペッから由来するタウシュベツ。道東とはいえ、北海道のほぼ中央に位置する。

首相官邸をそこに移転するのを決めたのは、東山首相だった。

標高が高く雄大な自然環境。総貯水容量が豊かな糠平ダムが近くにあり、十勝川周辺屈指の水力発電を誇る糠平発電所もある。だから、移転先候補の一つに挙げられた。

東山はつぶやいた。「苦渋の決断が続くな…」

足音が響く。白瀬が駆け込む。農林水産省の官僚。

白瀬「首相。糠平への国民受け入れについて、農水省の要項案がまとまりました」
東山「資料にはあとで目を通す。かいつまんで説明してくれ」
白瀬「選りすぐりの精鋭国民に加えて、一般国民も3万人を受け入れる考えになります」
東山「3万人もか?」
白瀬「はい、ここ上士幌町の人口は、過去の人口が1万4千人だったことがあります。無理な数字ではないとのことです」
東山「そうか。他には?」
白瀬「業種職種と年齢層に幅を持たせるだけでなく、様々な障害者も20パーセントを受け入れるという話です」
東山「障害者?」
白瀬「今後も障害者は絶えないでしょう。遺伝的多様性だけでなく、中長期的に考えて、様々な無形文化遺産を遺します。たとえば、これから生まれてくる聞こえない子どもには手話が必要といった意見が出ました」
東山「3万人とはいえ、少なすぎるくらいだ。ややもすれば、近親が生まれるだろうからな」
白瀬「ええ、おっしゃるとおりです」
東山「わかった。すでに経産省と環境省からも要項案が出ている。常盤と天海にも伝えて調整してくれたまえ」
白瀬「かしこまりました。それでは、失礼いたします」

(続きは無し…w

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?