手軽で強すぎる凶器

ニトロちゃんは必ず、道路にある石を踏んで歩きます
なぜならそれが「ニトロちゃんのルール」だから
そして学校の前にある文房具店に入り店にある「匂い消しゴム」を全種類嗅いでから登校します
こうしないと気持ちよく学校に行けないからです。

ニトロちゃん:みんなと違う、発達障害の私
沖田×華(光文社知恵の森文庫)

「何かをしてからじゃないと、満足して行動に移せない」という特性を持った子供は実際いる。

先ほど引用した内容と、ほぼ同じような子は一定数いる。そのまま匂い消しゴムで例えると、「もう学校遅刻しちゃうよ」と匂い消しゴムを取り上げようものなら、たちまちその場で暴れてしまい、現場は惨事となる。物はメチャクチャになる上に、結局学校は遅刻になる。

なのでこちらとしては、ひたすらにその子の大切な作業を見守る他ない。「遅刻しないように匂い消しゴムの数減らすことはできる?」と尋ねると、「うん!」と答えてくれるが、結局は全種類試すまで全く収まる様子はない。

無理矢理引っ張ってその場から離そうと、荒療治に走る大人もいる。想像通り、結果は逆効果で道路に座り込み、解読不能な独り言を発しながらその場を動かなくなる。

難しいのは、「匂い消しゴム嗅ぐの楽しかった?」など、行為に対して肯定的な様子を見せても、それはそれで面倒になったりする(先述した無理矢理引っ張るなどよりずっとマシだが)。

場合によっては「匂い消しゴムなんかで遊んでも楽しいわけないじゃん、何言ってんの?」のような態度で返ってきたりもする。じゃあさっきまでやってたあの行動は何なんだよ、と言いたくもなるが、ソレとコレはまるで違う世界の話らしい。

拙い経験の自分が導いた結論としては、強く否定も肯定もしないというのが、一番の近道なような気がしている。不思議なことに、ある程度時が経つと、その習性が自然と失われ、何事もなくその後を過ごしたりもする。

ただ、自発的にそのルーティンを終了する場合が一つだけある。
その行動を同年代にバカにされた時だ。

「またやってるよw」などのクスクス声が聞こえた途端、悲しそうな顔(正確にいうと、聞こえてないフリをしているようなぎこちない真顔)をして作業を止め学校へ向かう。

ADHDでもASDでもLDでもHSPでも知能障害でも、そんなの関係なく、他人からの悪意は容易に伝わる。そしてその手軽さにも関わらず、大人達があらゆる手を尽くしても動かないような子供を簡単に変化させる。悪意は簡単なクセに強すぎる。

人間をぐちゃぐちゃの形にできる凶器を携えていることに自覚的になった方がいい。そして、悪意に対して善意というのは手間が多い割に効果は小さいような気がする。ただそれは善意をしない意味には間違いなくならないのだけど。

見てくださってありがとうございます。気の向くままにやっておりますが、どこか、何かの形で届けばいいなと考えています。