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自作詩『足こぎボート』

自作詩『足こぎボート』

山の麓の池のほとりで
水がチャプチャプゆれている
遠くの方を白い足こぎボートが
ゆっくりとすべっていくのが見える

漕手のお爺さんの隣には
男の子が座っていて
ちいさな頭をフリフリさせて
あたりを見まわしている

透き通る青い空に
鳥の影が吹きあがり
山の木々はかすかに揺れて
冬の風を呼んでいる
午後三時の日差しが
忘れた夏の炭酸水のように
キラキラとして

行くあてもなく足こぎボートは
時間の中を漂う

 ずっと前から知っていたのだ
 今日の日の楽しさを
 足こぎボートに乗ることを
 
 知っていたのだ
 おおきな風に包まれることを
 まるい水が跳ね回ることを
 ちいさな夕日が降りそそぐことを

 ずっと知っていたのだ
 こんな風景があったことを
 世界が美しく揺れていたことを
 ずっと昔からしっていたのだ
 
チャプチャプと水が
足こぎボートのまわりでゆれている

二人の影は静かに流れて
どこか遠い昔の
乾いた地面に座っている

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