自作詩『忘れゆくこと』
『忘れゆくこと』
生まれてみると
たくさんのことがあった
何もかもが大きかった
幼稚園の中庭では
ブランコに揺れる巨人の影が怖かった
園舎の階段はそびえ立つ壁のようで
足を精一杯ふりあげてのぼった
大人用のイスに坐っては足をプラプラ遊ばせて
鼻歌まじりに思いつくままおしゃべりをした
口いっぱいにリンゴもほおばった
そうしてイスから落ちて泣いた
泣き顔はうそ泣きになって笑顔になった
いいこともなかった
わるいこともなかった
いつか忘れゆく思い出だけがあった
忘れられたものたちは
土の湿り気や
水面のきらめきや
月の冷たさや
雪のしずけさが
おぼえていてくれるのだから
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