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自作詩『通り過ぎた場所』

自作詩『通り過ぎた場所』

子どものころは
半径数メートルが
私のすべてだった
ちいさな場所に世界が溢れて
毎日を過ごしていた

通学路では遊びを見つけて歩いた
道草の黄色いたんぽぽは
別のたんぽぽを探す原動力となった
「この道はどこまでも続いている」
などとは思いもせず
道ばたに現れる黄色い花を
ただおもしろがっていた
私にとってそこは「道」ではなく
遊びの「場所」だった

大人になるにつれて
その「場所」の先にある
別の場所を求めるようになっていった
そうして道は伸びていった

そしていつしか
道はただの通過点になっていた
目的地へ着くことだけが大事とされて
世の中の声に急かされるままに
足早に通り過ぎていき
道ばたの花も見えなくなった――

ひさしぶりに
かつての通学路を歩いてみても
黄色い花は見つからなかったが
背の低い雑草が風に吹かれていた

その風の行く先の
道の終わる場所で
子どもたちのちいさな世界が
陽炎のようにゆらめいている

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