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史上最高のアニメ『キルラキル』、その第一話を多角的に掘り下げる 〜アバン解説【第二回】〜

こんにちは、しおめっしです。おかげさまで多くの人に読んでいただき嬉しい限りです。ちなみに感想もらえるともっと嬉しい。というわけで今回は前回に引き続きキルラキル第一話のアバン解説【第二回】スタートです。

おさらい

まずは前回のおさらいから。

前回、キルラキルの特徴は尺に対して膨大な情報量を詰め込むことであるとしたうえで、その手法として構図カメラワークエフェクトが用いられていたことを分析しました。

①0'00" テロップと先生の声。2年甲組は授業中のようだ
②0'20" 蟇郡がド派手に突入、先生平伏。”牙むく者”がいるらしい
③1'07" 何かを胸に抱える生徒が逃亡。しかし不敵な笑い声と不気味な気配
④1'16" 逃げた先には蟇郡がいた。生徒は投げ飛ばされボコボコに
⑤1'30" 盗み出したのは”一つ星極制服”だった!促され着用し、効果を実感
⑥2'01" 思い切りパンチをするも蟇郡は”三つ星”。瞬殺、制服も剥がされる
⑦2'55" 蟇郡が生徒へ宣言、生徒会長鬼龍院皐月について言及
⑧3'10" 後光が強まる中、皐月様が登場。「敬礼〜〜〜!」
⑨3'31" 靴を鳴らして名演説「服を着た豚ども!その真実に屈服せよ!」
⑩3'50" カメラ高速かつ立体的動きで引きながらテロップ、流子に向かう
⑪4'11" 正面向きテロップ。見上げて「これが〜」、タイトルへ

今回はこの表の③から同じように”画”で見つつお話についても言及していきます。

③いい意味で古い、その手法について

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いきなりですが鈴木って誰という話なんですよね。この子です。「このモブ面白いよなあ」くらいにしか認識してなかったのですが、この項をまとめるにあたりもう一度公式ガイドを読んだら上記のように彼は鈴木くんというそうです。

しかしまだなにかひっかかる。他に当たれるものはないかと探した結果なんと!movicから出ている設定資料では”スパイ生徒”だった... 

つまり整理すると、本編作業の段階ではやっぱり名前はなかったんじゃないかと推測できるんですよね。ガイドをまとめるにあたりただの無星と区別するため、あるいはその本編での働きっぷりを讃えて晴れて名前を賜るに至ったみたいな筋書きとか。にしても名前が”鈴木”って声優の名字じゃないか、これでいいのかと突っ込みたくはなりますが。

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閑話休題。場面は鈴木が立ち上がり煙幕を貼るところから... ってちょっと待った鈴木、机にチラっと見えるそれはなんだ。

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袋とじでしょうか?ご丁寧に切り抜いて教科書に貼っている。そりゃ後ろの生徒もそんな顔になります、風紀部相手ですし。

鈴木はそこまでして授業中にヌード写真を見たかったのか、あるいは裸であのラストを迎えるという伏線...? 流石に深読みしすぎかもしれません。しかし鈴木くんポテンシャルありすぎじゃないか、そしてスタッフさん遊び心溢れすぎじゃないかという発見でした。

そしてこのシーンで既にマコが登場していることも注目です。肌もモブ生徒より一段明るく強調してあり、この時点でなにかこのキャラはするであろうことを悟らせます。ここでわかりやすく居眠りしている様子を見せることで、次の登場シーンで又郎を懲らしめる姉としての姿がすんなり入り、実はしっかり者なんだという印象を強めているのです。また、その後の「ノレタ!ノレタヨ―!!!」でさらに視聴者に揺さぶりをかける上手さが光っています。

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では次のカットについて解説したいと思います。前回キルラキルの特徴は情報量と言いましたが、このカットではその特徴と同じくらい重要なエッセンスが含まれていることにお気づきでしょうか。

このカット、ほぼ鈴木しか動いていないんです。カメラも蟇郡らもモブも動かない。後ろにモヤが流れ、鈴木がゆっくり上にスライドしながら腕が回転し、一瞬の爆発のエフェクトと画面動のみ。一応前後のモブが表情を変えるけど。

なんと単純な画だろう。しかしこれ以上ないくらいわかりやすいではありませんか。そう、この単純さこそが重要なのです。構図の手前・奥で力関係を示した固定カメラのカット。情報の引き算でわかりやすく伝えるという素晴らしさがこのカットに如実に現れています。鈴木がビビりながらタメを作って一瞬で爆発させるという緩急にもつながっています。また、ここでもマコは見せたい対象であるため動かなくても色が違っているのも見逃せません。

気合を入れた鈴木の主観時間としてのスローな動き、それに全く動じない蟇郡の強さも短く表現されています。

ここで腕を大写しにしたりカメラが動くようになってくると、シーンとして重みや意味が変わってきてしまうんですよね。このさじ加減が今石監督の演出の得意分野であり、真骨頂であります。実写に比べより画面の引き算ができるアニメという媒体の使い方、アニメでしかできないデフォルメが非常に効果的と言えます。

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こちらはキルラキルと同じ今石監督がコンテ回のフリクリ5話。ハル子に怒って駆け上がるもその姿に照れて固まるナオ太の視線やテンションの落差を、少ない枚数でテンポ良くわかりやすく見せています。

このようなカットの使い方のメリットとしてわかりやすさテンポ以外にもう一つ大事な要素があります。それは作業量です。悪く言ってしまえば手抜きともいえますが、しかしこういう省力化というのは実際大変な強みです。それは単に画を止めることではなく、少ない枚数を効果的に動いてるように見せるということ。現代のアニメが盛る方向に進んでいる中で、省力化の美学は忘れ去られようとしています。逆説的にこういう粋な抜き方ができる監督の技量というのは推して知るべしといったところでしょう。

フルアニメーションの場合、基本的にひとつのキャラクターを動かすときは全身を動かしますが、日本式リミテッドアニメーションの場合は、できるだけバストショットを映したり、体を止めにして頭だけとか手だけを動かすという形にして、各パーツごとを部分的に動かしたりする方法を採ります。これは単なる省力化や経済的な効果を最大化したものなのです。1960年代のアメリカで始まった本来のリミテッド・アニメーションとは“様式”を表現するためのものでした。派生的に経済効果があったが、どちらも狙っていたものではあったのですが。
(中略)
様式というのは、歌舞伎の「弁慶の六方」のようなものです。本来だったら走るところを舞台という空間の制約上、走れないから演者は跳ぶことで表現する。そして見る側もその“様式”が何を意味するかを読み解くことを楽しみとします。そういう様式を作るアイディアと、どう表現するかがリミテッドアニメーションの醍醐味なのです。そうしたことは写実的なフルアニメーションでは起こりえません。

これは月岡貞夫さんという日本アニメ界を黎明期から支えている方のインタビュー記事からの抜粋。リミテッド・アニメーションが様式としての隆盛とその後について語っていて非常に参考になると思います。

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そして一度は見たことがあるであろう、鉄腕アトムから抜粋したシーン。日本アニメの黎明期から省力化が意識されていることが見て取れると思います。

日本のアニメーションの歴史を一変させた手塚治虫の金字塔のひとつです。日本最初の長編テレビ用連続アニメとして制作されたこの作品が、現在にまで至る、日本のアニメ文化隆盛の礎を築きました。また同時にこの『アトム』の成功によって、アニメは低予算で作っても儲かる、というテレビ局の認識を生んでしまい、現在にまで至る、アニメーターたちが低賃金で殺人的スケジュールに追われる、というマイナスの現実も産み落とすこととなったのですが、『アトム』当時は「安く作るから、とにかく作らせてくれ」という作品を世に送り出したい切実な気持ちがなければ、とてもじゃないけれど「連続アニメ」などに関心を持ってくれるスポンサーはいなかったのです。

上記の引用は鉄腕アトムの紹介にあったものです。必ずしもいい面ばかりだとは言えませんが、しかしこのリミテッド・アニメーションの手法は今日のアニメーションに多大な影響を与えているのです。

このようにアニメの歴史をかいつまんで振り返ってきた上でキルラキルについて戻ってみると、リミテッド・アニメーションの血をいい意味で受け継いでいることがわかると思います。伝統的のリミテッド・アニメーションの様式美を引き継いでいるということが、キルラキルが私達に与える懐かしさと奥行きの、絵柄や色合いに加えたもう一つ正体ではないでしょうか。

ちなみに今石監督本人は「あるときは暴力的に攻め、あるときは戦略的撤退をするという庵野監督のスタイルとアニメーターイズムで絵づくりに凝るという鶴巻監督のスタイルを継承しているつもり」とした上で、コスト的にも「最初から戦略的撤退のルートを示さないといけなかった」と述べています。具体的には「止メやスライドを多用しつつも、レイアウトを決め込んでテンションの落ちない画面をつくろうと思った」とのことで、キルラキルに派手なシーンの連続する印象を抱いていた方は"如何にキルラキルが省力化に注力しつつ効果的に見せたか"という視点で見るのも面白いかもしれません。

長くなりましたがその次。廊下のカットの爆発テンポよく手前に来て気持ちいい。そして階段を逃走するシーン、逃げられるかという期待を1秒で裏切るように聞こえる声と舞う蟇郡。右上から左下に駆け下りるさまは前回紹介した下手上手の考え方に則ればまさに負けコース。鈴木の逃走が叶わないことをこれでもかってくらいわかりやすく提示しています。極めつけの一瞬タメてドア正面に立ちはだかっているという完璧さ。蟇郡の強さや存在感に期待が高まる演出ともいえます。

④カメラワークは語る

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さて、やっとこさ校舎から出ていよいよ蟇郡のターン。上手下手の考え方はここでもわかりやすさを与えてくれます。

開始時と終了時、左右が入れ替わっていることにお気づきでしょうか。CGを使ってワンカットで鈴木を追うカメラが途中で鈴木を回り込み、自然に表現しています。

この位置関係の変化が一瞬にして逃亡に失敗しボロボロになった鈴木の現状、そして校舎を背景に学園を背負う風紀部としての蟇郡を雄弁に物語ります。

本記事で何度か使用した緩急のテンポはこのアクションにも見られます。確かにこのアクションはド派手ですが、前後のカットは固まったカットになっています。この短いシークエンスにも緩急のカット割りがなされていることでアクションはより派手に、その後の止メは力強い印象を醸し出すのです。

まとめ

今回見られたキルラキルの新たな特徴として、以下のものが見られました。

デフォルメやスライドなど古典的手法を用いて画面内の情報量を減らすことで、映像的なメリハリをつけ、さらに省力化も図った

次回予告

いかがでしたか?前回より話は進みましたが、今回進んだのはなんと30秒のみ。やっぱりキルラキルは噛めば噛むほど味が出ますね。

さて次回はアバン解説【第三回】、いよいよ極制服の存在が明らかになります。

前回頂いた感想のなかに、新中野フラッシュの項だけで一本書けるというものがありました。たしかに長すぎたかなとは思っていました... ということで今回は分量を少なくしてみました。またご意見ご感想お待ちしています。

というわけでこの辺で。ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

次回↓


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