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史上最高のアニメ『キルラキル』、その第一話を多角的に掘り下げる 〜アバン解説【第三回】〜

こんにちは、しおめっしです。前回は思ったより長くなったのですがお楽しみいただけたでしょうか。少し硬派になってしまったなと自戒しております。今回はブリーチについて触れつつ掘り下げます。それでは第三回、スタートです。

おさらい

まずは前回のおさらいから。

前回は、古典的手法を用いて画面内の情報量を減らすことで、映像的なメリハリをつけ、さらに省力化も図ったことを分析しました。

①0'00" テロップと先生の声。2年甲組は授業中のようだ
②0'20" 蟇郡がド派手に突入、先生平伏。”牙むく者”がいるらしい
③1'07" 何かを胸に抱える生徒が逃亡。しかし不敵な笑い声と不気味な気配
④1'16" 逃げた先には蟇郡がいた。生徒は投げ飛ばされボコボコに
⑤1'30" 盗み出したのは”一つ星極制服”だった!促され着用し、効果を実感
⑥2'01" 思い切りパンチをするも蟇郡は”三つ星”。瞬殺、制服も剥がされる
⑦2'55" 蟇郡が生徒へ宣言、生徒会長鬼龍院皐月について言及

⑧3'10" 後光が強まる中、皐月様が登場。「敬礼〜〜〜!」
⑨3'31" 靴を鳴らして名演説「服を着た豚ども!その真実に屈服せよ!」
⑩3'50" カメラ高速かつ立体的動きで引きながらテロップ、流子に向かう
⑪4'11" 正面向きテロップ。見上げて「これが〜」、タイトルへ
今回はこの表の③から同じように”画”で見つつお話についても言及していきます。

今回はいよいよ極制服登場。その説明の上手さに焦点を当てながら、分析していきます。

⑤⑥説明台詞の対極、視覚化された説明

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"Show, don't tell"という言葉があります。語らずに見せるべし、というのは説明台詞問題を端的に表わしています。そもそもフィクションには説明が必須ですが、その説明がヘタクソだと観客は冷めてしまう。そのヒントとなる金言でしょう。

キルラキルはシリーズを通してこの情報の出し方が上手ですが、このシーンはまさにその典型と言えるでしょう。

この⑤-⑥シーンにおける目的は2つ。

1. 極制服の説明と皐月の存在の提示
2.   緊張感を上げていくハイテンポかつダイナミックなアクション
3.   あくまで皐月様の前座である

この2つの目的を高い水準で実現するために、どのような工夫がなされているのかを見ていきましょう。

まずそもそもの発端であるなぜこの事態になったのか、その説明として「極制服を盗んだ」と蟇郡が見抜きます。視聴者の疑問が1個晴れたものの、新たな疑問が生まれます。そう、極制服ってなんでしょうという疑問。

その解答は間髪入れずに追い詰められたはずの鈴木に着用させることで解消します。見てくれが細身のイケメンに変化し、素早く動き回る。そうか、あの鈴木くんがこんなにかっこよく俊敏に動き回れるようになるのがこの服の力であると見せつけます。

しかし蟇郡はそんな余裕かましていていいのか...そんな疑問を抱かせた瞬間、鈴木のパンチは蟇郡に真正面から炸裂します。

このことから、飽きさせずにハイテンポで情報を提示するために超高速で疑問の提示と回収のサイクルを回し続けているという工夫を読み取ることができます。

例えばキルラキルの導入が極制服についてのナレーションから入った場合を想像してみてください。きっとそれは退屈な導入になり、物語に入り込みづらくなります。画としても動きのあるものにはならないでしょう。

このサイクルは⑥でも引き続き行われます。なぜ効かないのか、一瞬見えたあの女は、そして生徒会長とは何なのか。これら疑問を束ね上げ、皐月の登場シーンのあの名セリフへとぶち上げていく道筋が見えてくるのです。

テンションをあげていくのは映像も同じ。最小限の尺とカメラワークで鈴木の見せ場を用意した後に一回"ハーモニー"で止めてタメを作り、鈴木の敗北と絶望を効果的に見せます。その後は先程よりさらに一段上げたテンポ、そしてダイナミックにカメラを動かしつつ一瞬だけ皐月を見せる。このとき見下ろす視点で見下ろす皐月を映すことは、蟇郡よりさらに上位の存在がいることを示唆します。その間台詞を裏で聞かせテンポを落とさないのも地味ながら効いています。

(一方でなぜ彼が盗んだのか、神戸とは何を意味しているのかという疑問にはあえて触れないのも魅力の一つ。これを読んでいるあなたならきっと2周目にキルラキルを見たとき、このシーンで興奮したはずです。わからなくても話は面白いけど、わかるともっと面白くなるように作られています)

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そして多くの人が笑ったであろう、脱がせてから制服をポンポンと払う場面。これが"Show, don't tell"の極致だと私は見ています。なぜ笑えるのか。それはゴツい脳筋そうな見た目をして、あの一瞬できれいに畳んだギャップであります。しかし考えてみれば風紀部のそれもトップたる部長、なるほどという着地点でもあります。見た目とのギャップで興味を引きつつ、風紀部たるその精神性も表現するのは、まさに”見せる”演出に他なりません。

付け加えるなら、これはもはや”言って””見せて””読ませる”という全ての説明を同時かつ瞬時に行っているとも言えます。

何を着ているかわからないまま戦闘シーンを見せられるわけでもなければ、わざわざご丁寧に説明のため一旦手を止めるわけではない。しかし同時進行で全て行えばどれかで引っかかり伝わる。これがわかりやすさの正体ではないか、とも考えられます。

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一例を挙げます。ヘッダーに使用したニコニコ動画のコメントに頻出するブリーチとの比較は、まさに情報を小出しにして引きずる作劇との対称性を、端的に表してる好例だと思えます。

ブリーチ第一話は”死神になっちゃった日”という題名のとおり、主人公の黒崎一護がルキアに出会い、死神の能力に目覚め初めて”虚”を退治するまでを描きます。原作も展開は同じで題名は『Death & Strawberry』。

とても面白いのですが、比べてみるとたしかに展開のスピードに差がある事がわかります。

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こちらは13分頃から始まる説明シーン。長いので4倍速。たかだか一つのことを説明するのに”短慮なガキ”扱いされたのは一護ではなく視聴者のこと。

懇切丁寧に図解した後に、飽きぬようギャグを挟んで次のシーンに向かうのは、悪く言えばナメられています。

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こちらは漫画のほうが効果的と判断したシーン。内容はアニメと大体同じですが裏で主人公が叫んでいます。

これは漫画あるあるですが、モノローグでよく喋ります。心情や説明をすることが容易で多用されますが、テンポが一回途切れる上に芝居に空白が生まれます。それが漫画であるなら読む速度が読者ごとに異なるので気にならない場合が多いのですが、こと映像となると話は別。

映像でこれを行うと、その間作中の時間はスローか静止状態になり間延びします。多用すれば無限に伸びていきます。同様の手法に回想が挙げられます。ここまで言えばお気づきかと思います。ブリーチがテンポが悪いのはそういう時間が止まる演出が多く、かつそれを映像化でスルーしがであるためです。

最近でいうと鬼滅の刃もその例に漏れません。モノローグを多用し漫画としてのわかりやすさを追求したものの、それをそっくりそのまま映像化したせいでテンポが落ちる最たる例でしょう(悪いことばかりではありません。本来のターゲットである小中学生に対してはむしろ適切な配慮であり、この指摘は野暮とも言えます)。

裏を返せば、テンポが売りのキルラキルにはあまり見られない。直接的に語らず、映像で見せる。こういう配慮がキルラキルをキルラキル足らしめると言えるでしょう。


⑦壮大な前座の引き、そして

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先程までの強い音楽が静まり、間髪入れず「聞けぇ〜〜いっ!!!」。

何だ何だと思えば規律とは真面目なことで...とそのとき、知らない名前が聞こえるわけです。これだけ蟇郡を持ち上げといて、彼が"様”付けで呼ぶとは一体そんな存在か。ここでも疑問を提示します。その疑問と並行するかのように差し込む光。なぜ急に。そして全ての疑問が収束するかのように、眩しさが頂点に達し、光とともに鬼龍院皐月は姿を現すのです。

ここまでの一連の流れで蟇郡を上げておきながら、前座として消化してしまうあたり、キルラキルのカロリーの高さが伺えます。

今石監督の作品の多くに共通する展開としてざっくり以下のようになります。

序盤:ラスボスじゃないかというくらい圧倒的存在が現れる
中盤:「あれ?もっと背後にすごいヤツいるじゃねえか」と驚かせる
終盤:宇宙規模の話になりつつ、大団円で終わらせる

この構造のすごいところはわかっているのにそれでも驚かされること。

そしてそれを可能にしているのは、そのような予想を視聴者にさせる暇を与えまいと大量の情報と力強い画面力で引き込むところに起因していると見ています。

このシーンはまさにその仕掛けの一つともいえます。たった3分に蟇郡の強さを凝縮し、その密度で作中における彼の立ち位置を絶対的に認知させます。そのうえで蟇郡を超える何者かのシルエットを仕込んでおくことで、このとき皐月のことを詳細に語らずとも、オーラのみで彼女の存在感は相対的にさらに上として描けているのでしょう。

まとめ

超短期間で疑問と回収を繰り返すことで、冗長になるのを回避しつつ大量の情報を見せてわかりやすく提示している
モノローグや説明タイムに頼らず、映像によってわかりやすく説明しテンポを維持している
皐月という存在は、蟇郡のことを持ち上げ続ける演出とそれを見下ろすことによって「あの蟇郡よりも上位の存在である」と瞬時に示した

次回予告

さて、いよいよ3分を過ぎて次回は皐月様と流子が登場します。ここまで長かった...しかし、だからこそわかることもあるというもの。あと90秒、最後までお付き合いください。

いつもみなさん感想ありがとうございます。励みにしております。

それではまた次回お会いしましょう。

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